第21話 ください! ぜひください!!
貴族風の人と黒ずくめの人は、女性職員の制止の声も聞かずにずかずかと倉庫に入ってきた。
「ほうほうほう。これはあれかな? 例の砦に巣くっていた魔獣かな?」
派手な貴族風の人が興味深そうに、猪を見ている。その背後から、銀髪の人も覗き込んでいた。彼の方は、表情が読めないなー。
あれ? 何だろう。銀髪の人、どこかで見た事があるような気がする……どこでだっけ?
「さようにございます。ジンド様。これで危険は去ったとみていいでしょう」
おっと、記憶を探っていたら、フォックさんが話を進めていた。
「そうかそうか。これでやっとあの砦を解体する事が出来るのう」
「え?」
ジンド様とかいう貴族の人の言葉に、思わず声が出る。あの砦、壊しちゃうの?
私の声に、倉庫の人達の視線が集中する。しまったと思っても、もう遅い。
「えーと、あの……あの砦、壊してしまうんですか?」
この場を取り繕うなんて事、私に出来る訳がないから、思った事を素直に聞いてみた。
もしかして、不敬とか言われて処刑されたりするのかな。そうだったら、また別の国に行かなきゃ。
でも、私の考えは杞憂だったらしい。ジンド様と呼ばれた貴族の人は、鷹揚に頷いて答えた。
「さよう。あの砦は百年近く魔物の襲来に耐えてくれた。だが、さすがに老朽化が酷くてな。今回のように魔獣の巣になったり、野盗の根城にされたり、また人が入って怪我などせぬように、取り壊そうと思っておる」
なるほど。街のすぐ近くにある、使われていない建物は、今回みたいに魔獣に棲みつかれるだけでなく、野盗の隠れ家にもされる場合があるんだ。それに、街の人が入り込んでも危ない。何せ半分崩れてるくらいだから。
「修繕は、しないんですか?」
「先程も申した通り、あの砦は対魔物用なのだ。神子様が邪神を封じてくださったおかげで、魔物の被害はなくなっておる。ならば、あの砦とて役目を終えたと思って良かろう。使わぬ砦に金や人手を割くくらいなら、街や村の復興に充てるのは当然ではないかな?」
いちいちもっともだ。というか、このジンド様って、凄く民衆の事を思っているいい領主様なんじゃない? 見た目はキンキラだけど。
いやいやいや、人を見た目で判断しちゃいけない。トゥレアだって、はかなげな美人だけど、夫を放ってより身分の高い男の愛人にちゃっかり収まっていたじゃないか。
ダメ、思い出しちゃ。今は、あの女よりもあの砦の方!
「あの!」
気づいたら、声を出していた。
「何かね?」
「あの砦、壊すのなら私にください!」
……うん、さすがにいきなりこんな事言い出したら、驚かれるのは当たり前だよね。その場にいる人達、目が点だよ……
でも! 後悔はしない!!
だって、あの砦だよ? 実費で買ったらいくらするかわかんないくらいなのに、壊すなんてそれこそもったいない。
無人なのや壊れているのが問題っていうのなら、私が住む。そして修復もする。大丈夫、多分魔法で何とかなるから。
さて、お返事は?
「だ、ダメに決まってるだろ!」
なんでフォックさんが決めるのさ。むっとしていたら、ジンド様がいきなり笑い出した。
「はっはっは。これは面白い娘よの。ふうむ。あの砦を掃除してくれたのは、他ならぬこの者。ならば、払い下げるのもまた一興よ」
「ジ、ジンド様!?」
「して、あそこはお主が言うように、修繕せねばとてもではないが住めぬぞ? なんぞ、当てがあるのか?」
「えーと……何とかなります! 多分」
私の答えに、ジンド様はにこにこしているけど、フォックさんは何だか呆れた様子だ。
そんなに私があの砦に住むのが嫌なのかな。
「何じゃ、フォックよ。そのような渋い顔をしおって。そんなに私の案に反対かの?」
「当たり前じゃないですか。サーリは成人しているとはいえ、まだまだひよっこですよ。それが街の外に住むなんて、危険すぎます」
「そのひよっこに、砦の掃除をさせた者の言葉とは、とても思えぬの」
「そ、それは……」
本当だよ。ちょっとフォックさんは失礼だと思う。そしたら、ジンド様が代弁してくれた。
「砦の掃除は、この街の者でも難儀しておったと聞いておるぞ。それを難なくやってのけた者が、ひよっこなものか。それよりも、せっかく本人がデンセットの近くに住みたいと申しておるのだ。歓迎するくらいの事をせんか」
まったくだー。ジンド様、本当いい事言うなあ。
ちらりとフォックさんを見たら、何だかばつが悪そうな顔をしていた。
ごめんなさいって言ってくれてもいいのよ?
……すみません、ちょっと調子に乗りました。でも、口には出していないからいいよね。
結局、砦は私にくれるそうです。やったー!! これでおうち、ゲットです。
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