ヒーローがいるのに平和な街

常世田健人

暗闇の空間 ①

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 ……おやおやこれは奇遇ですね。まさか、来訪者が来るとは。

 ここに辿り着くあなた方は誰でしょうか? すいません、あなた方がこちらを見れないと同時に、こちらからもあなた方がよく見えていないのですよ。

 ゴホン。

 それでは、改めましてこんにちは。

 ここは誰からも知られていないのですが、それでもしかしこの世のどこかに存在する『暗闇の空間』です。

 例えば、日本。

 例えば、アメリカ。

 例えば、大陸。

 例えば、大海。

 例えば、雲の中。

 例えば、宇宙。

 例えば、そう。

 ――ヒーローがいるのに平和な街。

 ここは暗闇しかない空間です。なので、あなた方からは私がシルエット程度しか見えていないでしょう。あ、目が慣れたからといってその状態が変わることは有り得ませんのでご理解を。

 この空間は、これからあなた方が観ることとなるヒーローがいるのに平和な街の世界の狭間に起こる別次元の世界となっています……という設定です。どうやらあなた方はこの世界に、随分と遠回りな方法で来てしまったみたいですね。ご安心下さい。この話しが終わり、ヒーローがいるのに平和な街を観終わったが直ぐに、元の普通の世界に帰らせてさしあげましょう。なので、今から私が言う戯言にお付き合いを願います。

 さて。今、あなた方からは私がどんな姿に見えていますか? 背格好は? 性別は? 髪型は? 五体満足に見えていますか? 見えている方は大丈夫です。一応、私は四肢が全てある状態なので。

 憶測ですが、今、あなた方からは『小さな男の子』に見えていると思われます。あなた方から随分離れていますし、髪も短くしてあるのですから。

 しかし、ほら、この短髪のかつらを取ったらどうでしょうか? 髪が肩までの長さとなりました。ふむ。これは肩にかかりますね。億劫です。

 では、このかつらをとりましょう。どうでしょうか。今、あなた方から私は坊主のつるつる頭に見えていると思います。ですがこれは私の年齢からいって恥ずかしい髪型ですね。また、新しいかつらを被らせてもらいましょう。ふむ、ふむ、ふむ。この、ポニーテールにしましょうか。

 そういえば、この位置はあなた方から遠すぎますね。どうせ後少しのお時間の付き合いです。近付きますね。私の身長がいきなり伸びても、嫌がらないで下さいよ。

 ではでは。今しがた私自信が証明した通り、事実には嘘偽りが含まれる場合があります。それはいついかなる時でも起こり得る事象であり、ここまで来ることに成功したあなた方や暗闇の空間に住む私でも、逆らうことは出来ません。

 そして、実際にそれは起こってしまうのです。

 私の頭上に出現された巨大モニターをご覧下さい。ああ、ご心配なく。国お抱えの科学者……もとい、私の協力者達が精魂込めて作った代物ですので、光りは出ません。あなた方の頭の中を直接ジャックし、半強制的にモニターを写しますので。危険なことは一切合切ございません。先に断言しておきましょう……っと、そう言っている間に準備が整ったようですね。モニターに映像が映し出されました。

 さてさて、ではでは。

 これから始まりますヒーローがいるのに平和な街は、二つの視点から展開されます。

 昔、ヒーローに命を救われ、様々な人物と積極的に関わろうとする大学一年生の主人公――刀銃。

 復讐を誓い、ヒーローがいるのに平和な街に紛れ込んだ指名手配犯を捕まえようとする主人公――佐藤栄作。

 二人の物語は接点など無いに等しく、しかもその物語が混じり合うなんてことが起きる訳が無かったのです……が、ああ、運命とはなんと残酷なものでしょうか。

 二人が居る物語の世界は……あろうことか『ヒーローがいるのに平和な街』なのです。

 この世界において、接点なんて関係ないのですよ。

 混じり合い――時に分裂し――融合し結合し分散し換算しあうその様は、まさに運命の歯車が狂っているとしか言いようがないのです。

 さあ、私の言葉など、ほんの前座に過ぎません。では早速観ることにしましょう。

 ヒーローがいるのに平和な街。

 とくとご覧あれ。

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