よさねえか!物語
わじ
第1話 キサチと町医者の約束事
「おい!よさねえか!」
漁港で働く治三郎が娘キサチに対して言い放った。
そんな治三郎の怒号には全く聞く耳を持たず、ただひたすら地引網を直すキサチの瞳には
ある一人の人物が映るのみだった。
桜も散りカツオ漁も一段落した漁港というものは、ただひっそりと夏の訪れを待つばかりである。
街のどまんなかにあるあの不自然なほどの急な上り坂。その坂の上った先からみる漁港の景色は、
キサチの育ての母でもあった。
キサチは本当の母の事が好きになれなかった。
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