チェックメイト

@Katsuya

第1話

目の前で若い女が命乞いをしている。泣きながら助けてと言っているが構わない。彼女がやったことの大きさを考えれば、これは当然の報いなのだ。男は手にしているナイフを女へと突き立てた。


長岡市の公園で他殺体が発見されたと新潟県警に連絡が入ったのは11月6日の午前6時だった。県警の警察官である兄沢涼は上司から連絡を受け自宅から直接現場である公園へ駆けつけた。着いたのは午前8時で公園の入り口には近所の住民による人だかりが出来ていた。公園はすでに警察が立ち入り禁止にしている。

「おつかれさまです」

公園の入り口の警察官に敬礼を受け兄沢は公園に入った。外からみたところすべり台、ジャングルジム、ブランコ、砂場といった一般的な遊具があるごく一般的な公園である。もっとも現在は鑑識が公園内のあらゆる場所を調べているので公園の本来の姿とはほど遠いが。そしてこの公園のトイレが現場らしい。トイレの入り口の中央で仕切りがあり入り口から向かって右が男子トイレ、左が女子トイレになっている。

「あっ先輩」

部下の佐々木がトイレから出てきた。

「おつかれ。殺しだってな。物騒なもんだ」

「そうですね。すぐ犯人が見つかればいいんですが」

この公園で遺体となって発見されたのは近くの大学に通う金子真紀20歳。女子トイレで腹部を数十回に渡って刃物のようなもので刺されている。佐々木によればそれはひどい有様だったらしい。すでに遺体は運び出されており、兄沢は安堵した。何度見ても遺体を見るのは慣れないからだ。凶器は見つかっていない。発見したのは近所に住む60代の男性で犬の散歩をしているときに尿意を催しトイレに駆け込んだところ死体を発見したらしい。

「ちょっといいか。女子トイレで見つかったんだろ。なんでその男性が見つけられたんだ。そんな入り口から見えやすいところに死体はあったのか」

「はぁ。それがどうやら間違えたらしいです。」

「間違えた?」

「尿意が限界に達しててとりあえず駆け込んだところがたまたま女子トイレだったということです」

「なるほど」

携帯を持っていなかった男性はすぐに近くの人を呼び止めて電話したという。

「被害者の死亡推定時刻はどうなってる?」

「解剖がまだなので正確な時刻はまだなんともいえませんが昨夜の11時から1時くらいだそうです」

「そうなると目撃者とか期待薄だな。まぁやるだけやるしかないが」

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