第436話 両替

 上機嫌で船に戻ったら、銀髪さんと剣持ちさんから不審な目を向けられた。なんで?


「何ですか?」

「いや、一体何を狩ってそんなに嬉しそうなのかと思ったんだ」

「聞いてくださいよ! ずっと探していたカカオが見つかったんです!! もう、嬉しくて嬉しくて」

「あ、ああ」


 ちょっと銀髪さん、腰が引けてますよ。カカオの説明はこれからなのに。


「カカオはですね! 豆を発酵させて砕いてすりつぶして油分と砂糖を加えると、それはそれは美味しくなるんです」

「サーリ、今砂糖と言ったかしら? そのかかお、とやらは甘いものなの?」


 砂糖というワードに反応したジジ様が、横から聞いてきた。


「甘くも苦くも出来ますよ。そして、飲み物にも出来るんです」

「豆なのに、飲み物?」


 祖母と孫で、一緒に首を傾げてる。結構似たもの同士なのかな? でも、そんなに悩むような事かな。コーヒーだって、豆なのに。


 ……そういえば、この人達はコーヒーをあまり飲まないんだった。飲むのはお茶。しかも高級品。


 銀髪さんは、砦で何回かコーヒーを出したと思うんだけど、原材料までは教えてないっけ。


「論より証拠。食べられるようになったら、どちらもごちそうしますよ」

「楽しみに待っているわ」

「甘い物は苦手だ」

「じゃあ、銀髪さんの分はビターに仕上げましょう」


 そういや、チョコってお酒のつまみにもなるんじゃなかったかな。


「あ、ついでに魔獣も狩ってきました」

「ついでという言葉の意味を、真剣に問いたいのだが。魔獣は『ついで』で狩ってくるようなものだったか?」

「カイド様、神子に我々の常識は通用しません」

「そうか……そういえば、こいつは神子だったな……」


 何でそんな残念そうに言うかなあ。折角ラウェニア大陸じゃ見ない魔獣を狩ってきたのに。


「ほら、これです」


 亜空間収納から出したら、「いきなり出すな!」って銀髪さんに怒られた。侍女様方に、いらぬショックを与えてしまったらしい。


 そういえば、侍女様方は貴婦人だから、魔獣の死骸なんてものを目にする事はほぼないんだっけ。


「まあ、これが魔獣なのね?」


 ……女性で一番身分が高いはずのジジ様は、凄く興奮して楽しそうに見て回ってるけど。銀髪さんと剣持ちさんは、頭を抱えてた。


 まあ、さすがジジ様って感じ? 侍女様方は「危のうございます!」って止めてるけど。


 や、死んでるんで、いきなり動いたりはしません。大丈夫です。


「これ、ラウェニア大陸では見かけない魔獣じゃないかしら?」

「ユゼおばあちゃん、さすがだね。多分、ここ固有の魔獣だと思うよ」


 検索先生が言ってるから、間違いない。そういや、聖地って魔獣に関する情報をまとめてたっけ。生息域の情報は、よくもらってた覚えがある。


 聖地に集まってくる情報って、各国各地にある教会から上がってくるものだから、結構細かい。国境を越えて調査出来るのも、教会組織ならではだね。




 手に入れたカカオのうち、木は砦に戻って温室に植えるまで収納内に、カカオポッドの方は中身を出して発酵へ。


 こっから先は検索先生がやってくれるので、お任せしておく。発酵完了まで、一週間くらいだってさー。


 バニラよりは短いけど、カカオはその先の工程が多いから。扱いやすい形に持っていくまでが大変。


 日本にいる時、テレビでチョコレートが出来るまでっていうのを紹介していて、実際出演者達が手作業で作ってるのを見たけど、大変そうだったわ。


 本当、魔法って最高。


 バニラが手に入り、カカオが手に入った。そのどちらも、栽培が可能。つまり、手元で増やす事が出来る。


 残るは北のメープルのみ。でも、今のところ内陸とは言え南に向かってるんだよねえ。


『進路変更しますか?』


 うーん、今はジジ様の依頼で動いてるから、ジジ様次第かな。このまま南に向かって、領主様と合流するのかもしれないし。


 最悪、メープルだけなら帰国した後、ポイント間移動でこっちに来て探してもいいし。


 メープルシロップも好きだけど、バニラとカカオに比べると優先度は低いのだ。


 でも、シロップたっぷりのパンケーキも捨てがたい。あー、考えてたら食べたくなってきた。


 生クリームたっぷりのパンケーキ、お昼に作ろうかな。




 内陸の旅は順調そのもの。とくにトラブルに出くわす事もなく、あのカオスな街が特殊だったのではと思う程だよ。


 いや、あんな街が他にもごろごろしていたら嫌だけど。


 相変わらず、ジジ様達は入る街入る街で買い物を楽しんでいる。ちなみに、各国の通貨とダガードの通貨は、当たり前だけど違います。そして両替も不可。


 ではどうやってこっちの通貨を手に入れているかというと、私が両替をしている。魔獣を狩って素材を換金、それで両替してる。


 本当はいけないんだろうけど、仕方ないよねー。あ、手数料は取ってないよ。ジジ様にはいつもお世話になっているので。


 そういや、あの牙虎、いい値段で売れました。毛皮と牙、あと内臓が素材になるんだってさ。


 肉は臭くて食べられないそう。じゃあ捨てるか、と思ったら、検索先生から待ったがかかった。


『餌にしますから、取っておいてください』


 餌って、何の?


『内緒です』


 嫌な予感しかしないんですが。……返答はないらしい。いやマジで、何の餌なの怖いんですけどー。

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