第73話 交渉の鍵

 幻獣にはランクがあり、ドラゴンはその最高位にいる。それは、この世界の誰もが知っている事。


 実際、そこらの子供でも知っている。


 そしてもう一つ、ドラゴンは体丸ごとが素材だそうだ。まさに捨てる箇所なし、な高級素材なのだとか。


「内臓や眼球を所望されては困るが、鱗や爪、牙ならば定期的に生え替わるので、交渉次第ではくれるだろう」

「内臓も、素材なんだ?」


 そういえば、じいちゃんもドラゴンの骨がどうとか言っていたっけ。あっちは下位種のものでもどうにかなりそうとかブツブツ言っていたけど。


 私の言葉に、神馬は頷く。


「内臓、特に心臓は万病に効くと言われ、古くから人に狙われてきた」

「なるほど。で、本当に効くの?」

「わからん」

「へ?」

「そう言っているのは人間だ。そして狙うのも、人間だ。未だかつて、ドラゴンを倒した人間がいるとは聞いた事がないが」


 あー、まあそうだね。基本、ドラゴン種は空を飛ぶし、そのスピードがもの凄く速い。


 下位種のドラゴンでもかなりのスピードだったから、本物ドラゴンなら音速くらい出るんじゃなかろうか。


 にしても、効能がわからないのに狙われるのか……あ、そうだ。検索先生に聞いてみよう。


『ドラゴンの内臓は、最高級の薬の原料として知られる。ただし、現在その素材を使った薬を作れる技術を持った者はいない。心臓は万病に効くと言われているけれど、誤った情報である』


 マジか。誤情報で狙われるドラゴンさんも大変ね。って、鱗目当てで狙った私が言う事じゃないな。


 とりあえず、この情報は神馬達にも共有しておこう。


「……って事らしいよ」

「なんと……」

「既に失われた技術とはのう。まあ、その前にドラゴンを狩れる人間は、そうそうおらんが」


 じいちゃん、そう言いつつこっち見るのやめてくれる?




 なんだかんだあったけど、交渉すれば鱗は手に入りそうって事で助かった。


「後は無事ドラゴンのところに行って、交渉を成功させればいいんだね」

「……難航する事は、覚悟した方がいい」


 明るい未来に喜んでいたら、神馬に水をさされた。


「へ? 何で?」

「ドラゴンは、己の牙や鱗を他者に渡すのを嫌う」

「どうして?」

「ドラゴンにとって、鱗や牙は、人間にとっての抜けた髪の毛と同じ扱いだと聞く。神子は、己の抜けた髪の毛を、他者に欲しがられて嬉しいか?」

「嬉しくない! 全く嬉しくない!!」


 何それどこのストーカー!? 怖いよ、そんなの欲しがる人がいたら!


 でもそうか……ドラゴンにとっては、自分の鱗を欲しがる人間って、まさしく気持ちの悪い存在なんだ。


 どうしよう、交渉、成功させられる気がしない。


 落ち込む私に、神馬が一つ知恵を授けてくれた。


「悲しむな、神子。手がない訳ではない」

「本当に!?」


 どんな手? わくわくしながら神馬を見ていると、ちょっとどや顔をしながら言い放った。


「ドラゴンの好物を持って行くといい。それと引き換えならば、鱗もくれるだろう」


 それは神馬の場合だけじゃないの? それとも、この手の生物は、好きな食べ物に目がない訳?


 ちょっと疑わしい思いで神馬を見たら、気づいたらしく慌ててる。


「ド、ドラゴンは普段住処から出る事がないのだ! そのせいで、好物を食べる機会が少ない。なればこそ、交渉に使えるというものだ」

「ふーん、そうかー。ドラゴンも神馬同様、食いしん坊って事なんだねー」

「いや、我は……その……」


 神馬がもごもご言ってる。


「それくらいにせんか。それで? ドラゴンの好物とは何じゃ? 教えてくれるんじゃろう?」

「う、うむ。我と同じ、この果実が好物なのだ。だが、なかなか見つからない果実でもある」


  じいちゃんが仲裁に入って、結果ドラゴンの好物が知れた訳だけど。まさかあの果実とは。


 何かね? あの果実には幻獣を虜にするような成分でも含まれているのかね? まあとりあえず、ポイント間移動の魔法、作っておいて良かった。


 あの果実、今のところ魔大陸以外では見かけないからね。

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