生態脳・バイオ・マシン

 人間の脳は、無数の箱の集まりだと言われる。

 その箱にあるデータを無数の神経経路が即座に情報をインデックス化し、ブロックごとにアッセンブリをする。そしてその情報を口と声帯を使い声として相手に告げる。又は手ぶりや、文字を書くことでその情報を出す。つまり、人間は入ってきた情報を即座に処理をして、その情報を伝えるために同時に体を動かすと言った処理を行えるスーパーマシンだ。

 独立的にその処理を物理的なコンピューターでスムーズに処理するのは不可能な事だ。そう今から四十年前の、プロセッサーを使ったコンピューターでは。


 二千三十年、今まで汎用化されていたプロセッサーの概念が崩れた。ある科学者が、生きたコンピューターを開発したからだ。

 AIと言う概念もこの時脱ぎ捨てられた。人間の脳の様に独自の神経回路を持ち、そのパターンを信号化することにより結果をはじき出す。

0か1と言うAND,NOTと言うものではない。まして人体の脳をデータ化した考え方でもない。

つまりは人の脳を人工的に作り上げたと言っても過言ではないだろう。人工知能いわゆるAIは自分に与えられた情報に対して処理を行いその結果を吐き出す。しかしこのシステムは独自に情報を共有し、自らその成長を促進させることが出来た。人間の脳は生まれたての頃は情報量は少ない。母親の胎内にいた情報のみ、いわば隔離された状態での情報しか伝達されていない。だから生まれたての人間は言葉を発することも出来ない。もっともその生態能力がまだ未熟であると言う事もいえるが……

だが実際、人間の脳は母親から切り離され、独自の体として存在することにより急速にその情報処理能力を高める。しかしそれを自分の体を使い、相手にその意思を伝えられるようになるまでには数年の時間が必要だ。これも成長と言う言葉で表す事にすれば我々は理解できるだろう。

成長、つまりは体全体の管理も脳は行っている。もし、その生態管理をしなくてもいいとした場合、自分のこの脳だけを成長をさせればいいとした場合。その能力は加速度的に発達をするだろう。


このマシンは生態脳だけを持つ生きたマシンだ。


 生きたコンピューター? いやもはやコンピューターと言う言葉は過去の言葉だろう。生きた脳と同等の生態機構を持つ機械、つまりはバイオマシンということになる。そのマシンの処理能力は、当時で人間の脳の三十分さんじゅうぶんの一とされていた。だが、そのマシンは使用することにより、自らその処理能力を増殖させ、そのコアである言わば脳を成長させる事が出来ていた。

 そう、成長するマシンだ。一般に公開していれば、今頃はその学者もノーベル賞を手にしていた事は言うまでもないだろう。

 だが、そのバイオマシンは、世に出ることはなかった。

 その科学者は、自ら開発したバイオマシンを使い、を行うよう指示した。


 現人類では、解く事の出来ないを。


 バイオマシンはその数式の演算を行う。当時の外部からの情報収集にはインターネットと言う網の目にめぐらかされた、非合理なインターフェイスで構成されてる経路をたどり、情報収集を行うしか手段がなかった。世界各地に散らばる個々のサーバーを一つ一つ細かくアクセスし情報を収集していた。

 セキュリティー保護されたサーバーへのアクセスは、このバイオマシンにとっては何ら問題もなかった。

 某国の国防総省、通称ペンタ…… この機密情報へのアクセスも物の身ごとにやってのけていた。あの、何十にもめぐらされた当時、最高高度のセキュリティ・ファイアウォールをたった三万六千秒で破ってしまった。


 通常ならば、一人の人生をかけても無理なものを。

 

 この頃になると、バイオマシンは、自分でその状況を判断し、的確な方法を選びそれを実行するまでになっていた。そう、あの国防総省へアクセスした際に、すでに自分をこのシステムの最高権限者である様に仕向け、その痕跡、いわゆるログさえ残さずに自由にシステムのなかを歩けるようにさえしていた。

 そして一年後、バイオマシンはあの科学者が求めた、あのの答えをはじき出した。


 その答えを受けたあの科学者は、驚愕した。

 

 なぜなら、バイオマシンが出した数式の答えが、今まで人類が持ち備えていた物理の法則を、根本からくつがえしたからだ。 

 そう我々は、今まである法則が真実だと信じていた。だがそれは、人類をごまかすために仕組まれた、偽りの法則だった。

 科学者は、バイオマシンがはじき出した答えの過程を考査した。

 今現在、自分が持ち備えている物理の法則と相対しながら。

 その後、彼はある結論を定義した。

 

 人類に定義された物理の法則は、この地球、いや空間に存在するために必要とされていた定義だと。つまり我々人類はこの時空間に留まるよう仕組まれ、その空間に適応するようにゲノム情報を創り上げられていたことを。

 そして彼は、偽の法則の定義を考えた。

 もし、我々人類に、その創りあげられた法則が初めからなかったとしたら…… 人類はどうなっていたかを。だが、彼の頭の中では、その答えを立証し定義として位置付ける事は、無理だった。

 なぜなら、彼のゲノム情報もすでにこの空間に適するように、プログラムされていたのだから。

 我々人類は、その真実を知る必要が無いと。

  

 科学者は、あのバイオマシンを一般に公表するのをやめた。それは、この人類を守るために必要な事と考えたからだ。

 後に、彼はまた新たな疑問をもった。

 なぜ、この数式が古くから存在していたのか。『レガシィ・オブ・フォーミュラ・遺産の数式』として語り継がれていたことを。

 その事を知る事が、人類のブロックされているゲノム情報を開放するカギになるのではないかと。彼は、その疑問を追及するために、三人の協力者と共にラボを立ち上げた。


 それが、今、僕が在籍する研究所とテーマだ。


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