第3話 皇帝軍最強の一対
都に通じる街道を、月明りの中、馬を飛ばして進む二騎があった。
先を走る馬に乗っている者は、重い鎧を身に纏い、腰に剣を帯びていて、一目で戦場からの使者らしいという事がわかる。その馬の来た方向から、恐らく、秋白湖方面に駐留している、天海元帥
長身で、体格も良く、典型的な武人に見えるが、時折、光の加減で金色に見える明るい栗色の髪と、印象的な琥珀色の瞳を持つその顔を見ると、どうも、その身に纏う鎧が妙に不釣合いなものに見えてしまう。というのも、幾つもの戦火をくぐり抜けてきたであろうその鎧に対して、それを纏う者があまりにも若すぎるから、であった。
彼の名は、
年は十八である。
六年前の
勿論、劉飛の年齢では前例のない事で、彼の昇格を良く思わないものは、『鎧が、子供の頭をつけて歩いている』などと皮肉を言ったものだが、劉飛の琥珀の瞳に、面と向かってそう言える者はいなかった。劉飛の剣技は並のものではなく、彼と剣を交えて、一分と生きていたものはいないという噂があり、人並み以上に寛大でもない劉飛に対して、それを試してみる程の物好きはいなかったからである。
劉飛の後ろを走っていた白馬が、その速さを少し上げ、劉飛の黒馬と駒を並べた。それに気付いて、劉飛は馬の手綱を引いた。
「どうした?
劉飛がそう呼んだのは、彼よりも更に年若い少年だった。
周翼は、劉飛の剣の師であった
その出立ちを見た限りでは少女と見えないこともない。実際、女に間違えられたことも幾度かはある。しかし、あまり知られていない事だが、実は、劉飛と剣を交えて、唯一、生き残っている人間が、この周翼だった。
普段は劉飛の副官として、先走りしがちな劉飛の押え役を努めていて、その存在こそあまり目立つものではなかったが、劉飛を現在の地位にまで押し上げたのには、周翼の智略が少なからず、その一翼を担っていた。二人の親代わりである璋翔元帥が、『勇の劉飛、智の周翼。二人が一緒にいれば、一個中隊並の働きをする』と称え、二人が天海元帥のもとに配属される事が決まって、さんざん残念がったという話も残っている程である。
劉飛は、周翼に剣で負けて以来、その存在に一目置いており、周翼はというと、これも劉飛の豪快さを気に入っている様であった。
劉飛に呼ばれた周翼は、
「あれを」
と言って、天空の月を指差した。
「月食か?今時分、どういう事だ?」
「暦にはないものです。食の進みも早い様ですし……凶兆ですね、これは。城の占術師に聞いたことがあります。
「河南の女丈夫の鬼姫か……それにしても、お前の
「りゅ、劉飛様っ」
自分の言ったことで、周翼が思いの外、動揺したのを見て、劉飛は声を上げて笑いながら、鐙を蹴った。彼の愛馬、
「劉飛様っ!」
慌てて追う周翼に、風に乗って劉飛の声が届く。
「都へ、
都への使者という役の代わりに、天海元帥がくれた久し振りの休暇だと言うのに、どうやら、何事もなく済みそうもない。そう考えて馬を駆りながら、周翼は溜息をついた。
河南を制する者は、天下を制す――
皇家に伝わる、帝王兵書の一節に、こんな言葉がある。
先の内乱、李笙騎の乱の後、八代皇帝
光華帝は即位後間も無く、帝国の要衝である、河南、
光華帝は、その人となりは穏やかで争い事は好まず、英明な君主となった。こうして内乱の混乱が収まり、帝国に束の間の平和が訪れた。だが、平和は長くは続かなかった。光華帝がその即位から僅か二年で、急逝してしまったのである。
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