【教訓の五 殺しは覚えたらやめられない】
第14話
ノーバディは、アレルヤが帰ってこないのを内心気にかけていた。余りに遅い、もう1ヶ月近く、ここのイングリッシュ・マーシャの墓に帰ってきていない。彼女は、近くに置いてあった酒の瓶を広いあげ、それを飲み始めた。そうこうする内にコルダも隣に座った。彼女が、ここの墓で何か探しているのは知ってはいたが、特には詮索はしなかった。仮にも彼女の父親なのだ。あまり無粋なことだと遠慮している所もあった。ノーバディは無言でコルダに酒を勧めた彼女は断った。
「私、一応未成年よ」
そうかい。といってノーバディもとりわけ強要しなかった。お互いに喋ることはなくとも何か物足りずギクシャクしているような感じであった。
「これで終わりなのよね」
「ああ、案外終わってみればあっけなかったよ。財宝も見つかったし今はこうしてアレルヤが帰ってくるのだけを待っている。気楽なもんさ・・・」
そう、とコルダは言って、また2人で黙ってしまった。何か気分が落ち着かない。もうこの場所にいることも、そう長くはないのかも知れない。そんな事を思っていると、ねえとコルダはノーバディに声をかけた。
「ノーバディ。アナタこれからどうするの?」
「あてもなく馬を走らせるさ。ここにアタシの場所はない。アタシが死ぬまで旅を続けるのだろうさ」
「そう」と一言コルダは言った。コルダにしてみれば、ノーバディに何か期待している返答が分からなかったが、それでも少し寂しかった。
「何か言いたげだな?」
コルダの表情を察してノーバディは言った。
「別にたいしたことじゃないわよ。ただアンタとも別れるとなると正直、少し寂しいわ」
ノーバディはコルダの話を黙って聞き酒を飲み続けている。
「だからさ!。もしアンタが差し支えなかったら私も旅の連れとして加えて欲しいの。ノーバディの邪魔はさせないし取り分だって自分の食い扶持は何とかするからさ!」
コルダの言葉を聞いたノーバディは酒瓶が空になるのを見るとポケットから煙草を取り出し火を付けた。彼女はくわえながら言った。
「そりゃあダメだ。別にお前だからとか言う訳じゃない。アタシは誰とも組まないって言ったろ?アタシは独り身だ。死ぬまで誰とも付き合わないよ」
「そっか。そうだよねノーバディはそういう奴だ」
コルダは残念な顔になりそうなのを、ノーバディには悟られてなるまいと思い顔には出さなかった。
一瞬だけであったがノーバディは笑った。あまり純粋に笑った顔を出さないような彼女なので珍しかった。
「なあ吸うか?」
ノーバディはコルダに煙草を薦めてきた。コルダは煙草が嫌いなので、いつも彼女が吸っているのを見かけると嫌な顔をしていたが、今はそんな気分にはならなかった。
「私、未成年だって言ったじゃない」
「今日くらいは、その神様だって見逃してくれるだろうよ」
コルダは少し悩んだあとにノーバディから煙草を受け取り彼女から火をもらった。煙草を吸ったコルダはひどくむせ悪態をついた。それをみたノーバディは、また笑った。
「まだ早かった!なに後数年すりゃ楽しめる年齢になるさ」
「アンタ私にこれをしたかっただけでしょ!」
「当たらずとも遠からず。言い線してるぜ」
今度は互いに笑った。それは、クスリといった小さな笑いであるが、互いの仕事に区切りが付いた者同士以上のやりとりであった。
「そういえばアンタこれから何処に行くのよ?こんなに大金を手に入れて、まだ旅を続ける意味は私には分からないわ・・・」
「なんだろうな。まあ確かなことはアタシは独り身のほうが性に合ってて金が手に入っても、また旅を続けるだろうさ」
「それでコルダは、どうするつもりなんだ?そもそもここの墓だってアンタが教えてくれたりはしたが、何でこんな場所にまで来たんだよ?」
ノーバディの疑惑の声にコルダは答える。彼女は、ここ数日ずっとこのマーシャの墓で何かを探しているようではあったが・・・
