もじのおはなし、いとおかし
ゆまみ
第1話
文字というのは不思議なものだ。
話し言葉を伝承するために生まれただけあってか、表現の幅は広い。文字の腕と足には相手に伝えるための意思が詰まっている。これらの洗練されたデザインに魅了された人は多い。その中に一人に私がいる。
今日も2号車の端で背中を朝日に照らされ揺られながらも必死に文字を追っていた。通学時間はそこまで長くないのだ。人身事故での遅延の知らせに驚き顔をあげるとそこには透き通るように青い山々が見えた。車内に人は数人、それぞれ思い思いの作業をしている。またすぐに本に目を戻す。エンジンが弱まる音がして次の駅に到着した。ドアが開くと数人同じ制服が入ってくる。今日も乗ってくるはずの友人と目があう。
「おはよっ!ふゆみん!」
「おはよう優子。今日も朝から自主練?」
「そーなのー!大会近いからね。」
とボールを蹴るような仕草で答える。
「大会近くなくても自主練してると思うのだけど。」
「うーん。。。そうかもね。やっぱりうちサッカー好きだし。負けたくないしね。」
と言いながら彼女は有名スポーツブランドのスポーツバッグから英語の単語帳を出し、付箋の先を開いた。彼女は私のことをよくわかってくれている。私も指を挟んでおいたページを開き、また文字の海に入る。この本は私を夢中にさせたいがためにいろいろな言葉をストレートになげる。私はそれを受け取り心の中に浸していく。浸透していく言葉は頭で何度も繰り返される。文字は生きる感情持つ動物。個別差はあるがほとんどが私を癒し、満たす。私も文字になれたら、どんな言葉になるだろうか。
「ふゆみん、そろそろ着くよ!」
現実に引き戻された。
「あぁありがと」
いつものことである。
「本大好きだよねー、ふゆみん。今何読んでるの?」
ドアに近づきながら聞く。
「えーと、要約すると女の子が寝てる間に大統領になる話。」
「いろいろはしょりすぎだし、またどうせ内容なんてわかってないでしょ。」
「そんなことないもん。読んでる、、はず、。」
「本読んでるのに読んでないとはいとおかし。」
ゆっくりと車体の速度が落ち、止まる。
「私は文字が読めればそれでいいのだよ。」
「この文字フェチめ。」
「このサッカーバカめ。」
お互いにふくれっ面になりながらドアを抜けると目を合わせた瞬間に笑い合った。
我が高校は駅改札出てすぐ。彼女は校庭へ駆け出し、私は図書室へと足を進めた。
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