第25話 白旗騎士団
『候補生たち。椅子の背もたれから少し体を離してみろ』
オルバイファスに言われると、その通りにした。
その行動には怯えだけではなく、好奇心も手を貸していた。
オルバイファスの送った立体映像は、たちまちシエロ達の頭上から左右、後ろまで埋め尽くした。
『赤外線カメラで写した、フセン市の映像だ。
我は全身にカメラを仕込んでおる。
映像のつなぎ目にずれは無いか? ……ないか。よかった』
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そこは、本来なら閑静な住宅街。
赤い瓦で覆われた切妻屋根に、柔らかなクリーム色のレンガの壁。
家全体を覆うテラスや、大きなアーチ状の窓など、個性豊かな家が並ぶ。
それが今、無個性な白黒画像となって映しだされている。
赤外線カメラでは、熱を持つ物ほどはっきり映しだされる。
当然、一番目立つのは炎だ。CGで赤く着色され、家々の間で揺らめいていた。
今、この雨を降らせているのは、暴走状態の消火栓と龍神サイガだ。
だが、3種族と闘いながら、消火栓が開いていなければ不十分だ。
屋根は燃えあがり重力に負け、残骸となって庭に飛び散る。
風に乗り、火の子は道路を超え、新たな火種となる。
実は、火が回る前からすでに、崩れ落ちていた家はあった。
異星人の攻撃により穴が開き、そのまま放置された家だ。
そこから雨が入れば、木材はバクテリアやシロアリが繁殖して、鉄の釘はさびる。
レンガにさえ根を張り、家全体にからみつくのはニワウルシだ。
庭は手入れされることもなく草も木も伸びている。
ほんの数年もあれば、家はツタとコケで押しつぶされる。
いまや森と区別がつかないところさえある。
道路が、本来水平のはずが波打っている。
地下に埋設された水道管が破損し、漏れでた水が地中を削ったからだ。
大きなへこみには黒い雨水がたまり、割れ目には草むらさえある。
メンテナンスができない、今まで長引かせてきた宇宙戦争の弊害だ。
そしてそのことを、ことさら誰も話題にしない。
もはや、当たり前の光景になっていた。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
「チェ連の焦土作戦は、大成功ね」
2号が、怒りを抑えきれない様に言った。
「瓦礫のせいで、スーパーディスパイズが降下する前に、車列を通せなくなったじゃない! 」
「武産! そんな風に言うんじゃない! 」
あわてて1号が止めた。
士官候補生たちには、彼女がなぜ怒ったのかはわからない。
ただ、底知れぬ恐怖だけを感じていた。
「あ、あれは、何ですか? 空から地面に降りる長い棒? 」
それでもカーリタースは、好奇心をおさえられなかった。
彼がきいた棒は、画面の中で何本も映っていた。
そのうち一本は、オルバイファス達の目の前にあたっている。
地域防衛隊はマーカーには気づいていないらしい。
左側には川がある。そのはるか向こうでは、何本も束ねられたように並んでいた。
オルバイファスが答える。
『赤外線レーザーマーカーだ。空中のヘリやドローンなどから照射される。
あのマーカーが、チェ連の地域防衛隊をさししめしている。
左に束ねられているのは、スーパーディスパイズの着陸地点だ』
束ねられたマーカーは、さながら天に行くにしたがって広がる、巨大なタワーだ。
そしてその上には、量子世界からあけられたポルタが。
説明は続く。
『画面左側には川。その向こうに、ドディ達のいる浄水場がある。
川沿いに前へ進めば、多国籍軍が戦う異星人居住区が。
川を渡らず右後ろに進めば、臆病者の城、マトリクス聖王大聖堂がある。
そして大聖堂から、プレシャスウォーリアー・プロジェクトに基づく、車列が向かってきているのがわかるな。
ここから忙しくなる』
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地域防衛隊が川沿いの2車線道路に精一杯広がり、新たな敵に向きあおうとしている。
皆、ボロボロの制服なのが、荒い画素数でもかろうじてわかった。