「父の手がかりを探してたの。何せ何も言わずに出て行ってしまった人だから・・・形見でもあれば良いかなって思っただけよ。そういえばアナタは、どうなの?ノーバディ。家族っている?」
ノーバディは少し顔をしかめたが、それでも喋り始めた。今までの彼女の関係では聞けない話ではあった。
「湿っぽい話は嫌いなんだがね。よくある話さ親父は仕事を無くして飲んだくれて、いつも母さんを殴ってた。そんで親父は酒場の連中に喧嘩ふっかけちまったせいで、くたばったよ。そのあと母さんはアタシを育てるために娼婦をやってクズに病気を移されて死んじまっただけの話さ」
コルダは黙って彼女の話に傾けていた。ノーバディは話を続けた。
「こっからさ。アタシは教会に拾われてね。これでシスターになるなんて話はあるさ。だがな連中も匿う連中の数は限られていたのさ。アタシも行ったが少しのパンをもらって追出されたんだ」
ノーバディは続ける。彼女の物語は、まだ続いた。
「街を歩いてたらアタシみたいな不幸な子と呼ばれる連中がいたよ。奴らは亡者も同然さ。生きてることに何も感じない。ああ・・・アタシもこいつらみたいに死ぬんだってな。」
クソくらえさ。ノーバディは少し声を荒げる。自分の境遇を呪って死ぬことを受け入れるなんてアタシには出来なかった。だから何でも殺しに盗みに体だって売った。アタシは毎日、飢えと病気の恐怖に怯えながら生きたんだ。
そうしている内にアタシはこの街を取り仕切ってるチンピラどもの一員になった。そこのリーダーが、中々変わった奴でな貧民街の生まれにも関わらず面倒見の良い奴だったんだ。
その時、コルダはノーバディの顔を見て彼女の顔がひどく懐かしい顔を省みているような、しかし同時に怒りを表しているような顔をしていた。まだノーバディの話は続く。
その頃アタシを含む他の仲間連中は、世の中が良くなると信じて革命を起こしたのさ。最初は規模も小さかったし失敗も繰り返して何人も死んださ。それでも諦めなかった。いつかアタシらの存在を認めさせてやるって。だがな戦い続ける内に気づいてきたのさ。ここには何も生まれない。どう転んでもアタシらの生活は良くならないんだ。
ノーバディは眼に涙を浮かべた。昔の記憶。アタシの撃った男は、かつてもっとも信頼してる男であり、血の繋がりがなくとも当時の少女にとって兄のような頼れる存在であり、そして初めて恋をした男の姿が映っていた。
コルダはノーバディの話を聞き続けた。コルダはノーバディの物語を聞いていく内に、それが彼女への感情の吐露になってくれれば良いと考えた。だがノーバディは手で目頭を押さえると言った。
「さあて話は終わりだ。湿っぽい話は嫌いだって言いながら結局最後まで話しちまったよ」
「そうね湿っぽい話だわ」
コルダはそう言って立ち上がった。
「そろそろ私は行くわ。ここには結局、父の形見は無かったわけだし。もう用はなくなっちゃった。あとはアレルヤと財宝の分け前だけをやってね」
コルダがそういった瞬間であった。墓の入り口から馬のひずめの音が聞こえていた。
「アレルヤ?」
そう言うコルダにノーバディは否定した。彼女の顔は真剣そのものとなっておりコルダは只ならぬ事だと、すぐに理解した。
「いや違う。ありゃあ数人の馬を引きつけてる。しかも大急ぎでだ。アレルヤじゃなさそうだ。隠れろ!」
ノーバディとコルダは隅に隠れ様子を伺った。こちらから顔は見えなかいが、どうやら相手もそれらしい。連中も慌ただしく動いてはいたが、 どうやら、こちらの正確な場所までは掴んでいないらしく大声でこちらを呼ぶ声しか聞こえなかった。
「おい、聞いてるか、賞金稼ぎども!今、おまえ等の仲間をとっつかまえてサウンズ・ヒルの町で首の皮一枚で待ってるぜ!もし連中の命が欲しいのなら今日の深夜までお前等のことを待ってるってお達しだぜ」
「アンタ等は何者だ!どうしてここまで嗅ぎつけた!」
名前は言っていなかったが、たぶんアレルヤが捕まったのだ。コルダはそんな状況に動揺を隠しきれないでいたが、先に声を上げたのはノーバディであった。彼女の怒声にも連中の声には何も反応を表さなかった。
