第437話 釣り

 カカオを見つけた後も、船は順調に進んでいる。ちょうど牙虎を換金した辺りで、領主様からスーラさんで連絡が入った。


『そろそろこちらと合流してほしいんだが……出来るかい?』

「大丈夫ですよー。そちらの現在位置はわかってますから」

『そうか。なら話は早い。いつ頃合流出来そうかな?』


 うーん、領主様達のところまで、行こうと思えばすぐにでも行けるんだけど、どうしよう?


『七日後、キルテモイアの港湾都市キーバンで合流するよう指示してください』


 キルテモイアのキーバン? そこに、何があるの?


『説明は後です』


 あ、はい。


「領主様、キルテモイアのキーバンという港湾都市に入ったら、そこで合流します。七日後です」

『七日後だね。わかったよ。ではまた』


 領主様、疑問等はないんだろうか? 私は疑問だらけですよ。キルテモイアって国に何があるんだ?


『そこに行く為の下準備をしましょう。ここから西に進んだところに湖があります。そこへ行きましょう』


 今度は湖かー。何か取るのかな?


『魚釣りです』


 釣り……まさか、牙虎の肉が餌になるって、釣りの餌? あれが?


『牙虎の肉は、下準備の為の下準備です。さあ、行きましょう』


 へーい。とりえあず、みんなに知らせておこうっと。




 湖への進路変更と、七日後の領主様との合流に関しては、誰からも文句は出なかった。


 そりゃそうか。ジジ様からして、進路は私に任せるって言ってるし。


 で、やってきました湖。


「これ、本当に湖なの? 向こう側が見えないのだけれど」

「大きいですよねー」


 ジジ様が言うとおり、この湖でっかいわ。風のせいで緩く波まで立ってるし。


『淡水なので、間違いなく湖です』


 そうなのかー。湖の周辺には、いくつか小さな村があって、漁業で生計を立てているそうな。


 そりゃこんだけ大きければ魚の種類と量も豊富でしょう。


『では、釣りをしましょう。牙虎の肉を、岸から少し離れたところに投げ入れてください』


 この塊を? そのままで? そうなんだ……どんだけでかい魚を釣り上げるつもりなんだろう?


「ちょっと釣りをしてくるので、皆さんはここで待っていてください。一応、テントも出していくので」


 いくら広いとはいえ、ずっと船の中じゃあ気が滅入るよね。あ、ちなみにこのテント、以前自分で使っていたものではなく、その予備。


 湖の岸にちょっと土を盛って土台をつくって均し、その上にテントを出す。デッキチェアみたいな椅子とテーブルも。あと日差しよけのタープ。


 ここらも結構日差しが強いからねー。結界張って紫外線をカットしてもいいんだけど、それだと結界の外に出た途端大変な事になるから。


 女性が多いので、その辺りは気を付けたいところ。ほっとくんもスペンサーさんも船から降ろしたし、準備万端。


「森に入っても平気かしら?」

「ジジ様、やめた方がいいですよ。魔獣がいます」

「そう。残念ね」


 この辺りの森、貴婦人が歩ける程なだらかじゃないからなあ。地面はでこぼこだし、根っこは飛び出てるし、枝は伸び放題だし。


 道もないから迷うと思う。


『森の中に、散歩用の道を作りますか?』


 え? それはさすがによくないのでは。環境破壊って、まだこっちじゃ問題にはならないだろうけど。


『この森で道を作っても、半年も経てば消え失せます。道の周囲に魔獣よけの結界を張れば、安全でしょう』


 なるほどー。消えてなくなる……というより、多分森に飲み込まれるんだな、道が。


 じゃあ、簡易の石敷の道を作るか。


「ジジ様、散歩道を作りますので、そこから外れないようにするなら、森の中を歩けますよ」

「本当に? でも、勝手に作っていいのかしら?」

「半年も経てば、元に戻るそうです」

「たった半年で? まあ、森って凄いのね……」


 自然の力の前では、人間なんてちっぽけなもの。おばあちゃんが、よくそう言っていたっけ。


 ちゃちゃっと森の中に道を作り、ジジ様達が歩きやすいようきちんと均す。道幅はちょっと広め。


 道から外れないように、道そのものをチューブ型の結界で覆っておく。魔獣よけも兼ねているし、突然の雨にも対応。ふふふ、これでよし。


 さて、じゃあ釣りに行ってきますか。



 ほうきで岸からちょっと離れたところまで飛ぶ。ここに肉の塊を入れろとな。


 水しぶきが上がるのも嫌なので、そっと入れてみた。ら。


「ピ、ピラニア?」


 あっという間にバシャバシャと水音を立てて小さい魚が群がる。この光景、テレビで見たピラニアの様子そっくり。


『この小魚を丸ごと結界で釣り上げてください』


 この魚が目当てなの? あ、結構小さい。ピラニアも、小さい魚なんだよね。歯は凄いけど。


 結界は網状にしているので、肉塊ごと小魚がビチビチいってる。凄い絵面だなあこれ。


『この結界に閉じ込めたまま、もっと奥へと放り投げましょう』


 って事は、この小魚を餌に、もっと大きい魚を狙うって事ですね? んじゃ、こいつらに食いついたのを仕留めればいいのか。


『それも餌です』


 マジでー!?




 結局、小魚を食べに来た中型の魚から、それを餌にする大型の魚を釣り、さらにそれを餌に大物を狙う羽目になりました。


「でかー」


 岸まで運んだその魚は、シャチくらいありそうな巨大魚。鯨サイズでなかったのは、良かったと思うべき?


 もしかして、これって湖の主とか言わない?


『そこまで個体数が少ない種ではありません。湖の深い場所で生息している種です』


 そうなんだー。でかい湖にはでかい魚がいるんですねー。


「これは、本当に魚か?」


 うん、銀髪さんがそう言いたい気持ちもよくわかる。見た目はちょっとナマズっぽいんだけど、サイズがナマズじゃないよ。


 で、これをどうしろと?


『身は淡泊で美味です。一番の狙いは、この魚の心臓にあります』


 心臓が、何かの素材になるのかな?


『いえ、心臓の内部にある石が、ある薬の素材になるんです』


 薬? ああ、それが高値で売れるって事ですね。んじゃ、とっとと解体しましょうか。亜空間収納内でやるけどねー。


 銀髪さんに、ジジ様達にも見せてはどうかと言われたので、散歩から帰った女性陣にも見せました。


 またしても、侍女様方には悲鳴を上げられましたけど。銀髪さんのせいなので、責任は取ってください。

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