第10話 魔王
「どういうこと?!」
魔王を倒す?!そんなことが可能なのだろうか。いや、それよりだ。
「…と、時魔なのに?魔王は上司みたいなものなんじゃないの?いいの?」
「上司…ね…!」
ニコに笑われてしまったが、ムッとすることはなかった。むしろ、ニコたちが時魔になってもまだ、普通に話せていることが嬉しかった。星は黙って壁にもたれ、会話に参加していないけれど。
「それで、どうなんだよ。」
そうだった。不覚にもヨウに話を戻されるとは。
「えっとね…私たちが魔王を倒そうと思ったのは、ずっと複雑な理由があるんだけど…。」
カサメは少し考えた後、しかめた顔を元に戻して明朗快活に言った。
「まあ、私たちも支配されるのはもういやってことよ。」
嘘…ではないらしい。カサメは時魔の漆黒な瞳を僅かな光で輝かせていた。こんなにも凛とした態度や顔を演技で出せるわけがない…と思う。
「それで、魔王の倒し方…というか魔王を魔王でなくさせる方法なんだけど…。」
「ちょっと待って!どういうこと?魔王でなくなったら何になるの?」
ニコは、よく聞いてくれた、とでも言いたげな顔をした。いつもの穏やかな笑顔ではなく、ニヤッと怪しく笑った。「昔話になるけどいいかな」と聞いてきたけれど、それで答えがわかるなら断る理由は何も無い。
「魔王は元々、天使達の世界である天界の、
なんてこと……!あたしたち人間が長年苦しんできた原因は夫婦喧嘩?!そんなもののためにあたしたち家族はあんな目にあったっていうの?!
「ただ、天界の主に戻したところで、妻の方と上手くやっていけるかどうか…。」
「そんなに仲悪いのかよ。」
「そうね。今だって、天使達と時魔達の戦争が勃発しそうなのよ。あたしたちはその戦争のために、Aランクトップ10以外の時魔の魔黒石を奪っているの。」
カサメはこれまでに見たことがないほど悲しい顔をした。確かに仲間の命を奪っているんだから、辛いに違いない。これは魔王に反抗したくもなるだろう。そうか、それで魔黒石を集めていたんだ。でも集めてどうするのかな。
「そうか。魔黒石は人間の魂の塊で、時魔たちのエネルギーなんだっけ。それを使ってAランクのトップ10をさらに強くしようということか。」
いつになくヨウの頭が切れている。このくらい頭を使えれば、全教科のテストが真っ赤になる事なんてないのに。
「ん、待てよ。カサメとニコとヒカルは時魔たちの魔黒石を奪っているという事は…全員Aランクのトップ10!?」
「私は時魔じゃないけど、ニコとヒカルはそうよ。しかもニコは2番目で、ヒカルは1番。」
え!!!!!ヒカルが時魔の中で一番強いってこと!?あれ?そう言えば(と言ったら失礼なのだろうけど)。
「ヒカルは?」
「魔王のところに交渉しに行った。ヨウたちを逃がしてもらえるように。」
「え!でも魔王はあたしたちを連れてこないと時をすべて奪うって…。」
「罠よ。魔王がそんなことする訳ないわ。だってヒカルは魔王の…。」
その時だ。廊下の向こうから暗く思い、魔王の声が降ってきた。
「人間よ…。良いのか。A-001…ヒカルはもう死ぬぞ。」
不気味な笑いだった。内蔵がチクチクするような寒気が体中を襲った。反射的に、あたしは走っていた。声はあたしを導くように聞こえてくる。あたしは何も考えないで声を追った。「罠なんだってば!」というカサメの声も聞こえなかった。廊下はあいかわらず真っ暗で、ロウソク程の光が物の輪郭をぼんやりと移す程度だった。
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