なのに、今火を吹いている銃だけ、やけにきれいに見える。
エンジンの温度ではっきり白く映し出される、装甲トラックやバス。
トラックの荷台には、重機関銃や灯光器が並んでいる。
彼らを囲むのは、ハルマードを振るう身長60メートルの青鬼、ディミーチ。
身長50メートルで両手にマシンガンを持つカマキリ型異星人、カーマ。
身長は3メートルながら、自動車を放り投げる怪力を持つティモシー。
突如バリアが使えなくなったことも、防衛隊には痛手だ。
更なるショックが襲いかかる。
左に数キロ先、地球の勢力圏。
赤外線レーザーの束の中心に、高エネルギーの何かをしたがえて、巨大な人影が降り立った。
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(あれがスーパーディスパイズ)
そう候補生たちが悟った時、画面が白黒からカラーに変わった。
確かに十分な光だ。
降り立った人型は、身長が1キロ以上あるように見えた。
全身灰色。
その足元の屋根が、細かく揺らいでいる。
そう思ったら、ようやく腹を響かせる轟音、着陸音が聞こえた。
『あの人型ロボットがスーパーディスパイズ。
レイドリフト四天王。地球圏ですぐ動かせるレイドリフトの中で、最強の4人が運用する。
今は見えないが、中心になっているロボット、レジェンド・オブ・ディスパイズがある。パイロットはレイドリフト・ディスダイン。
遺伝子レベルで改造されてはいるが、あれの操縦に特化しただけの、人間だ』
「特化しただけ? どういう事です? 」
シエロが聴いた。
『聴いてのとうりだ。
あのロボットとディスダインは、一つの戦闘システムなのだ。
悪の秘密結社が作った文明破壊ロボットと、コントローラーたる人造人間という奴だ』
それを聞いた時チェ連人に浮かんだのは、嫌悪感。
今までにもそのような人造人間はいた。敵として。例外は無い。
だが、立体映像をくぐって他のヒーローを見てみた。
誰も気にするそぶりも見せず、各々の仕事をしている。
彼らにとっては、ディスダインとやらが裏切るという事は考えにくいことらしい。
『どうやって仲間にしたかは、またの機会に聴いてくれ。
今は、今だから説明できることを』
オルバイファスが引き戻した。
スーパーディスパイズは人型だと言われたが、首から上は無い。
代わりに伸びた腕は太く、重武装だった。
それまでチェ連にあったもっとも打撃力のある戦艦と、全長300メートルだったそれと、同じくらいのサイズではなかろうか。
3門の砲が乗る砲塔。それが前に2つ。後ろに1つ。
『両腕と上半身は、1隻の宇宙戦艦フェッルム・レックスが合体している。
パイロットはレイドリフト・バイト。
彼は勇敢ではあるが、ごく普通の人間だ』
ごてごてした上半身と違い、両足は平面で囲まれていた。
その平面の一つに、矢印のような模様が書いてある。
普通の家々は、つま先にさえ届かない。
『下半身は、宇宙空母インテグレート・ウインドウが合体している。
パイロットはレイドリフト・マイスター。
1号以上のミーハーなのは問題だが、頭は切れる。
4人のまとめ役だな』
模様は、艦載機への目印だった。
「ミーハーではありません。
最新技術に気を配っているだけです。
彼の方がお金をもっているのは事実ですが……」
1号は悔しそうに言った。
だが、聴いている者は誰もいなかった。
巨大な光源は、金属の手で、正確にはそこに発生するバリアで握られていた。
太陽をいくつも、まっすぐに並べたような、槍。
スーパーディスパイズの身長に負けないくらいの、槍。
それは2隻の巨大戦艦のような腕で支えられ、頭上のポルタを貫いた。
ズズウゥゥゥゥゥン
その時の衝撃で、降り続いていた雨が一斉に地面に落ちた。
あれが、達美専用車を揺らした衝撃だったのだ。
『そしてあの槍。
あれも、レイドリフトの一人。
レイドリフト・メタトロンだ』
バイトの腕が、ぐりぐりとメタトロンの槍をねじる。
そのたびに、ポルタのふちが円く、大きくなっていく。
まるで粘土だ。
『少し長くなるが、聴いてくれ。
あの槍の中に、カラフルなガスがマーブル模様を描いているな?
