第11話 再び

声を追いかけてしばらくして。息が切れてきたちょうどその頃に、一つの大きな扉の前で声が途切れた。真っ黒で冷たい金属でできた扉だ。あたしはそっと、触れるぐらいの力で扉を押しただけだったが、それにしては大げさに扉が開いた。

「人間、よく来たな。1人だけか。まあ、いい。A-001、おまえは愛されているなぁ。羨ましいくらいだ。」

魔王の声は嘲笑を含んで、寒い冬に容赦なく吹き付ける北風のように冷たかった。魔王が数メートル先で玉座に座っていた。まだ若いと思わせるような外見だ。そして傍にヒカルがいた。廊下より一段と暗いその部屋で、光のない黒い目は、なんで来たんだと語っていた。これは…この雰囲気は…。いやだ。信じたくない。だってカサメとニコはまるで元通りだった。ヒカルだってそうだと思いたい。

「A-001、お前のおかげで獲物が一匹手に入ったぞ。褒美をやらねばな。さすがだ、我が息子よ。」

涙が止まらない。ヒカルが魔王の息子?そんなまさか。ああ、塩っぽい味が濃くなっていく。ヒカルはまた裏切ったの?懲りないなぁ、全く…。………。あたしこのまま脱水症状で倒れてしまう。ねえ、どうして?どうしてまた、あたしを裏切るの?聞きたい。聞きたいけど。怖い。怖いよ…。

「ヒカル…………。」

名前を呼ぶだけで精一杯だ。ヒカルは目を逸らした。ひどい。ひどいよ…。もうホントにあなたのこと信じられない…。

「ハッハッハ!愉快だ!‎最高だ!もっと泣け、喚け、人間!」

さいあくだ…。ゆめならさめろ。ゆめであれ。これはゆめだゆめだゆめだ!

「さて。そろそろ素敵なおまえの過去を見せてもらおうか。」

魔王はあたしに向かって手のひらを広げ、その手のひらに埋め込まれた、奥深く吸い込まれてしまいそうに黒い魔黒石を見せた。魔王はあたしの過去を操っている。でも、もうなんか、どうでもいい。

もう脳みそはあたしの支配下にはいなくて、体はうまく働かなくて、あたしはあたしじゃなかった。その場にあたしだった物体は崩れて倒れた。

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