8-1 動き出すS級
──14:45 森エリア──
雅史が目を覚ますとそこにはアーニャの姿があった。
アーニャの仲間であるオリビアの捜索中に突然襲撃され、その一人から逃げ回っていたところまでは覚えている。
しかしそれ以降の記憶が全くない。
思い出そうと頭が痛くなる。
「あら、やっとお目覚めのようね」
目を覚ました雅史に気付いたアーニャが話しかける。
「あれからどうなったんだ? キースとミランダは? それにあいつらは?」
「キースとミランダは死んだわ、それに襲ってきた奴等も全員ね、あの場で生き残ったのは私とあなただけよ」
「死んだ……何が起きたってんだよ」
「キースは敵の能力で、ミランダは敵を倒すために死んだわ」
「そう……か」
「それより私も聞きたいことがあるわ、あなた自分の能力が分からないって言ってたわよね」
「そうだが」
「それは今もそうなのかしら?」
雅史はアーニャの質問の意図を理解できずにいた。
その事については昨日散々話したし、今更そんな事を聞いてどうすのだろうかと。
「質問の意味が分からないな、俺は今も自分が能力者だなんて思ってねぇぞ」
「そう、確かに嘘をついてるようには見えないわね、というと記憶がないのかしら?」
「記憶?」
確かに途中から記憶がない。
「あなたはね、襲撃してきた敵の一人を殺したのよ、まぁ実際見たわけじゃないから百パーセント真実とは言えないけどあの状況を見る限りはね」
そういってアーニャは自分が雅史の元に駆けつけた時の状況を雅史に話した。
飛び散る肉片と血、そしてその血と肉を浴び立っていた自分の姿についてを。
「俺が……そんな……」
「それに最後にあなた言ってたわよ? のぞみ、無事でよかったってね」
「のぞみ?」
「ええ、のぞみって日本人の名前かしら? それとも何か別の物?」
「多分……名前だと思う」
『のぞみ』その名前に聞き覚えは雅史にはなかった。
しかしなぜかその名前は雅史の頭に響き渡る。
なにか、なにか自分は大切なことを忘れてしまっているのではないか、そんな思いが雅史の思考を支配する。
「ふぅ、どうやら何を聞いても無駄なようね」
「悪いな……」
「別にいいわ、それよりも今は目先の問題をどうにかしないとね」
目先の問題? 雅史がそう思いアーニャに尋ねようとした時だった。
「アーニャさーん、自分らの事も紹介してくださいよー」
「そうだよアーニャ! 起きたならあたしのことも紹介してー!」
突然見たことのない二人が割り込んできた。
正確に言えば一人はどこかで見覚えのある顔であったが。
「ああ、忘れてたわ」
「ひどいっすよー! 仲間の紹介なんだからまずは最初にするべきじゃないッスか!」
「こいつらは?」
「あなたが寝ている間に合流した仲間よ、この無駄に胸が大きいのがオリビアでもう一人の頭悪そうな男が昨日話したジャンの友人よ」
そうアーニャが紹介すると二人は不満があったのか自ら紹介を始める。
「えっと、アーニャの仲間のオリビア・メイスンです! ちなみに胸は大きくないですよ!!!」
そういうオリビアだがその豊満な胸はあまりに目立つ。
「お、おう、市原 雅史だ! よろしく」
「ちょっと雅史どこ見てんのよ? 殺すわよ」
「まぁまぁアーニャさん! 胸なんてなくてもアーニャさんも充分かわいいっすよ! 俺が保証します!」
そう言われたアーニャは一瞬自分の胸の方を見たかと思うとギロリと無言で男を睨む。
「どうしたんすか? そんな怖い顔しちゃ──」
アーニャはその男を睨みつけたまま拳銃を向ける。
「ちょ、ちょっとアーニャさん?」
「あなたその減らず口そろそろ閉じないと殺すだけじゃ済まないわよ」
「ちょ! アーニャさんストップストップ! 勘弁してくださいよぉ!!!」
今にも引き金を引いてしまいそうなアーニャに必死で謝る男に雅史は見覚えがあった。
「もしかして睦沢 亮?」