「おっと、種明かしは無しだぜ。じゃあ伝えたからな色よい返事待ってるぜ!」
でやッ!というかけ声と共に複数人の男たちは、馬を走らせそのまま元来た道に帰って行った。馬の音が聞こえなくなるとノーバディとコルダは物陰から出てきた。
「もしかしてアレルヤのこと?」
今の男たちの会話に出てきた仲間連中と言う言葉からアレルヤの盗賊団のことを言ってるのではないかとコルダは言った。
「だろうな。バカな野郎だぜ。いったい何処の連中やられたかは知らないが、自業自得さ」
ノーバディの心ない反応に対してコルダは言った。コルダはてっきりノーバディは血相変えて助けに行くと思ったからだ。そんな彼女の反応に苛立ちを覚えたのであった。
「助けに行かないの!?」
コルダの言葉にノーバディは乾いた笑いで答えた。
「おいおい。お友達気取りかい?アタシは、そんなガキと組んだ覚えはないがね」
「だとしてもよ!ノーバディ、アナタの力がいるのよ。悔しいことだけど、これは事実だわ。アナタは優秀なガンマンなの。アレルヤたちを助けるためにはアナタが必要だわ。私だって自分の立場くらいは分かってるつもりよ賊相手に1人で突っ込んだって死ぬだけだわ。でもアナタが入れば話は変わる。アレルヤたちを助けられるのよ!」
「いい加減にしないかッ!」
ノーバディはコルダに息も付かせぬような激昂を露わにした。
「いいか!連中はヘマをやらかして今まさに死ぬような目に遭ってる。それは分かる。だがな、奴らを助ける道理なんてどこにもないだろうが!大体、考えてもみろ!アタシとアイツの関係は、財宝を一緒に探して一時的に協力関係になっていただけだ!それ以上でも、それ以下でもない!」
ノーバディはコルダに向かって言った。コルダは、それを聞いてただ「そう」とだけ悲しく声に出した。
「アナタがそういうなら、それで良いわ。アタシは独りでもアレルヤを助けにいくよ。仮にアナタの言う英雄気取りの馬鹿でもね!」
そう言ってコルダは腰にホルスターを付けて準備を始めた。そしてノーバディに言う。
「ベルスタアを返してくれるかしら?もうそれはアナタには必要ないものでしょ?」
「ああ、いらねえよこんなもん!」
そう言ってノーバディはコルダにベルスタアを投げつけた。床に落ちたベルスタアを拾うとコルダは言った。
「短い間だったけど、正直、楽しかったわ。もう不謹慎な言い方かも知れないけどアナタも気をつけて」
コルダは馬にまたがろうとしたその時、ノーバディはコルダに当て身をくわえた。コルダはうめき声を挙げ、そのまま倒れ込んだ。意識の薄れるなかコルダは微かにノーバディの口元を見て何を言おうとしてるか分かった。
「それは、こっちの言葉さ」
ノーバディは馬を走らせながら今までの自分では行動しないような事をしていて内心不気味であった。たしかにコルダにいった言葉は本心から出た言葉である。それがどういう訳か今では自分が曲がりなりにも少しの間組んでいた奴を助けようと息を切らしながら馬を走らせてアレルヤとその仲間を助けようとしてる自分がいる。
これは言葉に出来るようなことじゃない。アレルヤに別段、友情などは感じてはいなかった。どういう風の吹き回しだノーバディ。お前はもうちょっと利口じゃなかったか?考えてみれば今回の遺産の計画は狂いぱなしであった。ただコルダを財宝の在処まで連れて行くだけの事だったのに、いつの間にかアレルヤが加わってた。最初に仲間になった時はいつ殺そうか悩んでいたが、いまじゃアタシまであいつ等のテンションで旅を続けていた。まったく泣けるよ。そうして今アタシはあいつを助ける為に馬を走らせてる。バカみたいな話さ。
先ほどから大雨が降り続けるいた。サウンズヒルに到着して馬から降りると街全体が異様な静かさを保っていた。ここに住んでいる人間は明らかにリディロの連中の残党だろうか?何かに怯え人の気配を感じさせなかった。だが、とてもリディロからはそんな指示を与えるほど人望は感じなかったし彼らが攻めてきたのが最後の連中であるのを考えたが検討も付かなかった。
