魔を祓う武具創成の魔術師《ウェポンキャスティング・ウィザード》

月永アマハル

Prologue

[1]

 神秘。それは、人智では推し測れないような秘密ことである。

 人類はおよそ千年間、この神秘とともに生きてきた。その千年もの間、人類は――世界は余りにも多くのことを神秘から学習し、与えられてきた。

 世界に充満する『魔力』の使いみち、天文学的な規模での組み合わせカスタマイズが可能な『魔法』、六大陸三大洋の先に広がる『幻想領域』、そしてそこから現れた『亜人』と『幻想生物』。数え始めればキリがないほどに、人類は与えられ続けてきた。

 やがて人は、神秘とは何かを考え始めるようになる。誰かが言った、「神秘とはつまり、神である」と。しかしその思想は、余りにも少数的マイノリティであったために、世の中に浸透することなく歴史の底に没した。――結局、神秘とは神秘、それ以下でもそれ以上でもない不可視で超自然的な存在であるとした。人の理解を越えた先に、神秘はあると信じられるようになる。

 人類は同じ言葉を喋る、人に似て非なる者たちと共存することとなる。それが亜人――エルフ・ドワーフなどの妖精種や獣人などの総称――である。幻想領域に主権国家を保有し、その国家に属していることが確認された。幻想領域内には五つの大陸の存在が確認されており、未開の資源豊富で自然豊かな世界が広がっているらしい。

 この人類にとっては溢れんばかりの財宝を鼻先に置かれているようだったが、多くの人類と亜人の要請もあって、直接的な介入を禁じ、平和的な公益のもとで双方に利益のある開発であれば許容された。これが後の『国際多種族共生憲法』となり、全種族間に於ける最高法規となった。

 ――平和とは一時の夢物語である。人類側の西洋某国と神秘側のエルフ国家とが戦争状態に陥ったのである。これを起因として、人類側と神秘側の総力戦が始まる。多くの『人類国家』は西洋某国に付いたが、事の被害者たるエルフ国家側に付く人類国家も見受けられた。それは神秘側の諸国にも見受けられたことで、人類側に付く『神秘側国家』とエルフ国家に付く神秘側国家も存在した。こうして始まったのが、世界大戦争――一九一四年のことである。

 大戦終結後、敗北を喫した『人類連合国』は、『神秘連合国』に多額の賠償金と連合盟主国の西洋某国の一部領土の割譲することで講和した。エルフ国家――神秘側国家が人類側の版図に根を下ろす歴史的瞬間である。二十年後には特別自治区として、西洋某国の領土として返還されている。

 しかし、この大戦争を契機に多くの国が戦争を始めるようになり、互いに争奪戦をし合った。そこには利害は既に絡んでおらず、ただ欲求を満たすように戦争行為を繰り返した。――そして一九四五年。各国は長らく続いた戦争に疲弊し、世界戦争は自然消滅していった。自ら犯した過ちを後悔しながら、世界はゆっくりと回復していった。人々が望んだ平和が訪れたのだ。


 世界中で自由な公益が行われ、他国への行き来がこれまで以上に簡単になると、全世界規模で犯罪が激増していった。種族間でのいがみ合いが抗争に発展するというケースも少なくなく、世界は戦争期よりも不安定になりつつあった。

 世界は――混迷の時代に突入したのである。緩やかに時は流れるも、広大な世界のどこかで幸か不幸かが両極端に振りきれるようなことが起きていた。しかしそれでも世界は、危機意識をいまいち持てず、その状況でさえも『平和』と呼んでいた。

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