第9話

 コルダの実戦という名の訓練は続いた。3人は行く先々の手配書に載っている賞金の安い賞金首を殺していった。途中、手先の器用なアレルヤの作った人間サイズの的を作ってやると言ってコルダはいとも簡単にアレルヤの作った的の急所に当てていった。

 この実戦訓練でコルダの覚えたことは2つあった。1つは、敵を追いつめたのなら敵の銃は奪うのである。油断させると相手は何をしでかすか分かないものであった。

 そして2つ目に自分が追いつめられているときほどよく狙えである。最初のころは的を外すことも多かったコルダであったが、2人にそうキツく言われた。素人になればなるほど早抜きという技術に拘る。だから1発目は外す可能性が非常に高い。だからこそ冷静に狙わなくてはならなかった。だが2人の教えがあってからコルダはめきめき力を伸ばしていき的にも安定して当たるようになり殺しもスムーズに行うことが出来るようになった。

 それから数日が過ぎていき、ノーバディはデブリカットの町から出発してから1週間近く経ちサウンズ・ヒルにも近づきつつあったと感じた。最初こそコルダが逃げ出したりシスターを自称するアレルヤとか言うシスターまがいの賊にも絡まれたが、遺産を手に入いってしまえばこちらの物である。後は邪魔者の後始末だけである。そうノーバディは思った。

「よし、今日はここで寝るよ。数日したらサウンズヒルだ。後もう少しだよ」

 各自が寝る準備をし始めたその瞬間であった。ノーバディとアレルヤが真剣な表情で暗闇の中を見ていた。その様子を見たコルダも2人の様子がただ事ではないと悟りコルダも腰の銃を手に掛けた。

「おい出て気やがれ。顔をみせな!」

 ノーバディが暗闇に声を荒げた。その声を聞いてからか暗闇の中から男が出てきた。大柄で明らかに賊の部類かアタシたちと同じ賞金首と勘ぐる。少なくとも堅気の人間ではない風貌であった。顔の知らない男は両腕を上げたままのそのそとノーバディたちに近づいていった。

「おおっと!止まりな、これ以上はこっちに来るなよ。てめえの体臭がこっちまで臭ってるぜ。鼻が曲がりそうな臭いだよホント!」

 ノーバディの言葉に大男は何も反応しなかった。

「アンタ、この辺を縄張りにしてる賊か何かかい?それともペキンパーの使いか?アンタには色々と喋って貰うぜ」

 ノーバディの問いかけに大男は何も答えない。

「おい!何か言ったらどうだい?アンタだって命は惜しいだろ?おいシスター!アンタも何か言ったらどうだ!」

 ノーバディは銃口を男に向けたままアレルヤの方を見た。

「済まないね名無しさん。これも仕事なもんでね」

 アレルヤは銃口をノーバディに向けていた。

「ああ、クソ!全部そう言うことかい」

 ノーバディも手を挙げてコルダも続いて手を挙げた。

 大男は、コルダにも銃を構えており腰に手を当てることすら出来なかった。

「いつからペキンパーの野郎に鞍替えたんだ?シスターさんよお?」

「アナタたちが教会に来る前からよ。アナタ達には多額の賞金が掛かっているからね」

 やっぱそうだったっかとノーバディは内心ごちた。

 アレルヤと男がノーバディとコルダに縄を掛けて一行は何処に向かうかも分からずに暗闇に向かって歩いていった。


 アレルヤが裏切りをし始めて、まだ小一時間ほどしか経っていなかった。ノーバディとコルダが連れて行かれたのは、かつて鉱山発掘か何かに使われた古びた鉱山であった。当然ではあるが人気はない。そもそも仮に人気があったとしてもこんなヤバそうな連中に楯突こうなどと言う輩などいないはずであった。

 先程からここの男たちの視線は気になっていた。ギラギラ焼き付くような目をしており汚い服に体臭もままならなかった。

 連れて歩く形でこの鉱山で寝泊まりに使われていたと思われる古い木造型の家に通された。部屋に入ると一人の若い男が向かい合わせるように椅子に座っていた。椅子に座っている男は後ろについている窓から外の景色を眺めていた。ノーバディとコルダは縄を掛けられたまま半ば強制的に座らさせられた。それが合図なのか連れてきた男は部屋から出ていき残ったのは椅子に座っている男に彼女たちを連れてきたアレルヤと捕まっているノーバディの計3人であった。

「どうだい、旅の調子は?」

 男はノーバディに投げかけた。ノーバディは何も答えなかったので、それが答えかと思い男は話を続けた。

「いやはや君たちのおかげで彼女を探す手間が省けたよ、ありがとう。僕の名前はリディロ。以後お見知り置きを」

「いい歳して僕かい、坊ちゃん?」

 ノーバディの挑発にリディロは言った。

「好きに言うがいいさ、このアバズレがッ!今、お前がどんな状態か分かっているのか?ここの連中に乱暴され殺されるかどうかは君の判断に掛かっているのだよ。事は慎重に選んだ方がいい」

