竜虎─リュウコ─

桜雨(きるう)

序章─出逢いの廃街─

「はぁ、はぁ、はぁ、」



朧月が暗闇と静寂を切り裂く中、

聞こえるのは自分の吐息と路地を走り抜ける足音だけ。



……──あれ?私は何で走っているんだ?



“逃げろ!”そう誰かに言われた。

でも、誰に言われたんだっけ?

そもそもなんで逃げなきゃいけなかったんだろう?

何でこんなにも街は暗くて誰一人居ないのだろう?



明かり一つなく、誰もいないという状況が私の恐怖心を掻き立てる。



「怖い……」



私は足を止め、誰に伝える訳でもなくそう呟いた。



「おい貴様、こんな所で何をしている」



後ろから不意にそんな声が聞こえた。

これは、私に質問しているのではない。

命令しているのだ。



後ろを振り返る。

そこにはまだ若い軍服のようなものを着た男の人が一人立っていた。



「……あなたは誰?」



私はそう彼に問いただす。

誰かもわからない彼に。



彼は答える。



「俺に質問するな。貴様は俺の“命令”(しつもん)に答えていればそれでいい」



そう言って彼は私の首元に刀を突き付けた。

なんて強気な人なんだ。

それが彼への第一印象。



「分からない。」



小さな声で私はそう呟く。



「は?貴様何言って……」



私は彼の言葉を遮ってそう続けた。



「分からない。……──私が誰なのかも、何故ここにいるかも分からない」



そう、彼に伝えるために呟いた。

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