第18話 クラスメイト
逆光を纏い現れた転入生、それにより、さきほどまでの暗い雰囲気など、まるでなかったかのような教室へと変わる。
男女それぞれの期待を帯びた視線が、新しいクラスメイトとなる人物に集中する。
その視線を一点に集めた人物、それは艶のある長い黒髪、すらっとしたプロポーション、学生離れした豊満な胸を持つ美しい女性であった。
彼女は制服ではなく、膝まである真っ白な服、いやコートのようなものを羽織っており、その中には薄い青のシャツに短いタイトなスカートを着用している。
そして学生にはあまり似つかわしくないであろう、黒のストッキングにハイヒールの姿、極めつけはノーメイクの素肌に、ひときわ目立つワンポイントの真っ赤なルージュ。
「ーーなっ、女として負けた気がする」
「とても……わっ、私達では勝負にすらならない」
「うぉぉ------ー-心のオアシス来たぁぁぁーーーー」
「中身も完全でありますように、中身も完璧でありますようにーーお願いします、うちのクラスの女子みたいに、見かけだけでありませんように」
その人物の美貌に勝負せずして心が折れた女子達、その反対に歓喜し教室内を飛び回る男子達であった。
最後、余計なことを喋っていた男子生徒は、その言葉の意味(真意)にきずいた女子達により袋叩きに……。
口は災いの元。
雉(キジ)も鳴かずば打たれまいと、昔の人はよく言ったものだ。
しかし、言葉に詰まり、開いた口が塞がらないメル。
そのクラスの騒がしい様子を、あきれた顔でただ見つめているウル。
「----って、あんたら違うでしょうが、よく見なさいよ、その人は転入生ーーいえ留学生ではなく、うちの学園の保険医のアテネ先生じゃないの」
「……えっ、あっ、本当だアテネ先生、それじゃあ先生がうちのクラスに留学? してくるのか。いや~~俺はそれでもいいな、なんたって美人だし」
「あっ、……あんたら脳みそ腐ってんじゃないの、そんなわけないでしょうが」
興奮状態の男子に、あきれながらも反論するメルであった。
「まったくも~~、これだから男子ってのは……ブツブツ、はぁ~~いいこと、よく聞きなさいなあなたたち」
彼女はブツブツといいながら、教壇の方へ歩み寄ると、チョークのようなものを手に取るのであった。
教室の前方、一見ただの黒板に見えるが、実は巨大な液晶画面のモニターとなっている、もちろんメルの手に取ったものも、ただチョークではなくそれに似せたペンタブである。
すると、間髪いれず、ものすごい速度で黒板(モニター)に何かを書き込んでいく。
すべてを書き終えたメル、とても満足そうな顔を、何かをやりきった男、--ではなく、漢(おとこ)ーーいや、女の顔をしていた。
黒板にはこう書き込まれていた。
1、美少女(私こと、美しき神官メル)の登場シーン・・・・・・済。
2、簡単な世界観とヒロインの住む街の紹介・・・・・・そこそこ済かな。
3、サブキャラ(引き立て役ともいう)の登場と紹介・・・・・・一応済かも。
4、メインヒロイン(ここ重要)の通う学園での一日・・・・・・まぁ済にしておきましょう。
5、突発的な事故(初の実戦でのアノこと)・・・・・・ミッションコンプリートかな?
6、皆をかばい、傷つき倒れた美しいヒロイン、しばしの休息につく(眠れる森の美少女風味)・・・・・・OK。
7、サブキャラ(モブ)の視点での日々(私ではないから知らないけど)・・・・・・どうでもいいから終わり。
8、新たな日常、メインヒロインの立ち位置の確認&お約束の夢落ち・・・・・・GOOD。
9、戻った学園生活、暗い雰囲気を打ち破った、心優しき美少女神官・・・・・・完璧!!
