In feelings………想いの中で

In feelings・・・想いの中で 序章

 


 僕は夢を見ていた。

 小さな幸せの夢だ。そしてこれは僕の夢見る未来の姿だ。

 ほんのわずかな幸せと、時の流れ…… 僕が夢見る未来には、いつも君が傍にいてくれた。

 …… 桜。

 僕の傍にいつまでも、共にこの世に別れを告げるその日まで、いつまでも僕の傍にいてほしい。

 その想いが僕に見せた夢だった。



  雫、雫。ねぇおきてよ。

 「まったくぅ。いつまで寝るの。今日は、お母さんのお祝いでしょ。早く支度していかなくちゃ」

 「ううん。もう少し、頼む。桜」

 寝ぼけた顔をした僕のほほに、小さな指が「つんつん」と触れる感触を覚える。

 「たーた。たーた」

 小さな指が、しつこく僕のほほを刺す。

 「たーた、起きて」

 その指はいつしか小さな手の平となり僕のほほをたたき始めた。

 「パシッ、パシッ」

 「いたい。いたい。わかったよ、もう起きるから勘弁してくれ」

 その様子を桜は、微笑みながら見ていた。

 「さすが、わが娘。でかしたわよ。紗理奈さりな

 「たーた。起きて。たーた……」

 「たーた……」

 「……」


 僅かな幸せ、わずかな希望。そしてこの未来に夢を持ち僕らは明日という日を信じ、その明日の陽ざしを迎える。

 そんな当たり前の事を…… 僕は本当に迎えたかった。

 愛する桜と共に。


 僕の本当のささやかな幸せ。それは彼女の想いと重なる。

 この世界を消すことなく未来に託す。

 彼女のその想いを僕は僕の全てをかけて……

 

 ◇◇


 コード002115856被験体パージ完了。

 データー化アッセンブリ終了。これより被検体コード002115856の記憶データを消去、新たにコード002のデータをインストール。

「所長、本当に宜しいんですか? この記憶コードにはデス・キラー因子が含まれています。このままでは再生しても……」

「かまわん! 所詮今作られる体はダミーだ。そして本来彼女は、もうじきこの世から姿を消さなければいけない運命という筋書きがある。その筋書きから遺脱する訳には行かん。それに本体…… 実態の躰はすでにこちらが握っている。七季雫の事を思っているのか……」


「彼には…… 息子には辛い思いをさせるが、これもこの世界を守る為だ」

 続行……

「Acceptance(アクセプタンス・受諾)」

 コード002データインストール…… インストール完了。

 ゼプト・オペレーション再始動。レザレクション(蘇生)データマッチング完了。

 レザレクション終了まであと3800秒。

「彼女が目覚めたら私の所まで……」

「了解しました。所長」

 その言葉を残し、彼はその場から立ち去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る