Hate Disaster

蓮根画伯

第1話「加護」

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 お前に俺の憎しみの何が解る?


 解るさッ! 全部アンタのせいなんだからな!


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 ─ここは何処なのだろう?


果てしなくつづく純白の世界。温かい空気が肌に触れる。それは余りにも心地良くて、彼を微睡みへと導く。


「起きて…」


 どこからか女性の声が聞こえてくる。透き通る様な声がまるで子守唄の様に聞こえる。


 ─誰?


 彼は女性に問い掛ける。透き通る様な声は答える。


「私は星の母神フィラン。お願いがあるのです」


 ─お願い?


「そうです。世界を─この星をどうか、助けて下さい」


 霞む視界に女性の様な人影が薄ら現れる。唯でさえ世界が霞んでいるのに更に霞んでいて人影が女性なのかさえも怪しい。

 女性らしき人影は彼に向かって何かを差し出した。彼は霞む視界のまま手を伸ばした。


「どうか、痛みを癒して………」


透き通る様な声はそう言い残して途絶えた。

 真っ白な世界に彼は取り残される。どこまでも続く光の中、徐々に闇が純白の世界を侵食していく。

 世界に亀裂が入り、崩れていく。しかし、手足は動かない。藻掻く事さえ出来ない。

 彼は闇の亀裂の中へと、吸い込まれて行った。







「はッ!?」

 此処は巨大都市─デセスペラシオンの外れにある荒野。乾いた風に吹かれ彼の茶色い髪が揺れる。

 彼は突然目を開き飛び起きた。息遣いは荒く、胸は苦しい。額には嫌な汗がびっしょりとかいており、風で舞った砂が少し顔に付着している。

 彼は思わず両手で頭を抱えた。


「夢…か?」


 溜息をつきもう一度寝転んだ時、カシャッという音が足元から聞こえてきた。


「なッ!?」


 そこにあったのは茶色い鞘に収められた二本の剣だった。

彼は恐る恐るそれを手に取り、鞘から剣を抜く。剣は刃毀れは一切無く、新品同然だった。

 その時、剣から不思議な光が放たれた。あまりの眩しさに彼は目を閉じる。少し経ち、彼は目を再び開けると目の前に白い衣を羽織る女性が立っていた。

 緑の瞳には一切の曇りは無く、透き通る様な白い肌、そして腰まで掛る金色の髪で神々しい何かを放っていた。


「エンス=ティミドゥス……ですね?」


 彼─エンスは頷いた。


「あ、ああ……」


そう言うと女性は微笑んだ。


「やはり、貴方のその黄昏の様な瞳は綺麗な色をしている」


 女性の大きな瞳がエンスの顔を覗き込む。エンスは思わず彼女から目を逸らした。


「アンタ……誰なんだよ」


 女性の放つオーラに殺気は無い。逆に落ち着かせる雰囲気を放っていた。そして高貴なオーラ、それは明らかに普通の人では無い。その上、見も知らずの人なのだ。


「私ですか? 私の名前は《フィラン》。先ほど貴方の夢の中でお会いになったあの《フィラン》です」


 フィランの言葉に思わずエンスは頭を抱える。

エンスは思考を何度も巡らせるが、先程の夢の出来事が事実である事は二本の剣が証明をしている。そして不思議な事に夢の内容をハッキリと覚えているのだ。


「……なんで、俺なんだよ」


エンスの口から思わず不満が溢れる。


「なんで俺が世界を救うとかしなきゃいけないンだよ! 俺は戦った事だってないし、いきなり旅しろなんて言われたって、納得いかないっていうか……」


フィランは静かに目を瞑り、エンスの言葉に頷いた。


「確かに、いきなり戦えと言われるのは酷です。そして貴方でなければならない理由も。ならば、理由があればいいのですね?」


「え、まあ…そうだけど……」


 フィランはゆっくりとエンスに近寄り、エンスの額にフィランの額を合わせた。

 するとエンスの頭の中にフィランの記憶が流れ込んで来た。それはハッキリとはしない朧けなものであった。

 遥か昔に一つの国が建ち、栄え、反乱が起き、そして安定し、再び栄える。そしてその街はエンスの良く知る風景となった。

 そう、それは巨大都市デセスペラシオンの成り立ちだった。


「これはこのデセスペラシオンに住む者の宿命、運命なのです」


 フィランはエンスからゆっくりと離れた。エンスは頭を掻きむしった。

《運命》、それはエンスが最も嫌っていたものだった。幼い頃、エンスは両親を失っていた。あの日、空や大地が切り裂かれた時両親はエンスを救う為に世界の歪へと落ちていったのだ。周りはそれを《運命》だと言った。もし、これが運命なのだとしたら、何て酷い運命なのだろうと、己を恨んだ。

 故に運命には逆らえないのは重々理解していた。


「わかったよ。ならせめてこれからの目的を教えてくれよ」


エンスは旅をしない事を諦めた。この際、この都市から出るのも悪くないと思った。


「この星が、隕石の墜落により三つに分裂されたのは理解していますね?」


「わかってる……」


「そしてバラバラにされた世界には《ドロル》と呼ばれる魔力を放つ隕石の欠片が散らばっているのです」


「つまり、俺の旅の目的はその《ドロル》の破壊って事だよな?」


「その通りです」


フィランは頷くとまるで幻だったかのようにその姿を消した。フィランの姿が消えた時、淡い黄昏色の光が散らばった様にも見えた。


「…消えた」


 エンスは辺りを見渡すが、あるのは崩壊したデセスペラシオンの砦と果てしなく続く荒野だけだった。

 昔は荒野ではなく、草原や森が広がっていたらしい。自分もその草原や森でよく遊んでいたと、叔母が言っていたのを思い出す。しかし今やそんな面影一つない。

 あの隕石が、世界が滅裂した時から全てが狂ったのだ。

 エンスは鞘に収められた剣を取り、自宅のあるデセスペラシオンへと向かって行くのだった。

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