10、新しい仲間となる転入生(留学生でも可能)の登場・・・・・・←いまココ。
11、留学生、実はヒロインの運命の相手・・・・・・未来予想。
12~以降、楽しくも騒がしい学園生活、絆が深まる、そして伝説の木の下での告白イベント(もちろん受ける)、卒業後婚約、冒険者資格取得後、結婚(20前が理想)・・・・・・未来予想2(ほぼ確定)
メルの書き込みは、色々ツッコミ所満載であった。
「ほら~~メル、馬鹿なことやってないで自分の席に戻りなさい、ほ~~らあなたたちも静かにしなさい、留学生は私じゃなくてこっちよ」
アテネの言葉に静まりかえる教室内。
「「「「……」」」」
視線がアテネの振り向いた方向、彼女の背後に集中する。
「「「「……??」」」」
「……えっ、え~~と、あのアテネ先生、いいでしょうか」
「ええ、いいわよ。それで何かしらメル」
クラスの皆は黙ったまま、ウルも腕を組み、目を瞑ったままの姿勢を保っていた。
彼女は皆の、クラスメイトの心の言葉を代弁することにしたのである。
「あの~~何の冗談でしょう、アテネ先生の後ろには誰もいないんですけど、それにさっきまで私は、黒板に書き込んでいたのでそこにいたんですけど」
そう、メルを含めた生徒、誰の目にもアテネの背後に、いるはずもない留学生を見つけることは出来なかった。
「も~~アテネ先生もウル教官も、人が悪いんだから、エイプリルフールはとっくに過ぎてますよ」
「そうですよ、手の込んだこんな冗談しなくても、俺達学園を辞めませんよ」
生徒達は教官の考えをようやく理解した、これはあの事件(実戦)で自分達が落ち込み、学園を、冒険者を目指す心が折れた。
それらを癒す為、仕込んだ教官達の心使いだと言うことに。
ウルとアテネが視線を合わせる、そしてアテネはうなずいた。
「あなたたちが何を勘違いしたのか知らないけど、留学生ってのは本当の話よ、ほら私の左隣を良く見なさい、ほら君も食べるのを少し止めて、自己紹介してくれるかしら」
「……!! アテネ、うん、わかった」
「「「「!!!!」」」」
生徒は皆、心臓が止まるほどの驚きだった。
誰も居ないはずの場所から、声だけが聞こえたからである。
「……は、はじめまして、僕の名前は……なまえは……け、ケイ」
「「「「「!!!!!!」」」」」
突如、何も、誰もいなかったはずのアテネの隣に一人の生徒が出現した。
しかもその両手一杯には、サンドイッチやおにぎり、さらに肉などの料理が山と盛られた大皿が。
よほど驚いたのか、誰一人として言葉を発するものはいなかった。
緊張感に包まれた教室内、痺れを切らし言葉の先陣を切ったのは、このクラスの担任であるウルであった。
「まず先にいくつかいっておくことがある、このケイの住んでいた国のことや、どんな生活をしていたのかだが、一切不明だ。それにこいつ自身、ある事故で大怪我を負ってしまい、これまでの記憶を失っていて何もわからない状態だ」
「だからむやみに質問するのはやめて上げてね、ケイは記憶喪失なので、当然身寄りもなくいくあてがないの、それで学園長が留学生扱いにして、学費免除などの特典がある特殊科にいれたってのは、他のクラスの子達には内緒ね」
ウルの言葉にアテネが追加した。
「はい、それはいいのですけど--あっ、あの~~それで、彼、いやケイでしたっけ。その手足のことは……」
どうしても気になったのか、ある男子生徒がケイと呼ばれた留学生の身体のことで質問した。
耳にかかる程度、少し長めの美しい銀髪。
しかもそれは女性のように細い髪質であった、そして左右色違いの蒼と赤色の目、透き通るようなきめ細かい白い肌。
背は男子にしてはかなり低く162センチほど、まぁここまでなら先ほどの男子生徒も質問などしなかったであろう。