 リディロの話はまだ続いていた。今度はアレルヤに話を振り始めた。

「ところでシスターアレルヤ、君の教会での話を聞かせてもらったよひどい有様じゃないか?何せ私の部下が皆死んでいるのだから」

 リディロの問いにアレルヤは答える。

「可哀想な奴らでね。あいつらは何せただ巡礼しにきただけだって言うのに何で殺されなくちゃならないのか私にも分からんね」

 アレルヤの要領得ない答えに業を煮やしたのかリディロはぴしゃりと言い切った。

「本題に入ろう。君たちは例の遺産のことは知っているのか?もし協力してくれるなら私からは君を無下に扱わないことを約束しよう。なんなら遺産の一部を与えたって良いがね」

「実は遺産の場所は知らなくてね。もちろん知りたいのは山々なんだがね。いかんせん困っていたとこなのさ」

「あの少女の出自を知ってその発言しているのかね名無し」

「悪いね、あいにく記憶力が悪い方でね。昔から要領が悪いって言われて育てられたもんなのさ」

 ノーバディの答えにリディロは笑った。何とも気味の悪い笑顔であった。

「そうか、それは残念だよ名無し。だがこれで君の記憶力も元に戻るはずだ」

 それが合図だと言わんばかりアレルヤ何も言わずに部屋から出た。それと同時にリディロの部下がぞろぞろ入ってきた。

 人数だけで十数人。体臭で鼻が曲がりそうであった。その中、鼻を押さえながらリディロは言った。

「上司から日頃の感謝の意味を込めて君の相手を今夜だけ好きにしていいと約束したんだ。こうすれば君の頭も冴え渡るだろう」

「大層なおもてなしだよ。地獄に堕ちやがってんだよ。このクソ野郎!」

 ノーバディの声にもリディロは笑ったままであった。

「君のその言葉は何処まで続くかな?私も楽しみだよ」

「なあもう良いでしょリディロさん!もうおれあ我慢ならねえんだ!」

 部下の一人が言った。もう我慢がならないらしく服まで脱いでいる始末であった。

「では、また後で会おうノーバディ」

 リディロはニヤけた笑顔を浮かべて部屋から出ていった。

 異口同音に様々な言葉を放ちノーバディを押し倒した。そのまま彼女は服のホックを千切られて上半身が露わになっていた。

「良い形してるじゃねえか!。可愛がりがあるってもんさ」

 そう言って周りの男達が楽しく囲っている中ノーバディは言う。

「なあ、葉巻くれねえか?こんな状態じゃあ、やってらんなくてね。夜は長いんだろ?それくらいの気兼ねは欲しいね」

 ノーバディの言葉を強がりと思ったのか男達はフューと口笛を鳴らして笑った。

「面白いじゃねえか姉ちゃん。気に入ったよ!」

 そう言って男は彼女に葉巻の一本を口にくわえさせ火をつけた。

「シケてるなこれじゃあタバコを吸ってる方がまだマシだよ」

「そう言ってられるのも今のうちさ!そのうち葉巻のことなんか忘れちまうくらいの快感さ!いやあ苦痛かな?まあ俺たちにとっては、どうでも良いがね!」

「おい、無理矢理やって使い物にすんなよ!まだ後がつっかえてんだから!」

 男の仲間の声にそうだ!そうだ!と後ろにいた連中がヤジを投げていた。それを聞いてノーバディは言った。

「早くしてくれよ本当に!。お前等の相手を長くしている暇なんてないんでね」

「ほら姉ちゃんもそう言ってるから早くしろ!」 

「わあったよ!うるせえなあ!」

 そう言って男はノーバディの服を無理矢理ちぎってひん剥いた。肌も露わな状態になると早速ノーバディに取り掛かり始めた。

「おい痛えなあ。もっと優しくできねえのか!」

「優しくしろってさあ!ドルチ。あんたの女の扱いは昔から下手だからなあ!」

 仲間のヤジにドルチと呼ばれた男は言った。

「うるせえ!この女とことん、やっちまって喋れなくしてやるよ!」

 まったくこんな奴らの相手をずっとしてなくちゃならないのかい?やってらんないねと内心ノーバディは思った。

「おお!いい具合に締め付けやがってもしかして感じてんのか?」

 そうドルチが言ったときであった。

 ドルチの悲鳴であった。周りの男達はドルチの尋常じゃない悲鳴に恐怖を感じた。大丈夫かと様子を見に来た男がドルチを見たときに仰天し声を上げた。

「ひッこいつ噛みちぎられてやがる!」

 周りは静寂に包み込まれた。一体どういうことだとザワザワと騒ぎはじめた。ドルチに近づいた仲間はドルチを見てもう一度言った。悲鳴に近いような声であった。

