波にゆられ

@Satojiro

第1話

しんと静まり返った広い教室。外は太陽の光に溶かし切れなかった雪が柔らかく少しずつ積もっていく。僕は外を眺めながら、陽だまりに当たって眠くなっていた。試験官の声が鳴り響く。

「はじめ!」

ゆっくりとページをめくり、全体に目を通した。まずは、漢文から、そして随筆へ。解けそうな問題から目を通す。なんだこの随筆は…。緊張と寒さが体を強張らせる。落ち着け、そう言い聞かせてみるはものの、まわりのカリカリという音がまた僕を氷のように固めていく。

「やめ!」

このセンター試験は2度目だ。緊張などしないものだと思っていた。浪人の間、俺は何をしてたんだ。そう頭に浮かんで消えなかった。2日目の理系科目は、ある程度できたが、結局行きたかった医学部にはセンター試験で明らかに足切りレベルだった。サクッサクッと雪を踏みしめ、浪人時代の友達とともに4人で帰った。沈黙の中4人で歩きながら、今1番聞きたくなかった言葉が胸に刺さった。

「中本君どうだった?」

高校から仲の良かった浦西京子だ。

浦西京子は同じ部活のバスケ部のマネージャーで、いつも僕がミスをしたとき慰めてくれた、とてもいい子だ。

「うーん、まあまあかな?」

僕は苦笑いをしながら、嘘をついた。

「さすが中本君だね!浪人時代すごく頑張ってたもんね!」

「頑張ってねーよ」

そう心の奥でつぶやき、僕はただ微笑んだ。もう何も楽しくないんだ、これから何も楽しいことなんて待っていない。そう絶望をこれからの未来に感じていた。

まだこれから起こることを何も知らぬまま、雪が降ることのない世界が待っていることを知らぬまま。

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