Cybathlon Extra

クロム・ウェルハーツ

序章 先ず隗より始めよ

 Cybathlon-サイバスロン-


 2016年、スイスで開催された大会の名称である。この大会の概要は最先端のテクノロジーを使った義手や義足を用いて、様々な競技でその優劣を決するというものである。パワードアームを装着したパイロットがその動作精密性を競う、パイロットの脳波を読み取りバーチャルの世界の中でレースする、パイロットの足を電気刺激で動かし特別チューンのバイクを操縦する、サイバー義足を装着したパイロットが特別なコースを走り抜ける、パワードスーツを装着したパイロットが特別なコースを全身を使って進む、電動で動く車椅子を操作して他者より早くゴールを目指すなど競技の内容は多岐に渡る。


 障がいを持った人と高い技術を備えた企業が手を取り合い、障がいを克服、いや、克服などという甘いものではない。このサイバスロンの目的。それは、障がいを超越することだ。また、サイバー義肢など最先端医療技術の能力をより多くの人に知ってもらうための場でもあり、その技術力からスポンサーを得るための宣伝にもなるという一面も持つ。


 しかし、そのサイバスロンのTV中継を見ていた一人の男はテレビの前でこう呟いた。


「この技術と一流のアスリートを組み合わせる。それは浪漫じゃないか」


 とある実業家のこの一言からサイバスロンに変化が加わった。医療目的であったサイバー技術を災害救助用として運用する。そのための場を設けよう。表向きの理由はこのようなものだったが、実際はある実業家の浪漫を追い求める、言わば少年心でしかなかった。が、彼には周りを動かす才能と力があった。


 その実業家の鶴の一声でその計画はスタートした。後にサイバスロンVer.2.0と呼ばれる大会の計画である。

 サイバスロンVer.2.0は成功を治めたと言えるだろう。日本で行われたこの大会の経済効果は10兆円にも昇り、僅か5年でオリンピックに次ぐ一大イベントへと成長した。アスリートとサイバー技術を組み合わせた、近未来を想起させる数々の競技は新時代のトレンドに成ったのである。

 そして、今。その実業家は新たなる計画を打ち出した。


 ――サイバスロンVer.2.2

   通称……全国高等学校サイバスロン大会――

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