……まぶしくて見えんか。あれは、星間ガスでみちている。
太陽のように見えるのは、一つ一つが中心にブラックホールを持ち、凄まじいエネルギーを放つクエーサー。全部で73個ある。
しし座にあるクエーサー群、U1.27。
クエーサーが40億4000万光年もの長さで数珠繋ぎになった宇宙の巨大構造物だ。
これは地球人類が観測可能な宇宙の23分の1に相当する大きさで、宇宙は均一ではないという証拠でもある。
それが力の根源だ。
U1.27は、複数のブラックホールで平行世界への穴をあけることで、さまざまな可能性を引き寄せていた。
しかも、その影響で自我が生まれた。
さながらニューロンと呼ばれる脳細胞同士が神経を結び合って思考能力を鍛えていくように、ブラックホール同士を結び付けたのだ。
そこで問題が起こった。
知性を手に入れれば、それを使ってみたくなる。それはU1.27も同じだ。
だが、グレートウォールの文明では、その力を受け入れてくれる学校も就職を許す仕事場も無かった。
だが、宇宙は広い物だ。受け入れるやつもいたのである。
名前は伏せておくが、確かに天才的天文学者だ。
天文学者は常日頃から、宇宙の物理法則について考えをめぐらせていた。
宇宙の物理法則とは、私たちが知るものだけではないはずだ。
異能力者の存在が、その可能性への憧れを掻き立てた。
そこで利害が一致し、天文学者はU1.27の力を受け継ぎ、U1.27は地球で働き始めた。というわけだ』
カーリタースが、恐る恐る手を上げた。
「し、質問です。
ボ、ボルケーナ様と、どちらが強いのでしょうか? 」
へえ。と、オルバイファスは意外そうに笑った。
『お前も男の子だな。そこに興味があるか。
実のところ、分からない。
なぜなら両者とも、我々のいる次元だけではなく異世界にも体の一部を持っている。
そうすることで、異なる物理法則を操る力を得る訳だ。
それらは、常にコントロール下にあるわけではない。
むしろ自分の裁量で行動できる。それが分身体だ。
そういう時は、互いの行動を予測しながら計画を組み立てる訳だ。
それらを集めて、全力でぶつけあう事は、事実上不可能だ』
「どんな銀河も壊れちゃうからね~」
ドラゴンメイドが茶々を入れた。
その時、気が付いた。
おとなしくワイバーンと共に仕事をしていると思っていたが、その尾はしっかりとワイバーンの腰に巻きついていた。
『川の上流を視ろ。白い旗をつけた車が、何台も来るぞ。
白い旗は、地球では非武装を表す』
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カメラは川上を拡大した。
ゆるく曲がった流れ。それを断ち切るように、砕けたコンクリートや鉄骨の瓦礫が沈んでいる。
地域防衛隊に落とされた橋だ。
この道をカメラから見て左に行けば、大聖堂へ続く。
ここでも、火の手が上がっていた。
倒壊した建物も多い。地味は閉ざされてしまったに違いない。
と思ったら、その瓦礫が吹き飛んだ!
瓦礫の中から現れたのは、巨大なドリル。
それを支えるのは、車体の下全てを動かす、4つのキャタピラ。
すでに失われたはずのチェ連陸軍の兵器、岩盤突破戦車だった。
さらに、周囲の燃える家も、巨大な力で根こそぎ切り倒され、弾き飛ばされる。
それをするのが円形の刃をうならせる、動力のこぎり。
これも岩盤突破戦車と同じ車体が支えている。
森林突破戦車だ。
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まだ使えるチェ連戦車があったのか?
国民を救える力が!
そう思うことが、チェ連の少年少女に希望の灯をともした。
だが、オルバイファスの説明は、残酷な衝撃となって聴く者を襲った。
説明した彼に自覚はなくとも。
『岩盤突破戦車は料理部部長、ダッワーマ。
森林突破戦車が美術部部長、クライスだ。
