さらさちゃん水想録
みなりん
星の夜
夜、ベッドから起きだしたみーちゃんは、キッチンへ行って、水を一杯飲みました。それから、リビングへ行き、家族からお誕生日にプレゼントしてもらった金魚たちが、どうしているかと思い、明かりをつけずにそっと水槽へ近づいてみたのでした。
2匹の小さなお魚が、こちらに尾を向けて眠っていました。みーちゃんに気づいたのでしょうか、そのうちの一匹が、すっと体の向きを替え、よく見ていなければわからないくらいの俊敏さで、目をしばたたかせました。
みーちゃんは、お魚を起こしてしまったと思い、ひそひそ声で、「ごめんね、起こしちゃって」と声をかけました。すると、お魚は、水槽のこちらに顔を寄せ、口をぱくぱくと動かしたのです。
「?」
みーちゃんが、ガラス越しに顔を近づけたとき、突然、声が聞こえ出しました。
「みーちゃん、眠れないの?」
みーちゃんは、聞こえたその声は・・・きっと空耳か、それとも、テレビかラジオの音の消し忘れ、そうでなければ、携帯電話のメール着信音かと思ったので、辺りを見回しましたが、それらは違うようです。それから、ちょっと心を落ち着けようと目を閉じて、軽く息を吸いました。そうすると、聞こえてくるのは、濾か装置のブクブクいう音と、風のざわめきと、時計の音だけ。みーちゃんは、目を開けて、お魚を見つめました。
お魚は、丸くて愛らしい目をこちらに向けて、軽く胸ひれをふっています。みーちゃんは、その一匹のお魚の名前を、そっと呼んでみました。
「さらさちゃん?」
「はあい」
返事は、すぐに返って来ました。
「さらさちゃん、口をきけるようになったの?」
みーちゃんは、驚いて、さらさちゃんに問いかけました。
「みーちゃんが、わかってくれたからダヨ、魚のことばを」
さらさちゃんの声は、あぶくがパチンとはじけるような澄んだ音の響きでした。
「素敵!でも、ごめんね。こんな夜中に、水槽のそばに来てしまって、起しちゃったよね?」
さらさちゃんは、顔を横にふりました。
「ううん、考えゴトをしていたの。そしたら、眠れなくなっちゃって」
「そうだったの、私とおんなじ」
「いつもナラ、半分眠りするところなのに」
ああそうか、と、みーちゃんは、思いました。お魚は、目をつむらなくても、半分、眠ったり起きたり、していられるのです。それが、きっと、半分眠りなのでしょう。さらさちゃんは、半分眠りもできないとは、どうしちゃったのでしょう。
「そうか、じゃあ、眠れない者同士、ちょっと、お話しましょうか」
星明かりのさしこむ窓辺で、一人と一匹は、心を寄せ合っていました。
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