完全隠居賢者だけど勇者に見つかった。

Ajaj

第1話  森の奥で引きこもりライフ!

「あはははは、やめろよポチ。お前はでかいんだから、飛びついてきたら僕は潰れてしまう」


「ガルルルルルッ!」


「うっ、口が臭い。獣だからなぁ」


 僕は賢者。よく寝てよく遊び、よく食べるのが大好きな社会不適合者だ。人間社会に絶望して自宅に引きこもる、なんて話はよく聞くけれど、僕にはそれすら許されなかった。街中に住んでたら、家焼かれるし。ここに住む前なんて、千を超える兵隊に家を包囲されたものだ。まあ、全員睡眠魔術でお寝んねしてもらったけど。


「しかし今となっては、昔の話」


「ガル?」


 ここには誰もこない。誰も来れない。人間では僕だけが存在できる理想郷。それがここ『二つ目の魔界』だ。


「聞こえてくるのは、僕の声と、動物たちの鳴き声」


「ガル!」

「ピギャァァァァア!」

「グルォォォォォォオッ!」


「そして鳥の鳴き声」


「キゲェエエエエエエエエ」

「クルェェェェェェェェエ」


 ……ちょっと、物騒な感じだけれど、大丈夫。みんな僕にとって「敵にならない」可愛い子たちばかりだ。ほら、今じゃれついてくるポチも、体長十メートルを越す狼さんだけど、こんなに懐いてくれる。噛み癖があるのが玉に瑕だけどね!


「よし、ポチ。一緒に遊ぼうか」


「ガルゥ?」


 そう言って僕は、ポチの僕を咥える両顎を手でこじ開け、地面に降り立った。


「さあ、力比べだっ」


 ギチギチ、と万力のような力で噛み締めてこようとするポチの顎を、両手で受け止め続ける。


「僕が勝ったら、今日は背中に乗せてもらおう。君が勝てば……そうだな。晩ご飯を用意してあげよう」


 んまぁ、そんなことありえないんだけど。


「あ、でも勝利条件が曖昧だな。そうだなぁ、僕が君を投げ飛ばせたら、僕の勝ち。君が僕の体をその顎で挟めたら、君の勝ち」


「アゥーン」


 あはは、僕に勝てっこないから、拗ねちゃった。負けてあげないけどね!

 フッ、と息を吐き出しながら、ポチを投げ飛ばす。十メートルの巨体が宙に浮き、ポチは背中から着地した。


「クゥーン……」


「残念だったね。じゃあ、背中に乗せてもらうよ?」


「ワフゥ」


 ポチの返事をもらい、僕は背中に飛び乗る。土がついてしまっているから魔法で綺麗にした。

 さあ、出発だ!


「行くよ、ポチ」


「ワフッ!」


 と、その時、誰かの叫び声が聞こえた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


「誰か助けて!  くそ、化け物め!」


「回復早く!  ファインが死んでしまう!」


 ……さようなら僕のユートピア。

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