第3話 ヒカルたちは
ヒカルは質問には答えず、いつもの無表情で黒い宝石を拾い、混乱気味のあたしを連れて部室に戻った。
「お帰り!どーだった?たいしたことなかった?」
ニコが調子よく出迎えた。カサメはヒカルの本を、眉間にしわを寄せながら眺めていた。
「たいしたことはなかった。」
ニコはヒュウと口笛を吹くと「言うねえ」と楽しそうに言った。あたしはようやく、この二人がさっきの時魔のことについて話していると分かった。
「ニコも・・・?本当に何なの?誰なの?なにしてるの?」
ニコは小さくため息をついた。
「やっぱり連れて行っちゃいけなかったんじゃない?」
「いや、同じ部活な以上、いつか知ることなんだ。下手に隠してばれるより、早い段階で教えてしまった方が外部への漏れは少ないはずだ。」
長身のヒカルが頭ひとつ違うあたしを見下ろす。不思議にも目をそらせない。これは何から来るものなのだろうか。
「山鳥は口が堅いほうか。」
声も出ない。あたしは目をそらせないまま小さくうなずいた。普段からあまり話さない方だ。秘密ならもっと話さない。というより、話せない気がする。
「ニコ。」
「あーもう、分かってるよ。」
しょうがないなあ、と言いながらニコがカサメの隣の席に座る。
「ほら、山鳥さんも座って。ヒカルも。」
言われるまま、ニコの正面の席に座る。さらにヒカルもあたしの隣に腰掛けた。
「いいかい。」
ニコはもう笑っていなかった。それは、ヒカルが笑っていたのと同じ感じだった。
「この世には今、時魔を退治する者が十人いる。」
たった十人・・・。
「そいつらは世界の各所に散らばって時魔を退治しているんだ。」
「それじゃあ・・・。」
「そうだよ。ヒカルと僕はその十人のうちの二人なんだ。カサメは違うけど、それでも僕らの仲間だよ。ヒカルと僕とカサメは幼馴染だし、一緒に行動しているんだ。」
この世にたった十人しかいない、時魔を退治する者。確かにここ最近、時魔が人を襲ったと言うニュースが減っている気がする。確実に時魔は減っているということか。
「どうやって時魔を退治してるの?」
ヒカルは見ていなかったのかとでも言いたげな目をした。そんなヒカルにニコは「ほら、あれ出して」と催促した。それがヒカルをもっとイライラさせたようだった。
「時魔には必ずどこかにこれがあるんだよ。」
そう言ってニコが出したのは、さっきの黒い宝石。
「これは魔黒石。これに特殊なお札を貼り付けると、時魔は魔黒石を残して消滅するんだ。」
「消滅」と言ったときのニコの笑顔は、あのときのヒカルと同じ笑顔だった。けれどもすぐに、取り繕うようにいつもどおりの穏やかな笑顔になって、ヒカルに「お札出して出して」と子供みたいにせがんだ。
「で、これがそのお札。」
机に置かれたのは、やはりさっきの紙切れだった。書かれた文字は、英語でもあたしが知っている他の言語でもない。紙の質も、地球のもののようには思えなかった。
「時魔にはね、ランクがあるんだよ。」
話しているうちに調子が出てきたらしい。ニコは立ち上がると、探偵が推理するときのように歩き回り始めた。
「AグループからZグループまであってね、そのグループのなかにも一から二十までのランクがあるんだ。たとえばさっきの時魔は・・・P‐011か。弱いね。」
ニコは机の魔黒石を裏返して、その金属のような部分に刻まれた数字を読みあげた。
「でも、Aグループのやつらは手ごわいんだから。」
「ニコ。」
ここで、ヒカルが調子に乗り始めたニコを止めた。あたしには、この先に言ってはいけないものがあったように思われた。けれど、何なのかは聞かない。ここまで分かれば充分だし、今までの情報だけであたしの頭の許容量をとうに越している。
「ま、そういうこと。これからいろいろあると思うけど、よろしくね。あと、誰にも話さないで。全国から仕事を頼まれるようになったら大変だし。」
ニコはつまらそうに話をまとめた。でも、ちらっとあたしを見ると
「でも山鳥さんがいるだけで、この辺の時魔はみんな寄ってきそうだから、仕事は楽そうだなあ。」
と爽やかに笑った。ここは、爽やかに笑うところなのだろうか。そして、なぜあたしが時魔を集めやすいことを知っているのだろう。
「あーっ!もう、難しい話はたくさんよ!」
ずっとヒカルの本を読んでいたカサメは、難解な本の内容に堪えられず、叫んだ。それを聞いて、本が読めなかったうえにイライラしていたヒカルは盛大に顔をしかめて、
「じゃあ、読むなよ!」
とけんか腰に怒鳴った。ストレスのたまっているカサメもその言葉にキレたらしく、部室に常備された柄の長いビニール傘を持ってきて
「何を読んだってわたしの自由でしょ!」
と振り回した傘でイスを一台、木の板の残骸と金属片にした。カサメをとめるべく仲裁に入ったニコも巻き込まれて、地学室では第十回星座研究部闘争がおこる羽目になり、あたしはどさくさに紛れて家に帰ることで避難した。この闘争は今までで一番ひどかったらしい。その後どうなったかは、思い出したくもない。ちなみに、ハーゲン〇ッツは三人分おごることになった。おかげで財布はすっからかんだ。
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