「おお! 自分の事知ってんすか! 感激だなぁ、あ、サインは遠慮してくださいね! 自分女の子にしかサインしない主義なんで!」
|睦沢 亮(ムツザワリョウ)、彼の顔を知らない日本人の方が珍しい。
超能力を持つ俳優として今や映画やドラマ、バラエティに引っ張りだこの有名人だ。
「そりゃ知ってるも何も有名人だろあんた」
「いやぁ照れちゃうなぁ」
「へぇー、亮くんほんとに有名人なんだねぇ」
「だから最初から言ってたじゃないっすかー! オリビアさんひどいっすよ」
「えへへごめんね、でもあたしは雅史くんの方がかっこいいと思うけどなぁ」
「ちょっとぉ、アーニャさんもなんとか言ってくださいよぉ」
「どうでもいいわよそんなこと、それより二人とも早く自分の能力でも教えてあげたらどうかしら?」
アーニャの言葉で二人は自分の能力を説明し始めた。
睦沢 亮の能力はテレビでも知られている通り念動力であった。
念動力とは物を動かしたり浮かしたりするものだと言われていたが睦沢が言うには念動力にも種類がたくさんあるらしく、人間を操ったり、自らの姿を消したりできる者もいるとのことだった。
「まぁ自分は雅史さんが思ってる通りで物を動かしたり浮かしたりする系の能力なんスけどね!」
一方オリビアの能力は治癒能力らしく、ある程度の傷なら一瞬で治してしまうとの事だった。
「オリビアの治癒能力は数多くいる治癒能力者の中でもトップクラスよ、あなたの傷もオリビアが治してくれたんだから感謝しなさい」
「そうだったのか、ありがとなオリビア!」
「え、あ、そ、そんなのお安い御用ってやつですよ!」
顔を赤らめ照れながらそう言うオリビアを不思議に思った雅史だったが理由は分からず思っただけで終わってしまう。
「この二人がこれからのチームメンバーよ、あとはジャンさえ合流できれば私達のチームは全員揃うことになるわね」
ジャン・ロンバート、アーニャの事を逃がすために自ら囮になった男。
昨晩の脱落者リストになかったということは生きているのだろう。
しかしアーニャから聞いたジャンの能力は本名を知っている人間と自由に通信ができるもの、ジャンはなぜアーニャに通信をしないのだろう、雅史はそう思ったがこれを思っているのは自分だけでなく全員同じ事を思っているはず。
結局ジャンと合流するのはジャンからの連絡を待つ他ない。
「それでさっきの目先の問題ってなんのことだ?」
「今の大きな問題は二つよ、まずは私たちが置かれているこの状況、探知系の能力者がいないからさっきみたいにいつ襲われてもおかしくない、だから早く拠点のような場所を作らないといけないわ」
「そうか、俺が寝てたせいで足引っ張っちまったな、わりぃ」
「別に気にしてないわよ、どうせ私たちも迂闊に動けない状況だしね」
「それってどういう意味だ?」
「あれよ」
そう言ってアーニャが指を指した方向にはなにやら巨大な建造物らしきものが見える。
距離はかなり離れているようだがそれは城のようなものに見えた。
「なんだよあれ……城なのか?」
「そうよ、氷でできた巨大な城よ」
「氷で……?」
氷、そのワードに雅史は覚えがある。
昨日アーニャが話してくれた能力者の階級分けの話し。
確かその中に氷を使う能力者の話があったはず。
「覚えてない? 私があなたに教えたS級の能力者の話」
S級能力者、アーニャが所属しているという対能力者機関、ECSが脅威と判断した能力を持つA級の17人。
その世界でも17人しか存在しないという能力者達の更に上の階級。
「それって……つまり……」
アーニャはそのS級の一人について話をしてくれた。
街一つを凍らし、そこに住む住民一万人を殺して食べたとされる女の話。
その女の名前は確か──
「そうよ、ボレロ・カーティスが動き出したわ」
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