英雄が魔法使いはじめました

@maousan927

俺が魔法使いに成るまでの物語編

第1話 出会い

「なんだ…」

視界が霞む。体が浮いているような…。

暖かいのか冷たいのか、それさえも分からない不思議な空間。

瞬間、霞んでいた視界がゆっくりと晴れていく。次いでぼんやりと色が映え始め、段々と形を作り出す。映像を見ているような感覚。

建物が一切ない、まるで隕石でも衝突したように焦土と化した地面がみえる。

妙に世界が赤い。

炎が辺りを燃やしているのだ。地面には、幼い女の子が倒れていた。

腹からは大量の出血。

突然、高校生くらいの男が走ってきた。男はその女の子の隣に座りこんだ。そして、女の子を抱き上げ大声で叫びをあげている。

その男の姿を見て俺は不思議な感覚に襲われる。

俺だ。

俺が俺を見ている?なんだこの記憶…。複雑だ。あったような…いや、こんな記憶はない。

夢か……。



*



「うるせぇええ!!!!!」

神田武流かんだたけるは、ベットから上半身を勢いよく起こした。

携帯電話のアラームの音で起きたのだ。

やはり夢だった。何なんだ…あの夢…。

もやもやした気持ちを抑え目を擦り、ぼやけた視界を回復させる。枕の横でうるさい音を発している携帯を取り、アラームを消してホーム画面に移動する。画面には今日の日付けと、時間が表示されていた。2046年5月7日月曜日6時30分

神田 武流、何処にでもいるような普通の高校2年生だ。

顔立ち、普通。運動、勉強ともに普通。体型も中肉中背。

少し変わったところと言えば両親が1年くらい前に仕事で海外へ行ってしまったことだ。

だがら武流は独り暮らしをしている。もう随分と独り暮らしをしてるものだからなれてしまっていた。

「ふぁあ」

大きなあくびをして潤んだ目を擦りながら部屋を出た。

延びをして階段を下り、洗面台へと向かう。乱暴に顔を洗った。冷たい水が眠気を飛ばしてくれる。顔をタオルでごしごしと拭いてそのまま台所に足を向けた。

近所のスーパーで買った食パンをトースターで焼き、牛乳を冷蔵庫から取り出しコップに注ぎ一気に飲みほす。

焼けた食パンに適当にジャムを塗って口にくわえながらリビングに入る。テレビの電源を付け、ソファーに座る。

画面には朝のニュース番組が映し出される。

「またか……」

ボソッと呟く。それは、毎日のようにあらゆるメディアで取り上げられるニュースだ。

そこにいたはずの人が突然、姿を消してしまうと言うもの。それだけでもニュースになるのは不思議ではない。

しかし、一番の理由はその被害の数だ。

3週間で合計行方不明者数8000人以上と言う恐ろしい被害数だ。それに消えた者の行方を警察が毎日のように探しているのだが、一人も見つかっていない。

そして更に怖いのが被害の範囲は東京都だけなのだ。なかでも被害の多い場所、そこは霧野区きりのく(旧新宿区付近)である。

武流が住んでいるのもまた、東京都、霧野区なのだ。

新宿付近が霧野となったのは今から10年前のある大災害の影響である。

東京大空穴とうきょうだいくうかん》それは新宿区から大田区にかけての一帯が、まるでスプーンでくりぬいたかのように、円状に焦土と化した大災害。

そして10年の時をかけ、新宿区、渋谷区、中野区が合併し、一つの区として再開発された。それが霧野区なのだ。

もともと八王子市に住んでいた武流が霧野区に引っ越して来たのは、高校入学の年だった。



適当にテレビを見ている時、不意に壁にかかった時計を見ると時刻は7時30分を過ぎていた。

学校までは徒歩20分。

「そろそろ行くか」

ゆっくりとソファーから立ち上がってテレビを消す。ハンガーにかかった都立蓮河高校とりつはすかわこうこうの制服を着て洗面台へと再び向かう。歯を磨いて適当に髪を整える。

スクールバッグを肩に提げる。携帯の画面をつけると、7時45分と表示されていた。いつも家を出る時間だ。

ポケットに携帯をしまい、玄関へと向かう。

靴を履き、玄関のドアを開けた。

「ぁっ!おはようございます」

不意に女の子の綺麗な声音。

その声の主とおぼしき少女は武流の家の前の細い道に立っていた。

容姿端麗な顔立ち。色素の薄いアッシュブラウンの長い髪をポニーテールにしてまとめている。

華奢な体に白い肌がなんとも可憐な少女である。

思わず見とれてしまう

飽きるほど見慣れた蓮河高校の女子の制服を着ていて肩には学校指定のスクールバッグが提げれている。長袖のブラウスには青色のリボンが結ばれていた。

蓮河高校は男子はネクタイ、女子はリボンの色が毎年変わる。

今年は1年生が青、2年生が赤、3年生が緑である。

つまり、この少女は1年生なのだ。

武流は静止した。ドアノブを握りしめ、少女に視線をやったまま動けない。

誰だこの可愛い女の子は!!おはようございます?え?俺に言ったの?いやいや俺にこんな可愛い子が喋りかけるはずがない。どんなラブコメ展開だ。

いや、でも周り俺しかいないぞ?もしかしたらホントに!?…いや~でもないだろ。クラスの女子ともまともに話したことないのに…朝から家の前で待っててくれる女子なんかいないし。

あれだな。これは幻聴、幻覚。そう!それだ。

こんな幻覚を見てしまうほど疲れていたのか。にしても超リアルだ。触れるんじゃね?ってくらい。凄い。これが3Dか。いや?4D…5Dとか?本当に触れんじゃね?幻覚だったら触っても良いと言うことだよね。うん。きっとそうに決まっている。

武流はゆっくりとその少女の方へ足を向ける。そして手を伸ばした。

顔面に隕石のような一撃をくらった。

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