第279話 今度はザクセード伯爵のとこ

 契約書が出来上がるまで少し時間がかかるので、その間にザクセード伯爵の方にも行っておこう。


 ザクセード伯爵の領都は、アメデアン伯爵の領都よりもちょっとだけ華やか。何でも、アメデアン伯爵は武門の人で、ザクセード伯爵は商業を優遇している人らしいよ。


 それで、同じ派閥に属していても、あんまり仲が良くないみたい。


 さてさて、商売っ気が強い伯爵様は、どんな感じだ?


「ほほう、君が冒険者サーリか……ツエズディーロ大公殿下のみならず、王宮でも覚えがめでたいそうだねえ?」

「いえ、そんな事は」


 あるかもしれないなあ。何せ、王宮にいる女性の中で一番偉い人によくしてもらってるから。


 通されたザクセード伯爵の屋敷は、見た目も中身もまさにゴージャス。これ、王宮よりも金かけてないかね? いいのか?


 そんな屋敷の、これまたお高そうな調度品が並ぶ応接室に通されております。一介の冒険者を通す部屋じゃないよね、これ。


 さすが、叔父さん大公のご威光と言ったところかなー。紹介状なしなら、多分門前払いだ。


「謙遜するな。何でも、素晴らしく美しい食器を扱っているというじゃないか」


 磁器かー。さすが商売っ気が強い伯爵、そこに目を付けるとは。


「どうかね? 私に任せてみないかね?」

「何をですか?」

「磁器の販売だよ。私はこう見えて、国内のみならず国外にも販売路を持っているんだ。儲けられるぞ?」

「いやあ……」


 磁器では既に、王宮のお三方で十分稼がせてもらいましたからねえ。それに、下手にこの伯爵に任せたら、製造法だけ聞き出して、後はぽいっと捨てられそう。


 根拠はないけど、そう思う。神子の勘だ!


『当てになりません』


 ちょ! 検索先生! そこはもうちょっとオブラートに包むとかなんとかしてくださいよ……


 まあいいや。


「磁器に関しては、国王陛下の許可なく売ってはならないと言われております」


 嘘だけど。でも、後でお願いすれば、きっとそういう事にしてくれると思う。ジジ様が後押ししてくれるって、信じてる!


 ザクセード伯爵は、銀髪陛下を引っ張り出した事で、一気にテンションがダウンしている。


「ふ……ん、そうか。それで、大公殿下からの手紙には、おんせん……とかいうものを掘りたいという事だが?」

「ええ、実は、アメデアン伯爵領との間に連なる山を掘りたいのです。それで、出来ればザクセード伯爵閣下の領地にある山も、全て買い取らせていただきたいのです」

「ほう? あの魔獣だらけの山を、か? だが、あの山は半分アメデアン伯爵のものだぞ? 彼にも買い取りの話を持っていくのか?」


 どうしよう。ここで既にアメデアン伯爵とは売買契約が進んでいます、とか言ったら、足下見られるんじゃなかろうか。


『可能性は高いです。ザクセード伯爵には、山に価値がないと思わせた方がいいでしょう』


 ですよねー。って事で、本当の事は言わないでおこうっと。


「はい、閣下とのお話がまとまれば、次はアメデアン伯爵閣下の元へ伺おうかと」

「そうか……知っての通り、あの山は我が領と隣にあるアメデアン伯爵領都の間にある。山の中央には領境もあるのだ。その山を、おいそれと売るわけにはいかんなあ」


 あー、それでも足下見てくるのか。伯爵としては、当然なんだろうけど、困ったなあ。


『温泉を掘る場所だけでいいと交渉してみてください。それでも渋るようなら、一旦引くと見せかけて、大公の名前を出しましょう。便宜を図ってもらえなかったと、大公に泣きつきにいきますと言えば、折れるかもしれません』


 なるほど。検索先生の案を採用しよう。いや、いつもの事ですけど。


「全部を売っていただかなくても、温泉を掘る周辺だけでも構いませんよ?」

「いやいや、一部とはいえ、そこはほれ……なあ?」

「そうですか……残念ですが。このお話しはここまでという事で」

「何?」


 応接室のソファから立ち上がったら、ザクセード伯爵の顔に焦りが出た。よし、食いついてきたな。


「大変残念ではありますが、土地を購入出来なければ温泉を掘る事も出来ません。お骨折りくださった大公殿下にこのような報告をしなければならないのは、私としてもとても心苦しいですが、致し方ありませんね」

「ちょ、ちょっと待て! 何も、殿下に言わずとも――」

「いいえ! 大公殿下のご厚意に甘え、ここまで来た私です! その結果はきちんとご報告いたしませんと!」

「ぬう……わかった。わかったから! 山は売ってやる! ただし、条件があるぞ!」


 ここでも条件かー。アメデアン伯爵と一緒かな?


「条件とは、何でしょう?」

「売った山は、決してアメデアン伯爵に売るでないぞ? いいな!」

「はい、もちろんです。お疑いでしたら、山の転売を禁じる教会の契約書をご用意いたします」


 ザクセード伯爵の顔がぴくりと動く。乗ってきたな。


「教会の契約書か……よし、ならばそれはこちらで用意しよう」

「よろしいのですか?」

「うむ。教会には少々伝手がある。三日後までには用意しておこう

「では、三日後にまた参ります」


 よし! これで山は全部手に入るぞー!! 売買手続きが済んだら、まずは魔獣を一掃しなきゃね。

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