第16話 避妊手術

 ウチの子(猫)は女の子だ。子供を生むわけではないのならば避妊手術をした方が良い。家猫だが、発情期には体力を消耗するらしいのだ。

 避妊手術は大体生後六ヶ月以降で、大人の体つきになってからするそうだ。ウチの子は生後七ヶ月の時にすることになった。いつもの病院で手術後、一泊して様子を見るとのこと。初めての手術に外泊だ。心配だが、病院の先生にお任せするしかない。

 手術の日は朝ごはんを抜いて連れていくよう言われた。可哀想だが仕方がない。ただ病院へ連れていく時間は、午前中ギリギリの十二時少し前にした。少しでも病院にいる時間を少なくするためだ。嫌がる猫を病院へ連れていき、先生にお願いする。後ろ髪を引かれながら、わたしだけ帰宅する。

 翌日病院へ引き取りにいくのは、午後の診療時間だ。午後は三時から診療が始まる。わたしは三時ぴったりに病院へ到着するように家を出る。

 午後の診察はわたしが一番だったようだ。

 受付で名前を伝えると、「あぁ、猫ちゃんですね」とすぐに通じた。

 わたしは、「ウチの子は大丈夫ですか?」と聞くと、ウチの子は先生にシャーッと威嚇したとのこと。病院へ連れていく時も威嚇なんてしたことないのに。よっぽど怖かったのだろう。

 手術自体は無事終わったらしい。しかしごはんも食べず、トイレにもいかないらしい。知らない場所でどれだけ我慢しているのだろう。

 わたしはすぐに診察室へ飛び込んだ。そこには、診察台の上にウチのキャリーバッグに入れられた、ウチの子がいた。

 わたしは猫の側に直行し、「大丈夫?」と聞く。

 そしてはっとして先生を見る。

「すみません、ありがとうございました」と先生に言うと、先生は笑って「手術は無事成功しましたよ」と言ってくれた。

 わたしは猫に向かって「よく頑張ったね。えらいね」と言った。すると先生は、「そうそう、そうやって褒めてあげて」と言ってくれる。再度先生にお礼を伝え、猫と一緒に家路につく。

 家に着き、猫をキャリーバッグから出す。真っ先にトイレへ飛び込んでいくと思ったが違った。猫は、わたしにすり寄ってきたのだ。お腹が空いているだろうに、トイレに行きたいだろうに、真っ先にわたしにすり寄ってきたのだ!

 わたしは泣きそうになった。わたしを頼りきっているこの子を守らなければ、と強い使命感に襲われる。

 ひとしきり猫を撫でてあげると、猫も安心したようで、トイレへ飛び込んだ。そして長い間座り込んでいた。ずっと我慢していたんだね。その後ごはんを食べ、すぐに寝てしまった。

 あぁ、この子はペットホテルにも預けられないなぁ。

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