クラスの全員、どうしても気になったこと、それは彼の金属製の左手と、服のズボンのすそと靴の隙間から除く金属部分である。
左手は誰が見ても義手だとわかるのだが、足のことが何故きずかれたかというと、普通は制服のズボンに隠れ見えない部分なのだが、彼は制服を着ておらず、黒いシャツに膝までのズボンに半纏を羽織っているだけであった、なので足の金属部分が丸見えであった。
それと代弁者の彼は聞けなかったが、クラスのほぼ全員が思っていたこと、それは……何で半纏なんて着てるの? ふつう制服だろうーーと。
「--ふぅ、仕方ないな、このケイは特殊な身体のつくりをしていて、今の技術ではクローニングが出来ないと診断されたんだ、それで不恰好だが義手及び義足を着用させている、だがこの状態でもケイの身体能力は、平均値をはるかに超えているから問題はない」
「ふ~~ん、そっか、じゃあよろしくねケイ、ーーで、何で半纏なんて着てるのーー、まぁいいわ、私は、私の名前はーーーーーって、あっ、アンタはあの時のーーーーグムッーームーーーー」
「はいはいメル、こっちにおいでなさい、あっピナ、あなたたちもこっちに来なさい」
場の空気を読まず、非常に聞きにくいことを簡単に聞いたメル。
アテネによって口をふさがれ、そのまま廊下へと連行される彼女、そして言葉に従い、ピナ達いつものメンバーもメルに続くのであった。
教室内の生徒達に、話が聞こえないよう廊下を移動する面々。
少し離れた階段付近でようやく止まった。
「----ッ、プハァーーーー、くっ、苦しかった~~いや、マジで死ぬかと……まさか、アテネ先生まで私を亡き者にしようとするなんて、いくら私・が・若・く・て・美・少・女なのでうらやましいからってーーって冗談です、先生は超がつく美人ですよ、だっ、だから無言で微笑みながらのアイアンクローはやめてーーーー」
「まぁいいでしょう、それでメル。昨日学園長達があなたたちに言った事、あの約束をいきなり破ろうとするなんて、いったいどういうつもりなのかしら」
「……えっ、約束ごとって何だっけ、それに私、昨日学園長に会ったかな?」
腕を組み空を仰ぎ、考える姿勢のまま固まってしまったメル。
唸りながらも、必死に昨日の記憶を手繰り寄せる。
スパコンも真っ青との噂の脳内PC、超高速回転し、すばやく、今現在もっともほしい情報を調べ取り出す。
コンマ数秒ほどで検索が完了したようだ、するとメルの表情が変わった。
「---ふふふ、も~~だから私には、私達に子供はまだ早いですって、義父様、それに義母様ったら~~」
頬がゆるみ、ぽや~~んとした夢見る少女の瞳になってしまっている。
どうやら、今朝の夢の続きの記憶を引き出してしまった彼女の脳内PC。
その後メルは、ピナ達の献身的? な介抱により、現実世界へ無事帰還することが出来たようだ。
ここで、時間を少し巻き戻すことに。
メルが髪を切り、昼食を終え、あの時の少年の見舞いにと学園にやってきていた。
門は閉ざされ、ごねてもすねても、中に入れてもらえなく、あきらめて帰ろうと踵を返したとき、学園の敷地内から爆発音と地響きが。
校庭の奥、森の入り口付近にいくつかある建物。その上空に大量の土煙が舞い上がっていた。
おそらくは、さきほどの爆発音が原因なのであろうが、門番をしていた教官達、すでに事実確認の為建物のほうへ向かっていた。
誰もいなくなった門、そして帰ろうとしていた彼女達の足が止まっている。
「みんな、これはチャンスーーいえ、人命救助の為、仕方なく、そう仕方なく学園に侵入……じゃなく人助けに向かうわよ」
「そうね、行きましょうメル」
「そうだな、爆発も気になるしな」
屁理屈ーーいや合法的な手段を得た彼女達、もはや引き止めることは、誰にもできはしない。
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