第31話 初指名
私が調剤室に戻ると、久美子さんが真っ先に駆け寄ってきた。
「あなた、指名とれて良かったじゃない!!」
そう言って、久美子さんは私の背中をバーンと叩くと、その衝撃で私はよろけてしまった。
「は、はい。まだ、指名の約束ですけど……」
「でも、金曜日にまた来てくれるのでしょう? それなら指名を取ったようなものじゃない」
「まぁ、そうですね」
やっぱり久美子さんは聞き耳を立てていた。会話を全て聞かれていたと思うと、ちょっと嫌な気分にはなったけれど、きっとすごく心配していたのだと思うとその親心のような気持ちも理解できた。
「春香、これでクビは免れたわね。あー、これで私も安心したわ。これからは指名を切られないように頑張りなさい。取り急ぎ、この事は本部に報告しておくから」
久美子さんは言いたい事を言い切り、早足で事務室へ戻っていった。
「春香ちゃん、指名とれて良かったね」
「あっ、真澄さん。ありがとうございます」
次に真澄さんが私に声をかけてきてくれた。
「真澄さんにはいろいろと気を使っていただいて、ありがとうございました」
「いやいや、いいんだよ。それより久美子さんがあんなに喜ぶなんて久しぶりに見たよ」
事務室を見ると、よっぽど嬉しかったのか久美子さんはノリノリで鼻歌を歌っている。
その後、真澄さんが声をかけてきたのをきっかけに他のスタッフも私に「よかったね」と笑顔で声をかけてきた。こんなに周りに心配かけていたなんてこの時まで気づかなくて、次から次へとくるスタッフの笑顔を見るたび、本当に申し訳ない気持ちで涙がこみ上げた。
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