第18話 本当に?

 なんとなく、部屋の中に重苦しい空気が漂っている。それを破ったのは、斡旋所の男性職員だ。


「あー、その、いきなり連れ出して悪かったな」

「いえ……」


 元はと言えば、私の魔力が原因らしいからなー。それにしても、魔力量なんて測った事なかったけど、そんなに多いんだろうか?


 今まで魔力切れで困った事は……そういえば、北ラウェニア全体に浄化の魔法を使った時は、ヤバかったっけ。それくらいかな?


 つらつらと思い出していたら、男性職員が続けた。


「コーキアンは今、復興の真っ最中で、魔法が使える奴を探している。建築現場でも、こっちの組合でもいい。依頼料は弾むから、だから――」

「私、ここに仕事を探しに来たんです。お仕事が見つかるなら、こっちとしても願ったり叶ったりですよ」

「そうか」


 相手の言葉を遮って言ったのに対し、男性職員は何だか感極まっている。もしかして、今まで魔法使いに逃げられた経験があるとか?


 確かに、魔法が使えれば大陸のどこに行っても食べて行けるもんなあ。わざわざ面倒が多そうな北大陸には来ないでしょ。


 私の場合、ちょっと後ろ暗いところがあるから、紹介状なしで仕事が出来る北大陸はありがたい存在なんだけど。


 まさかそんな内情を話す訳にもいかないもんね。


 話が途切れた辺りで、さっきのお姉さんが戻ってきた。何か、カートみたいなのを押してきたよ?


「はい、こっちが測定器です。じゃあ、靴を脱いでこの上に乗ってね」


 ……見た目が大変体重計っぽいんですが、まさか見た目通りの代物じゃないよね? さすがにこんな場所で自分の体重を量られるのはごめんなんだけど。


 その見た目からちょっと躊躇していると、お姉さんと女性職員が二人して首を傾げている。早く乗りなよって言わんばかりだ。


「これ、魔力を測るんですよね?」

「そうよ。他に何を測るのよ」


 笑いながら答えるお姉さんを信用するよ。私は靴を脱いで、測定器の上に乗った。


 目の前の丸い表示板の針が、ぐいんと動く。何だか随分動いていくんですけど!?


 針が止まったのは、円で言うところの三百五十度くらいのところ。ほぼ一周してるよ。


 表示板を見ていたお姉さんも、斡旋所の二人もぽかんとしている。え……これ、一体魔力量いくつなの?


「さ、三百五十……初めて見た……」

「嘘だろおい……」

「こんな量って、あり得るの?」


 そんなにやばい数値なの!? これ。焦る私を余所に、三人で何やら話し合いが始まった。


「これはやっぱり上に報告しなきゃダメですよね?」

「黙ったままはダメだろ」

「でも、これならいくつか滞ってる案件、何とかなるかもしれませんよ」


 隠すつもりがないのか、こっちにダダ漏れですよ。そんなにヤバい数値なのか……上って、もしかしなくても領主とかそっちまでいっちゃう感じ? それはちょっと困るというか、なんというか……


 これ、逃げたらダメだろうか。ここで逃げても、結局別の街でも同じ事が起こりそうだから、やっぱりここにいようか。


 ぐるぐる迷っていると、ようやく三人の話し合いが終わったようで、代表して斡旋所の男性職員が口を開いた。


「仕事を探しているって、言ったよな?」

「……はい」

「ぜひとも、あんたに頼みたい事がある」

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