「ドルチのナニが噛みちぎられてるんだよう!」

 正に言葉の通りであった。その意味が分からずにキョトンとしていた者もさすがに事の状況を把握したのか。皆は顔が青ざめた。ただ一人ノーバディを除いては。

「聞いたことがある。昔に聞いた話だが気に入らない客の男のナニを引きちぎるすごい技を持った娼婦の話だ。まさかあの女って・・・・・・」

 ノーバディはニヤニヤしながら男達の顔を眺めていた。

「さあ、次はどいつが相手だい?夜は長いんだろ?アタシを楽しませてくれよ!」

 ノーバディは言い男達の反応を待った。曰く。お前がやれだの、もう勘弁してくれだの、涙声に声を上げていた。

「行かないってんならアタシから相手をしてやるよ」

 そう言ってノーバディはノロノロと男達に近づいていった。

「ヒッ来るな!」

 全裸になっていた男達は丸腰で実質腰にぶら下げていた銃を抜くことは出来なかった。皆が後ずさりをして一人が走って逃げ出すのを見ると皆慌てて走り逃げ去った。この部屋に残っているのはナニをもげられてしまって、もう動かなくなってしまった哀れなドルチとノーバディだけであった。

「さてと、あのクソシスターが何処に行ったか?。そんでコルダだな」

 そう言ってコルダは服を着始めて部屋を出た。幸いにホルスターも銃もあったままであった。


 民家の部屋を出るとこの小さな鉱山はもぬけの殻であった。アレルヤもコルダの姿は見えなかった。リディロの姿もなかった。たぶんコルダとリディロは同行してる形をとっているだろう。

 問題は何処に行ったかである。最終的な目的地はコルダの言っていた共同墓地であろう。

 だが共同墓地なんてもんはサンズヒルの付近だけでも莫大な数に上がるだろう。しらみ潰しに探していたらいつまで経っても見つからない。遺産を手に入れるのはアタシさ!誰にも渡しはしない。仮にイングリッシュ・マーシャの娘だと自称しているコルダであっても、それは変わらない。もしアタシの邪魔をするのなら容赦はしない。コルダはイライラしながら愛用のコルトをいじり回していた。

 特にかくにもまずは移動手段である。ノーバディは手ごろな馬屋を見つけるとそこには馬が数頭いた。ノーバディが手綱や馬鉄の点検をして出発しようとしたその時である。

「どこに行こうって言うんだい?まさか宛もなくさまようつもりじゃないのか名無し?」

 その声は数時間前までノーバディを裏切ったアレルヤ本人であった。

「お、おい!てめえが何でここにいる!?」

「留守番を任されたのさ。体の良い厄介払いだよ。アンタが来るのを待っていたのさ」

 ノーバディはアレルヤの顔を見てフツフツと煮えくり返るものを感じていた。

「アタシは今信じられねえくらいに機嫌が悪い。それこそテメエを普通に殺すくらいじゃ飽き足らないくらいにな。手足を引っこ抜いて奴隷市場にでも流すなんてどうだ?。あそこになら、そんな嗜好も喜んで買い取ってくれる変態野郎がいるさ」

 ノーバディの脅し文句ではない言葉にアレルヤは答える。

「正直な話アンタをああでもしないと奴らは信用しなかったさ。それに連中に捕まった時点でアタシ等は負けてたんだ」

「関係ねえ!アタシは臭い男どもに犯されてクソな気分さ。いますぐ、ぶっ殺してやる」

 ノーバディは持っているコルトの引き金に手をかけた。アレルヤは言う。

「私を殺したらコルダが何処に行ったか分からなくなるぞ。少しは頭を使え名無し」

「うっ」とノーバディは声を上げ引き金を引くのを躊躇った。

「どのみち今はコルダを追わなくちゃならない。これはアタシも同じだ。世間知らずの坊ちゃんには退場してもらわなくちゃね。アタシを殺したいって言うなら遺産を手に入れてからでも遅くはないとは思うがね」

 腹が立ってしょうがないノーバディであったが、アレルヤの言い分にも一理あった。引き金を下ろしアレルヤに言った。

「いいだろう。アンタを殺すのは後でいい。たしかに今は互いに協力したほうが良さそうだな」

 ノーバディの返事にアレルヤは、にこりともせずに言った。

「交渉成立だよ。アンタの腕には期待してるんだ。頼むぜ名無し」

「連中に犯されたことは一生忘れないからな。遺産を手に入れたら覚えてやがれ」

「ああ、その時になったら相手になってやるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る