2人とも、我の元部下で、同じ金属生命体だ』
見れば、川の対岸にはフーリヤが降りてきた。
翼の端から端まで30メートルにわたる鴉のような姿と、凧のような8本の足。
そしてダッワーマやクライスと同じように、周囲の家々を壊し始めた。
たちまち川の両岸に空地ができた。
上空には、全長170メートルに達するサメ型宇宙戦艦、ノーチアサン。
下の川幅は60メートルだから、着地すると余裕で船体がとどいた。
船体前後の傾斜版を下せば、応急の橋になる。
橋に、次々に乗用車がわたっていく。
「オルバさん、あの車たちをはっきり見せて」
突然、ドラゴンメイドが割って入った。
『ああ、見せるつもりだ。君渾身の選定だからな』
川を渡る車列。
その1台1台が拡大され、くるくる回る3Dとなってしめされる。
当然それは、民間人が持つ、ただの車両のはずだ。
だがトラックや、日本人の感覚からすれば精錬されていない車に混じって、感じが違う車が混じっている。
ある1台には乗車人数が2人にもかかわらず、エンジンに大きなチャンスを与えていた。
またある1台には、4・5人を運べる機能に不要なほど、複雑な空力特性を重視したボディを持っていたり。
しかもその車体は、さびも歪みもなく、艶やかなペイントが施されていた。
「やはり、幻じゃなかったんだ! 美しい」
カーリタースが、うっとりしている。
『そうだ。あれはスポーツカーという。
機械工学の粋を集め、純粋に速さを追求した車だ』
そしてその車体には、必ず短い棒に、白い布がしばりつけてある。
CGのスポーツカーがドアを開け、中から様々な物をだした。
地味な車からもでてくる。
この地味な車にも、白い旗があった。
『偉人の像。絵画。レコード盤。映画のテープ。それらの再生機器。
どれも、50年前から作られなくなった物だ』
芸術作品のリストが現れた。その総数は1,412点。
作品の画像も次々現れる。
画像は画像に重なり、何が何だかわからないオブジェに変わる。
「こういうお宝と、それを持つ人を、日本へ連れて行く作戦。
それがプレシャスウォーリアー・プロジェクトなの」
口を挟んだのは、この手の造詣が一番深そうなドラゴンメイドだ。
だがその声は弱弱しく、ためらいがちだった。
「ええっ。そんなに芸術に価値がない世界なの? 」
ワイバーンの、恐怖と怒りが滲んだ声。
「そうよ。金属は解かされ、石像は砕かれて砂利に。絵や木製品は薪に――」
ドラゴンメイドの説明は、力強くさえぎられた。
「この世界に芸術を持つ権利がないなんてことは、ない! 」
力強くそう宣言したのは、カーリタースだ。
その拳が、強い意思によってわなわなとふるえる。
その様子に、ヒーローも、士官候補生たちも、ただならぬものを感じた。
「それは分かってるよ。カーリ君」
ドラゴンメイドは言った。
「政情が安定すれば、あのお宝はチェ連に返すよ。
でも、他にできることはないじゃない。
私たちはこの星で使えるあらゆる方法で、召喚者達に話しかけたんだよ。
これまでに行った作戦。全部報告した。
でも、返事はない。
だったら、一番考えが近い人に助けを求めるしかないじゃない」
彼女にしては珍しい、あきらめた弱弱しい声だった。
「一番考えが近い人。
それは誰だ? 」
シエロには、まるで覚えがなかった。
そんな彼を、ドラゴンメイドはまじまじと見つめてくる。
ゴーグルの奥から、気の毒そうな、憐れむような視線が見えるようだ。
「あなたのご先祖様が聴いたら泣くでしょうね。
マトリクス王国。その領土と文化を受け継いだマトリクス国を懐かしむ人々の事よ」
それが今、スーパーディスパイズの真横を通っている。
作業で飛び散り、落ちるのは火花か、それに似た謎のエネルギーなのか。
上にはフーリヤが滞空し、バリアを張った翼がそれを受け止めている。
竜崎 舞が、空飛ぶ巨人となって並んだ。
量子現象を操る力で、それを打ち消す。
「シエロ・マトリックスって人、知ってる?
