【むき出し】
「やめなさい!」セリは注意するが、ヂョーたちは聞く耳を持たない。その間まったく別の方角から敵の不良どもが数人セリに飛びかかってきた。
セリは目を負傷したアザミを庇いながら素早い身のこなしで瞬時に敵どもを昏倒させていくが、さらに数珠つなぎに不良どもが襲ってきたので、それらの相手をしているうちに乱闘の渦に巻き込まれてしまい、ヂョーたちのすることには構っていられなくなった。
ヂョーと四人の子分は、とうとうシガキマサルのズボンとパンツを脱がせてしまった。
ぷりっと白い尻がむき出しになった。
「ゲヒャヒャヒャ! おい見ろよ、こいつこんなの挟んでやがったぜ!」ヂョーがおどけたように笑う。つられてほかの四人も下卑た笑い声をあげた。
シガキマサルが尻の割れ目に挟んでいたのは……一枚のトンカツだった。
つるピカ○○丸光線の能力は、トンカツを尻に挟むと発動されることがこれで判明した。
「バカだなこいつ、尻にトンカツ挟むやつがあるかよ」ピアスヘッドがマサルの尻の肉をぺちっと叩いた。それでまた全員がドッと笑った。
ちょうどその様子を、乱闘のエアポケットの中に入って呆然と立ちすくんでいるツムリとスズナが見ていた。
ツムリにはヂョーたちのおこないが完全にイジメの構図にしか見えなかったのでイヤな気持ちになった。スズナも同じのようで、憂鬱な表情をしている。
「おい、おまえらもちょっと見てみろ」ヂョーがそんなツムリたちに気づいてを手招きをした。
しかしツムリは答えない。顔は暗くなるいっぽうだ。
(どうしてこんなことになったんだろう……)
もうこの段階で校庭にはすでに百人以上もの戦闘不能者が倒れ伏していた。こんなことがこれから先もいつ終わることなくずっと続くんだろうか。視線をヂョーからさらに移動させると、セリが向こうでアザミのことを庇いながら戦っている、オサムも戦っている、熊も戦っている、ヒロシは……? ヒロシはどこにいるんだろう。もう何がなんだかわからない。それぞれの戦闘がサイレント状態でツムリの目に映った。馬が蹴り、ゴリラが殴り、大蛇が締めつけ、象が踏み、さまざまな動物たちも入り乱れて人間たちと戦闘を繰り広げている。あまりにも混沌としすぎている暴力の坩堝、その爆心地に自分がいることにツムリは耐えられなかった。
「ツムリさん……」
同様にこの状況を憂いているスズナも、暴力のエネルギーが渦巻く戦場をまのあたりにして哀しみの表情を浮かべることしかできなかった。
しだいにツムリの目にはまわりがスローモーションのように動きがゆっくりになってくる。音が消え、苦悶に歪む顔、はじけ飛ぶ体、吹き出る血、ありえないかたちに曲がっていく手や足や首などが、過去の甘美な追憶みたいにツムリの目の前を次々に横切っていった。
「あぶないっ!」
とつぜんこちらに走って来たセリがツムリとスズナを突き飛ばした。ツムリの目の前の動きがスローモーションから元のスピードに戻ったと思ったら、元いた場所に巨大な鉄球が地響きを立てて落下していた。周囲にいた連中が下敷きになり、または衝撃で吹き飛ばされた。鉄球はモゾモゾ動くとひとりでに浮かび上がり、ぐいーんと上昇すると風を切るヒューンという音とともに、またツムリたちめがけて飛んできた。
「チッ!」
セリはまたしてもツムリとスズナを突き飛ばし、みずからはギリギリのところで鉄球から身を避けジャンプすると、両足で鋭いキックを見舞った。
鉄球はゴロゴロ転がり、やがて人間の姿にかたちを変えた。鉄球だと思えたものは、黒い学制服を着た肥満体の男が丸まっていただけだった。丸まることで鉄球の硬度を身につけていたのだ。
「府宙ティスティクル学園のイマゲップナオトね」セリが身構える。
ナオトは痛そうに背中に手をやると、ふらつきながら逃げて行こうとする。追いかけるセリがナオトの体を掴むとグイッと引き寄せ、その巨体をおもいきり投げ飛ばした。
宙に弧を描き、地面に叩きつけられたナオトは昏倒してピクリとも動かなくなった。
「おっ、あいつも学園牧だぜ」
ヂョーと子分たちが目ざとく見つけた。
新たなる獲物を狩るぞとばかりに、ヂョーたち一同は今度はイマゲップナオトのところまですっ飛んだ。
「ゲヒャヒャヒャヒャ、こいつは何を挟んでんだろうな」ヂョーが例のイヤらしい笑い声をあげ、さっそく一同はナオトを取り囲むとハイエナのごとくズボンを下ろしにかかった。
「……あきれた変態連中ね」セリは首を振り振り、もう注意する気もなくしたみたいにくるり体の向きを変えると、
「コテマリさん、どこ?」
アザミを目で探すが……どこにもいない。
ツムリたちを助けているあいだにすっかり見失ってしまった。
「クソ……」
セリはくんずほぐれつの群衆の乱闘の中にふたたび入っていった。
この間にイマゲップナオトもまた、ヂョーたちによってすっかり大きな尻をむき出しにさせられてしまった。
期待に目を輝かせ割れ目を覗き込むヂョーたち。
そこに挟まっていたのは……ワインオープナー……ワインのコルク抜きだった。
「あ? ……なんだこれは。チッ、くだらん」
ヂョーはあからさまに失望をあらわにすると、ナオトのデカい尻の肉をペシッと叩いた。「もっと笑えるもん挟んどけよカスが」
「ほんとだぜ」
「じゃあこいつは俺がいただくよ」
アフロが手を伸ばし、イマゲップナオトの尻の割れ目からムギュッとワインオープナーをむしり取った。立ち上がったアフロは早速自分のベルトをゆるめてゴソゴソと自分の尻に挟もうとした。
「……あ、無理だ、こんなの挟めねえぞ」しかしすぐにあきらめスッとズボンの裾から抜く。ワインオープナーをじっと眺め、「よくこんなの挟めるな。挟めたとしてもこの大きさじゃ自由に動けねえ」
「オラーッ!」するとこの場にひとりだけいなかったピアスヘッドが頭から七色の光線を四方八方に巻き散らしはじめていた。
「ギャハーッ! 俺もとうとう学園牧の能力を手に入れたぜぇ!」
どうやらシガキマサルのトンカツを自分の尻に挟んだようだった。ピアスヘッドの頭を覆う色とりどりのピアスが太陽光線を吸収し、それらのひとつひとつが放射状に何本もつる○○ハゲ丸光線を発射していた。さながらミラーボールがビーム砲を何筋も照射しているイメージだった。
はしゃぐのあまりピアスヘッドがあたりかまわず○○ピカハゲ丸光線をまき散らすものだから、敵どころか味方の動物たちや人間にも被害者が出た。
「やめろこらおいっ!」ヂョーたちもあたふたと光線から逃げつつピアスを怒鳴りつけるのだが、躁状態のピアスは聞く耳を持たない。周辺の群衆がドーッと逃げまどいはじめた。
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