大雨の滴る中、足音では見つりそうにもなかった。ノーバディは腰のホルスターからコルトに手をかけてゆっくりと歩いていった。少し歩くと小さな保安官事務所に明かりがついていた。そこから何か宴のようなものを行っているらしく中から大声が聞こえていた。他に人通りもないのでノーバディは事務所の方まで歩いていった。
だがノーバディは見た。もしかしたら手遅れかもしれない。でも信じたくなかったし、アレルヤなら大丈夫かもしれないと高を括っていた。彼女はもしかしたら人違いかもしれないかもと思いもう一度覗いた。紛れもなかった。
保安官事務所の前には棺桶が何十台も縦に並んでおり、そこにはアレルヤの盗賊連中の死体が入っていた。死体が並んでいる。女、子供関係なくだ。その中にはアレルヤの死体も入っており、その瞳はまだ生きることを望んでいるような悲しい眼であった。
死体が並んでいた。ノーバディは気が気でなかった。この保安官事務所にいる奴は容赦なくこの棺桶にいる連中を殺したんだ。
ノーバディは無言で事務所前まで歩いていった。事務所の扉を、まるでいつも酒飲みをする酒場のように何事もないような振る舞いで入るとノーバディの姿を見た賊連中の騒ぎが収まった。
ああ、そうだよ今のアタシは死ぬほど胸くそ悪いんだ。これ以上騒ぐんじゃないよとノーバディは思った。
「おいおい、何のようだいこんな時間に女かよ!?」
酔った男がノーバディに近づいてきた。座った目つきをしていたノーバディに事の状況を理解せずにいたようであった。
「ボスも気が利くぜ。こいつは朝まで楽しめそうだ」
ノーバディは男が伸ばしてきた手を払いのけたあとに、そのままコルトを引き抜き男に発砲した。「ぐぇ!」といった情けない鳴き声とともに男は倒れて死んだ。
何だ!といった掛け声共に事務所にいた男たちは一斉に振り向きノーバディに発砲した。ノーバディは近くにあった机と男の死体を盾にし銃撃をしのいだ。男たちは酔いが回っていたので、狙いも定かではなくあてずっぽうに撃っていた。ノーバディはおろか彼女が隠れていた机にも、ろくに当たらない始末であった。あてずっぽうに撃ち続けていた連中は玉が切れると薬莢を捨て新しい弾に詰め替えようとしたところに、すかさずノーバディは発砲した。決して早撃ちと呼べるほどの早さではなかったが、正確に狙っていった。
男たちは次々に撃たれ倒れていった。ひどい硝煙の臭いを嗅ぎつけて奥からも賊連中の仲間たちがゾロゾロ出てきた。彼らもひどく酔っており階段でつまずく者や発砲したら彼らの仲間を誤射してしまったりと様々であった。
ノーバディは、また机に隠れ弾を詰め替えた。連中は全部でせいぜい20~30人くらいである。しかも敵は統率はおろか酒にも酔っていて狙いも定かではない何とかいけそうだ。とノーバディは思った。
物陰から物陰へ移動し隙を見せたら発砲をノーバディは繰り返した。今この事務所は死者の山で築かれていた。アレルヤは、死ぬ間際どう思ったのだろうとノーバディは何となく思った。たぶん死んだら何も感じられないし自分自身の意識は、そこで途切れて見えるものが真っ暗になるのだろう。
そういえば昔、死にかけて一度死者の国へ旅立ったんだとか言っていた奴がいたが、そこでソイツは人間は死ぬと、まるで暗いトンネルを入っていくような感覚になるんだ。そこに入ってしまうと、それこそ死者の国へ、こんにちわ、なんだそうだ。アレルヤと匿ってた連中もそのトンネルに入ったのだろか?そこは想像するしかない。空薬莢を捨てながらノーバディは思った。今は何も考えないほうが良い。今は目の前の連中をいかに効率よくリスクを少なくして殺していくかだけを考えろ。アタシたちは、賞金稼ぎで殺し屋だ。いつから物事を考えるようになったんだ。アタシの仕事は、とても簡単だ。目の前の連中を殺して、殺した金で生きてるんだ!