マトリクス王国の最後の王子さま。
王国は民主国家に変わったから、王様にはならなかったけど、素晴らしい絵描きになってる。
ワインの会社でも成功をおさめ、大きな美術館も作ったんですって。
そして、50年前に亡くなった。
かなりの高齢だったけど、会社員を逃がそうと声をかけ続けて、途中に心臓発作で……」
心から、偉人の死を悼んでいるようだった。
「あなたの、曾おじいさんよ」
突然、シエロの心にとてつもないさみしさが襲った。
あまりに突然のことで、なぜそんな衝撃を受けたのか、自分でもわからないほどに。
だが、すぐ思い当った。
自分の曽祖父の遺訓は、今も生き続け、あの車列を走らせている。
異星からきた魔術学園生徒会もいっしょだ。
(あれだけの人数と能力があれば、いったいどれだけのことができただろう……)
それが、自分にはない。
今まで知ろうともせず、侮って来た過去の遺産が、そのままさみしさとなってのしかかる。
『車列の編成を説明しよう』
車列の先頭では、瓦礫が巻き上がっていた。ダッワーマとクライスだ。
そのすぐ後ろで、黄色いアーチのようなものが、道路を覆っているのが見えた。
『体育祭実行委員会会長、川田 明美』
顔の画像が示される。
日本人なら市松人形を思わせるショートボブの黒髪。
ぽっちゃりした女の子。
『日本人。両親はサラリーマン。きわめて平和な家庭で育った。
能力は窒素に干渉し、イメージどうりの形に変えて、操る。
今は鋼鉄より硬いアーチに変えて、車列を守っているな』
だが、そのアーチも無限ではない。
先頭はダッワーマとクライスについて行っているが、後ろは進んだ分消えていく。
その間は、せいぜい100メートル程度だ。
『その後ろを守るのが、未来文化研究部部長、ペク ミンファ(白 明花)』
家々の影から、かろうじてその姿が見えた。
彼女を運ぶのは大きなタイヤの8輪駆動車。全地形車両ともいう、大型トラックだ。
その荷台に、いかにも鉄板と鉄棒を合わせただけのような客室が乗っている。
平らな屋根には、低い手すりがあるが、走っている時に使う物ではないだろう。
ミンファがいたのは、その屋根の上だ。
黒髪をポニーテールにした丸顔の少女が、目をつぶり、一心に念じながら立っている。
黒い雨がっぱのフードが風でめくれている。それでも気にしている様子はない。
『大韓民国という国からの留学生だ。
能力は、真空崩壊。
エネルギーを使う。その過程で消費する。という行為を、どこまでも引き延ばせる。
今は、彼女のまわりにバリアとして貼っている。
それと、車から振り落とされないように。
突破するためには無限の力が必要になる』
ミンファは、1本の剣に体を預けていた。
黄金に輝く柄と鍔。
つばは左右に大きく張り出している。
そこから先は、確かに鉄の色に輝いている。
だが、そこに刃は無い。切っ先も丸く、ミンファはそれを杖のように使っている。
『あれが、メイメイから受け継いだ聖剣だ。
前はちゃんとした剣だったが、受け継いだのちに最適化した。
あれは、十字架という物をイメージしている。
キリスト教という、地球古来からの宗教のシンボルだ。
彼女はその熱心な信者だ』
もう一人、事前に撮った画像で紹介された。
他の女性と違い、顔のまわりを長い布で巻いている。
その中の顔は、おとなしそうだ。
『顔を包むのは包帯ではない。ブルカという物だ。
2年A組学級委員長、サラミ・マフマルバフ。
アフガニスタンからの留学生。
悪い奴らに閉じ込められ、無理やり働かされていたため、今年で21歳。
能力は身体能力が異常に高い。
車の事故などに対処するため、同行している』
シエロ達は、先頭やバリア係に比べて、地味そうな能力者だと思った。
そこに、以前撮影した動画が映し出された。
どこかの空き地のようだ。
メイメイがそばで説明している。
動画の中で、サラミは片手に一つづつ、鉄の板を持っていた。
板の後ろに取っ手があるらしい。
盾だ。その板は、とても分厚かった。
と思ったら、盾が下にスライドし、たちまち全身を覆うほどになった。
それでも厚さはある。ライフル弾すらストップさせるに違いない。
さらに盾の下から、3本の足のようなものが飛びだした。
サラミが手をはなすと、盾はその場に立ちあがった。
突き倒してみても、足は自動で姿勢を保つ。
盾は持ち上げられ、今度はやり投げの様に放り投げられた。
とんだ先は、廃車らしい。
あてられた盾は、その足を廃車にしがみ付かせる。
盾の裏から伸びるのは、鎖。サラミの右手にしっかり握られている。
一方の左腕は、盾を激しく地面に突き刺し、体を固定させた。
鎖がひかれる。
盾の足は、一瞬のことにもかかわらず車体をしっかりつかみ、車はぐいぐい引き寄せられた。
地味、パッとしないというサラミのイメージは、きれいに吹き飛んだ。
『では、我が直営チームを見てもらおう。
ここからは、生放送だ』
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
戦車形態のオルバイファスが、装甲トラックやバスに真正面から衝突した。
彼の装甲には、刃物のような突起が幾つも並ぶ。
それが後付けの装甲などやすやすと切り裂き、路肩に押しのける。
雨あられと降り注ぐ銃弾も、異星のレーザーも、傷どころか焦げ跡さえ残せない。
元破壊大帝は、結局火器を一発も使わずに散々暴れ回った。
そして防衛隊が逃げ去った後、後部傾斜版を下した。
そこから5つの影が飛びだす。
よどみも、迷いもなく。
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