第278話 アメデアン伯爵
とりあえず、許可だけ取って、土地を確保しておけばいつでも温泉掘れるんじゃね?
って事で、まずは南の温泉がある領地へゴー。
「まあサーリ、今日も出かけるの?」
「新しい温泉が私を待っている!」
「何それー!?」
ミシアが騒いでるけど、気にしなーい。彼女は私の妹弟子という事なので、砦での立場は私より低いのだ。
なので、姉弟子は妹弟子を置いていってもいいんだーい。
南の二つの伯爵領、アメデアンとザクセードは隣り合っている。といっても、二つの領境には結構大きな山が連なっているので、直接の行き来は出来ない状態らしい。
山の中に道を通すのって、面倒だからねー。
そして、温泉はこの山の中にある。領境が山並みの中央辺りに引かれてるんだね。
という事は、この山……連山? を丸ごと買えばいいのかな? 売ってくれるかな……
まずはアメデアン伯爵領へ。何故かと言えば、砦からはわずかだけどこちの方が近いから。
領都に入り、領主であるアメデアン伯爵の屋敷へ。おお、なんと言うか、防衛の為の城って感じの造りだなあ。
「何用だ?」
「伯爵様にお願いがあって来ました。あ、これ、紹介状です」
叔父さん大公直筆の紹介状だ。控えおろう。封蝋に大公家の紋章が入ってるから、それで判断するんだけどね。
伯爵家の門番をするくらいだから、紋章にもそれなり詳しいのかなあ? と思ったら、紹介状持ったままどっかに走って行っちゃったよ。
あれ、なくされるとそれなり困るんだけどなー。多分アメデアン伯爵が。
と思ってたら、城から結構なお年の男性がやってきた。執事さんとかかな?
「この手紙を持ってきたのは、あなたですか?」
「そうです」
「ふむ……では、中へどうぞ。旦那様がお会いになるそうです」
よし! 第一関門突破だ!
通された部屋は、伯爵の執務室だったらしい。大きな机と壁一面を占める本棚。そして大きな窓。
そういえば叔父さん大公の執務室にも、大きな窓があったなあ。
「お前がサーリとか言う冒険者か?」
「はい、そうです」
「ツエズディーロ大公殿下からの紹介状には、何やらを掘る許可が欲しいとあるが、相違ないか?」
何やらって、温泉なんだけど。こっちの方では、あんまり知られていないんだよなあ。
「そうなんですけど、出来れば掘る周辺の土地を購入したいと思っています」
「何? あんな何もない、魔獣だらけの山をか?」
「はい。冒険者ですから魔獣は退治出来ますし、何もなくても問題はありません」
大事なのは、温泉だからねー。それに、はげ山でもない限り、景観というお金では買えない代物があるし。
アメデアン伯爵は何やら考え込んでいる。やっぱり、領地の山は売りたくないものなんだろうか。
こっちで土地を持ってる人間って、一種ステータスなんだよね。小さいと地主、大きければ領主。どっちも庶民とは違う。
基本的に、土地を持っていればある程度の収入が見込める。小作人に畑を貸し出して収穫物の一部を受け取るとか、牧場にするとか方法は色々。
そして、大抵の場合、土地は先祖代々受け継いでいくもの。他人から買ったり、他人に売ったりはあまりしないって聞いてる。
で、温泉の出る山は、さっき伯爵も言った通り、何もない魔獣だらけの場所。もっと言っちゃうと、お金にならない土地の代表例。
山だと、主な収入源は木材だろうけど、魔獣が多い山は木が荒らされていて木材に出来ない場合が多い。つまり、お金にならない。
領主としては不良在庫なんだろうけど、何せ山だけあって広いからねえ。それを売っちゃうと、自分の領地がその分減る。
さて、アメデアン伯爵の天秤はどっちに傾くのやら。
しばらく考え込んでいた伯爵は、ようやく答えを出したらしい。
「山は売ってやろう。ただし、一つ条件がある」
お? 売ってくれるんだ。やっぱり不良在庫だからかな? それにしても、条件って何だろう?
「その、条件とは?」
「売った山に関して、転売はしないというものだ」
あー、なるほど。私が買った後で、山を他の人……例えばザクセードの領主に転売したら、アメデアンの領地がその分減って、ザクセードの土地が広がる。
ザクセードは、戦争をせずに自分の領地を広げられる訳だ。といっても、お荷物状態の山だけどね。
でも、条件がそれならいいや。
「わかりました。教会の契約書に仕立ててもらってください」
「……いいのか?」
「はい」
教会の契約書って、神様に誓いを立てる契約書の事なんだ。なので、契約を破ったら神罰が下る……の前に、教会から破門をくらいます。
破門を食らうと、まず普通の生活は出来なくなる。街中に住む事はもちろん、どこの国でも出入りを禁じられるので、人生詰んだ状態になるんだよ。
だから、教会の契約書で契約した内容を破る人はいない。
もちろん、私も破らないよ? だって、神様に約束するんだから。それに、せっかく手に入れる山を転売なんて、もったいなくて出来ないって。
契約書の方は、伯爵が用意してくれる事になった。教会の契約証は高いから、その分も山の代金に上乗せしてくれって言ったら、笑われちゃったよ。
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