第56話

自分の道は自分で決めろという言葉がある。

他人に決めてもらってばっかだったら幸せも逃げていく。というのは自論だけど。

でも誰かを応援して生きていきたい。その人の決定的瞬間を見逃したくない。

そんな欲張りなウチは自分の人生を応援できなかった。


はーとため息をつきながら、固定ベルトの軽装備になった足をぶらぶらさせながら考えていた。

「ママー。ということでママに相談があるんだけど。」

「相談?あなたが?」

珍しいわねという顔でこちらを向いた。

「ちょっと待ってね。」

慣れた手つきで食洗機の中に食器を詰め、ドアを閉めボタンを押した。

手を拭き、リビングの自分の椅子のむかいに座った。

「でなに?」

まっすぐこちらをみている。少し濃くなったほうれい線が、口角の邪魔をしながらもこちらに微笑みかける。


「進路についてなんですけどー。ぶっちゃけどうしたらいい?」

「ママは大学に行ってもいいくらいのお金は出せるわよ。貯めてきたから。お金はある程度出してあげるから、あとは優子次第よ。」

「そうですよねー。そこは知っているんですけど、どんな風に決めればいいかなって。」

「ふーん。大学名で決めるのもありだと思うし、場所で選ぶのもありだと思うのよ。でも外しちゃいけないのは4年間勉強するから、覚悟しておきなさいってこと。ある程度好きなことでないと大変かもよ。」

遠い目をしながら、昔のことを思い出している顔をしていた。ママはそこそこの大学を出ていて、私よりはるかに頭が良いと思われる。

「そっかー。ある程度目標が欲しいかなって。まあつまりはウチに期待してます?ってこと。」

「そりゃ優子には楽しい幸せな人生を歩んで欲しいなあと思ってるよ。そしてそれくらいのことできちゃうと思ってる。」

「そんな感じだと思ってた。」

ため息を出しても、状況は変わらない。

「何をしたいかわからなかったなら、まずは調べることから始めなさい。自分を調べるとか他の人を調べるとか世界を調べるとか。いっぱいあると思うわよ。」

「ふーん。」

勝手に出された進路表を思い出しながら、頰杖をついた。


ウチは誰かが輝いている瞬間をみたい。誰かが笑っている、誰かが感動しているところを見たい。

「まあまだ時間はあるんだし。」

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