第5話:妖檄舎の人々①

 それは、聖魔と呼ばれている。

 人類を滅亡させるため、神より遣わせし魔物。

 それは人間の子供と入れ替わり、人間の子供として社会の中で成長する。

  そして時が満ちたとき突如変妖し殺戮の限りを尽くす、異形の者である。


 聖魔が何時から存在したのか、誰も知らない。

 だがしかし、その存在を知った人間は歴史の陰で常にそれと戦ってきた。


 太古に神格化されていた幻獣を従え、そこに己の魂を注入・燃焼させることで超常的な武力を得る錬丹術と、霊鋼と呼ばれる霊伝導体で出来た武器:霊具。

 その異能の力を以って、聖魔の魂を瞬時に、かつ完全に消滅させる。

 それこそが聖魔を倒すただ一つの方法であった。


 しかし、世界規模で跳梁跋扈する聖魔に対し、修錬丹師となれる人間の数は少なく、聖魔を撲滅するには、あまりにも不利であった。


 そのため人類社会は、聖魔に対するある共通のシステムを適用してきた。


 それが封印都市政策である。


 人類が暮らす地域を区画ごとに結界で繋ぎ、聖魔が発現した場合にはその区画を隔離、聖魔を封じ込める事で被害の拡散を防ぐ。

 そして、閉鎖空間となった都市に修錬丹師を派遣し、戦わせる。

 聖魔が滅び、修錬丹師によって封印が解除されるまで、何人たりとも結界を抜ける事を許さない。


 封印都市の境界は完全に封鎖され、その実情が市民に知らされることは無い。

 そんな中で、修錬丹師は、夜の闇に紛れ、人知れず聖魔を滅ぼすのだ。


 封印都市政策は諸刃の剣である。

 修錬丹師によって聖魔が滅ぼされれば良いが、討伐に失敗した場合、そこは人外の魔窟と化してしまう。

  都市に封じ込められた人間は、新たな修錬丹師が派遣され、その聖魔を倒すまで、殺戮の的として命の危険にさらされ続けるのだ。


 事実、大妖と呼ばれる強大な力を持つ聖魔によって、魔窟として暗黒化した都市も少なくない。

 それでも数百年間にわたり、人間にとってはそれが最善の策であることに代わりは無かった。


 その封印都市政策が、この帝都東京北東区に展開している。

 都市の封印解除の鍵を握る妖檄舎の修練丹師、仙道霧子。


 その霧子は、北東区の闇に潜む、大妖の気配を察していた。

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