004_プライドを汚されたらこうなっても当然よ
俺は転がっている3人の死体を道の端に集め、早速とばかりに
余りにも定番だが、内容まで定番とは限らないので、物は試しだ。
魔法の知識こそあるが、教科書で得た知識と実体験は別物だったりするかもしれないしな。
まぁ、結論から言えばそれほど違和感がなく、知識とマッチしていた。
これは植え付けられた知識というより『魔力の理』のせいかもしれないが、なんにせよとっさの時に戸惑わないで済むのは良いことだ。
燃えるより爆散したと言った方が良い状況なので、燃やすという選択の為に使う魔法ではないみたいだが。
「取り敢えず、どんな感情を集めるにしても1人や2人を相手にはしていられない。
手っ取り早く集めるなら言われた通り魔王でも目指すか」
「それで具体的には?」
「魔王始めました、と看板でも出して歩く――そんな目で見るのは止めてくれ。
というか、ごめんなさい。
本当に用意するのはやめてください」
「わかったなら真面目に考えてよね」
思ったよりもロリィは直情的だな。
それだけコントロールは簡単かも知れないが。
「見掛けた傍から有無を言わさず殺していけば、理不尽さに怨みが貯まるとか?」
「死んだら『思いの力』は残らないわ」
そりゃそうだな。
悪霊にでもなるというならまだしも、理不尽に殺されたくらいで悪霊になるようじゃ、世の中は悪霊だらけだ。
「国のトップ層を殺してまわれば、政治が混乱し争いが生まれて多くの人が死ぬ。
そしたら原因となった俺を恨むんじゃないか」
「あなたへの怨みより、直接手を下した人への怨みの方が強そうね」
むむむ。
俺1人に集めるとなると、思ったよりも難しいのか。
「もしかして今俺が考えたような失敗を既にしているのか?」
「……」
図星らしい。
簡単に試せることは既に試していると言うことか。
俺は考える。人が悪意を持つのはいつか。
様々な悪意を向けられた俺にとって、それは大して難しい問題でもない。
結局のところ裏切られた時だ。
思いが強く変わった時が良いと言うロリィの意見にも合致する。
ならば後はどうやって思いを集めるかだが、それは俺の親が良い見本だ。
相手の信頼を得、希望を見せ、全てを出させたところで裏切れば良い。
この世界は全体的に貧富の差が激しい。
広大な土地、手つかずの自然、魔法そして神々の恩恵。
それらがあってなお文明レベルが低く豊かさを維持できないのは、一部の人間が力を持ち、従う者が知恵を付けることを許さないからだ。
逆に言えば、俺が力を持つなら人々を誘導しやすい。
多くの人を誘導できるなら、その思いもまた大きいだろう。
「まぁ、順当に行くならば、まずは村を制覇。
次に町を制覇して、領地。
国を取ったら最後は世界取りとかどうよ?」
「いきなり世界を相手にするよりは現実的ね。
それでどうやって悪意が集まるのかは知らないけれど」
「結局、国を盗るということは戦争になるからな。
戦争は資源の消費と奪い合いだ。
多くの人が死に多くの富が奪われれば、その原因となった俺に向ける怒りや憎しみは膨大なものとなる」
それが自分の望んでいない戦いとなればなおさらだ。
人は利益を守る為の戦いには強いが、当然、それを失うことになれば憎しみに変わる。
憎まれるのは得意だ。
今度はその思いを好きなように利用させてもらう。
人を陥れる、そんなことに抵抗を感じないのは、与えられた知識の影響かそれとも俺自身が憎しみにより殺されたことに関係があるのか?
「なぁロリィ。なんで俺を選んだ?」
「始めはカズトの父親にしようと思ったんだけれど、長生きするとその世界に魂が定着してしまうから呼び出せないのよね」
「そこで子供の俺が都合良く死んだ訳か」
「なにも悪くないのにあれだけ怨みを買う人間、それも子供は珍しいわ。
あの父親をずっと見て育ったカズトなら、どうすれば悪意を集められるかわかるでしょ?」
良くわかるさ、嫌って程にな。
そうか。結局、俺は嫌っていたあの親と同じことをするのか。
それに抵抗を感じないし怒りもないとか、知識を得るということは随分と残酷なんだな。
どちらにせよそんな感情は、これからの俺には不要か。
「ただ、言い忘れていたけれど、私以外の神々も同じように『思いの力』を集めているから、せっかく溜めたところを奪われないでよね」
「初耳過ぎるだろ!」
「さっき言ったでしょ、抜け駆けした奴がいるって」
あぁ、言っていたな。
確かに言ってはいたが、それが同じ方法だとは思わなかった。
「南ですくすくと勇者を育てているみたいだから、その内に会うこともあるでしょ」
「戦ったら負ける可能性もあるのか?」
「そうね……向こうが先行しているだけちょっと不利かも。
肉体がなければ負けないと思うけれど、その肉体を捨てる気はある?」
「もちろん、ない」
肉体がなければ自分という自我を保てそうにない。
それじゃいくら長生きしたところで無意味だ。
ちなみに勇者は神聖魔法を使うらしい。
便宜上魔法と言っているが、神様に祈ってお願いを聞いてもらうことであり、魔力を使った魔法とは全く別系統のものだ。
魔力や魔法適性がなくても使える代わりに、必ずお願いを聞いてもらえるとは限らない。
神様もそこまで暇ではないようだ。
その代わりではないだろうが、神に愛された人間には加護が与えられる。
加護は様々な形で人間の能力を引き上げるものであり、大ざっぱには強靱な肉体、膨大な魔力、技能の向上などといった、生きていく上で便利な力が宿る。
俺に与えられた『魔力の理』は加護より神技と言える程のもので、人の世に認知はされていない高みにある力だ。
もっとも、認知されていないだけで似たような力を持つ者はいる。
例えば勇者の持つ『絶対不可侵』とかも神技といえよう。
あれ? 神聖魔法と神技を使う勇者に対して俺は手札が1枚しか無いぞ。
「わたしが直接手を下すと今度は相手も介入してくるから、それは泥沼だし避けたいのよね。
それもあって、一応お互いに手駒だけであそ――争うと決めているから」
「俺たちで遊ぶなよ。
まぁ、強敵だと想定して動くしかないな」
まだ多少リードされている程度らしいので、時間はあるだろう。
それに最初から敵対する必要もない。
適当に話を合わせておいて、その間に根回しをすれば良い。
そう言えば、奪われるとか言っていたな……
「奪われないようにって、具体的にどうすれば良いんだ?」
「私やカズトに向けた思いが他に向かなければ大丈夫」
「他の神様や勇者に縋る気持ちの方が強くなったらダメって感じか。
心が折れない程度に悪意を集めるのは意外と難しそうだな」
「簡単なら実験なんて必要ないもの」
「それもそうだ」
腕を組んでばつが悪そうに顔を逸らす。
どうやら失敗はそこらしい。
やり過ぎて『思いの力』が逃げていくのが、目に見えるように良くわかるな。
「この条件なら悪意を裏で操って、善意を集めた方が楽そうなんだが」
所謂、自作自演だ。
裏でピンチを作り、それを俺が助ける。
苦しい生活を楽にしてやり、後で奪う為の富を貯めさせ、未来は明るいと思い込ませる。
そしてある時それを全て奪い去る。
騙されたことに気付いた人々の思いは、消えない憎しみとなり俺に集まるだろう。
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