事務所の人間を殺した数がノーバディの見立ててで、ほぼ全員をしとめたと思い物陰から出て残った奴がいないか確かめた。もう既に逃げた奴やら死体やらで埋め尽くされている。その時、2階の奥から1人の男が出てきた。初老のようで小皺がある。男の顔には何とも言えない悲壮な顔つきをしており、全体に哀愁を漂わせていた。しかし気品のある顔つきでもあった、あまり賊連中の顔にも見えなかった。そんな中その初老の男は言った。
「おまえ、外に吊してある連中の仲間か?」
ノーバディは何も答えなかった。答える義務もないし、今は何も言う気にはならなかった。
「答える気はないってことか。1つだけ言ってやろう。あそこの連中は何度も列車や銀行の強盗、強奪を繰り返してた連中だ。お前どう怒りを表した所で連中の罪は消せん」
男は、大声ではないが、力を込めた口調で言った。男の言い分はごもっともだし別に否定をする気はなかった。ただ、ノーバディにはアレルヤが
殺されたという事実だけで十分であった。男は話を続けた。
「ここで死んでる連中は私の仲間ではないのだよ。連中にはどうとも思わんが、なるほど大した腕だ。銃も良い物を使ってる。お前の名前は?是非知りたいのだが」突如にノーバディは発砲。男の被っていた帽子を吹き飛ばした。
「言う義理はない。次はアンタの眉間を狙ってやる」
「気に入ったよ。それによく見たら若い娘じゃないか。なるほど今の若者には期待がもてるな」
ノーバディは、続けてすかさず発砲。だが男の眉間を狙いを定めたのにも関わらず銃痕は、ノーバディの足下に出来ていた。彼女の右手は男の早撃ちで潰されていた。
「だが、まだ若いな。狙いを正確にすれば良いって話でもない。銃は早く抜くものだよ」
とんでもない早さである。右手の鈍痛を噛みしめてノーバディは思った。今まで、こんな早さで銃を抜ける奴なんぞ見たことがなかった。
「アンタ何者だよ」
ノーバディは声を絞り上げて言った。ただ純粋に男の名前が気になった。
「本当なら君のほうから答えてほしいが、まあ良いだろう」
男は少し楽しそうに答えながらこう答えた。
「マーシャ。イングリッシュ・マーシャだよ。名前くらいは聞いたことあるだろ?」
今まで名前しか聞かなかった男イングリッシュ・マーシャ。男は、この珍妙な名前を出してきた。かつて死んだとされていた男は今ノーバディの前に立ち尽くしていた。イングリッシュ・マーシャと言った男の足はキチンとあった。亡霊でなんでもなかった。間違いなく生きた人間であった。
マーシャはカチリと弦鉄を引き銃口をノーバディに向けていた。
「さよならだ。名前も知らないので名無しと呼ばさせていただくよ、お嬢さん」
鈍い銃声が室内で響きわたった。辺りは静まりかえって銃声だけが響き渡っていた。
マーシャの声は歯ぎしりをしていた。彼の銃口からは煙は出ていなかった。ノーバディは自分がまだ死んでいないのを確信した。理由は分からなかったが、どうやらまだ自分は死者の国へは行かないようであった。マーシャを見ると彼は胸から血を流していた。即死ではないが十分に致命傷になりうる傷であった。銃声は入り口から発しており、そこには1人の少女が立って構えたコルトから硝煙を発していた。
コルダであった。ノーバディが当て身を食らわせたが、目覚めた後に、このサウンズ・ヒルまで追いかけてきたらしい。彼女の顔には、怒りにみちた顔になっていた。
「どうして父さん」
コルダの声は悲痛に満ちており声もかすれかすれであった。
(親父ってこいつ本当にイングリッシュ・マーシャなのか・・・・・・?)
ノーバディも声に出そうとしたが、彼女も痛みのあまり声は出なかった。打ち抜かれた右手が動かない。そして感覚もまたなかった。
「まさか自分の娘に撃たれるなんてな」
マーシャの声は悲しそうでもあり同時に嬉しそうでもあった。彼は乾いた笑いを浮かべ両膝が地面についた。
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