【ヂョーとセリ】
スズナを守るために、ツムリのほうは相も変わらずいっせいに襲いかかってきた敵どもを次から次へと蹴散らしていかなければならなかった。ツムリの打撃や投げ技に、見た目のいかつい不良連中はボールみたいに簡単にはじけ飛んでいった。それでも敵の集団は後続がまったく途切れない。
もうこうなると自分たちのことでいっぱいいっぱいで、ツムリにはほかの仲間が今どうなっているかなどまったくわからなかったし、とうぜんヒロシやオサムの末路など知るよしもなかった。
アザミとはぐれたセリは校庭じゅうを駆け回っているところだったが、周囲は敵味方入り乱れ人間と動物の大乱闘が繰り広げられているので視界がきかない。ときおりマンモスやトラ、セイウチに巨大昆虫、及び凶悪なメイクをほどこしたいかつい不良生徒たちなどがひっきりなしに投げ飛ばされてくるので、それらを避けてセリは前進しなければならなかった。ひとりはぐれたアザミが身を守るために竜巻を発生させないのは味方を巻き込まないための配慮なんだろうか。それともとっくに敵にやられてしまったあとなんだろうか。
「コテマリさん、どこにいるの?」
しかし血みどろの阿鼻地獄の中でセリの声はどこにもまったく届かなかった。
「ナズナセリ。そろそろカタつけようじゃねえか」
声のほうを見ると、数メートル前方に腕組みをしたモミノコヂョーがいつのまにか立っていた。学園牧の尻荒らしはもうやめたのだろうか。唇にはニヤニヤ笑い、かたわらには行方不明になったピアスヘッドを除くモヒカン、アフロ、スキンの三人が立っている。
「……何いってるの?」セリは怪訝な顔をする。「戦う相手を間違ってるわよ」
「てめえ、結局俺たちを利用して相打ちにさせたあと、ギンガの後釜に座るつもりだったんだろう。先刻ご承知なんだよ。最初からその計画だったんだな」
セリはフッと笑い、
「……とうとう血迷ったようね。それとも想像力が豊かすぎるのかしら。それとも被害妄想が強すぎるのかしら」
「見ろこの惨状をよ。これじゃギンガを倒すどころかギンガ以外三多魔エリアの連中は全滅じゃねえかよ。おおかたこれが最初からてめえの描いたシナリオだったんだろう」
「フフ……」
「何がおかしい」
「……私が愚かだったわ。こんなバカな連中と共闘してギンガを倒そうだなんて。しょせんあなたたちはどこまでも自分のことしか考えてない負け犬だったのよ。ギンガにはいつまでたっても未来永劫勝てないわ」
「いや、ギンガは俺が倒す」ヂョーはギラギラした目でセリを睨みつける。「俺が倒して三多魔エリアの支配者になる。ハーレムも全部いただく。それからゆっくり二十三区に攻め込んでやるぜ。その前にナズナセリ、邪魔なおまえから片づけてやるよ」
「あなたは本当にどうしようもないバカね。もうなんの能力も持ってないあなたに何ができるっていうの?」
「そうかな?」ヂョーは今までにないほどの余裕を見せつけるようにニヤリと笑った。「てめえ、いい気になってられんのも今のうちだぞ、見ろ」
ハッとなったセリは周囲を見回した。
校庭一帯に広まっていた乱闘が、いつのまにかピタリとおさまっていたからだ。
戦いをやめたおびただしい数の動物たちが、四方八方あらゆる角度から、今度はセリひとりを睨みつけていた。
ニホンオオカミにサーベルタイガー、巨大サソリに黒豚、ライガーにレオポン、アルパカにカピバラ、土佐犬にドーベルマン、ニホンオオカミに皇帝ペンギン、空飛ぶアンコウに地を這うマンタ、ワニにカバ、子、丑、寅、卯、辰、巳……ありとあらゆる生きものが……。
今、校舎の窓ガラスがパリンと割れ、巨大蛸の足がぬるりと這い出してきた。
「キーッ!」
上空にはいつのまのか吸血コウモリの群れがセリの頭上を旋回している。
ふと足もとを見ると、三匹のうり坊がセリのくるぶしのあたりをガジガジかじっていた。
「モミノコヂョー……、あなたまたお尻の割れ目に何かを挟んだのね」
すると、ヂョーのうしろに控えていたモヒカン以下三人の直参子分たちが、ひとりの男を両側から支えながら前に出てきて、そいつをドサリと前に投げ出した。
「……」
服はボロボロ、体は傷だらけ、地面にうつ伏せに倒れたその男はとっくに悶絶していた。しかも下半身は……むき出しだ。
稲儀グローイン畜産高校の牧、動物使いのヨシズガケジュンだった。
「おっと、誤解すんなよ。こいつが西多魔のやつらにやられてたのを俺たちが助けたんだ。そん時はとっくに気を失ってたけどな」ヂョーはいった。
「……それで、ちょうどいいことにお尻に挟んでいるアイテムを彼から奪ったってことね」
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