1-2 ゲーム開幕

 ゲームルール説明

 

 勝利条件について

・このゲームの勝利条件は7日間後の終わりまでに他プレイヤーの「心臓」を10個以上集めることである。

・従って最終的な勝利者数は最高で9人である。

・先に心臓を10個集めても7日後まで所持していなければ勝利条件は満たされない。

 

 心臓の入手方法について

・心臓の入手は他参加者の殺害又は入手した心臓の譲渡のみである。

・譲渡については双方の合意がなければ成立しない。

・ここでの死の概念とは魂の完全消滅の事を言う。死因については人間界と変わらない。

・殺害方法について特に制約はない。ただし自身の命を自ら絶つことはできない。自殺を用いた相手の殺害は可能である。

・参加者が死ぬとその参加者の魂は心臓となり、それに触れることで入手が可能である。

・複数の心臓を所持している参加者を殺した場合、心臓もその参加者が元々持っていた数だけ入手が可能である。


 敗北条件について

・自身の死、又は7日後までに心臓を10個以上所持していない場合は敗北となる。

・自身の死の場合は転生されずそのまま魂が消滅するが、7日後に心臓を10個以上所持していない場合は無条件で地獄行きとなる。


 勝利者の褒美について

・このゲームに勝利した者は以下の2つから好きな方を選べる。

1、神の世界の住人となり、この世界に住むことを許される。

2、人間界に戻り、人間界で叶えられる範囲の願いをなんでも1つだけ叶えることができる。


 天使について

・参加者には一人一人に担当の天使がつく。

・ゲーム中のサポート役になるが、プレイヤー自身に直接手を貸すことはない。


 その他

・ゲームの進行状況によってはルールの追加、改善などがなされる場合がある。その際にはプレイヤー一人一人についた担当の天使から伝えられる。


 以上がこのゲームのルールである。

 諸君らの大半の者がこのゲームに向けて様々な修練、対策をしてきたとは思うが、どうかその努力の結果を遠慮無く発揮してくれたまえ。諸君らの検討を祈る。


天使長 ルシフェル



 ここで文章は終わっている。

 何度か読み返して雅史はルールについて大体理解した。

 簡単に言えば他の参加者を殺して心臓を10個集め、7日後まで生き残れれば無事に家にも帰れるし神にさえなれるということである。


 ただこれからこのゲームで自分が生き残れるか? それを雅史は客観的に考えてみたがどう考えても生き残るのは難しいという結論に達した。

 どんな能力者がいるのか、一体どこで戦わされるのか、などゲームに不可欠の情報は足りていないがこれだけは自身を持って雅史は言うことができた。


 その理由は3つある。

 

 1つ目は最後の文章に書かれている「諸君らの大半の者がこのゲームに向けて様々な修練、対策をしてきたとは思うが」というもの。

 つまり他の参加者のほとんどがこのゲームの存在を前もって知っていて、準備も完璧にできているということだ。

 このゲームは複数人が生き残る可能性が高いため、前もって準備をしている参加者はチームを組んでいるのが当たり前であり、むしろ雅史以外の99人がすでにチームを組んでいる可能性さえある。

 

 2つ目の理由はこのゲームの鍵になるであろう能力。

 今まで能力について手品の延長程度にしか思っていなかった雅史だったが、能力者を100人も集めるくらいなのだから強力な能力も存在すると考えるのが普通だ。

 ミカエル曰くまだ覚醒していないだけとのことではあるが、そんなものはただの憶測で、仮に本当に覚醒していないだけにしても覚醒する前に殺されたり、覚醒しても戦いに不向きな能力であればなんの意味も持たない。

 

 3つ目の理由、これが雅史にとって一番の問題であった。

 それはそもそも人を殺せるのかというごく当たり前の事。

 自分が殺人者ならともかく、普通の大学生であった青年がいきなり人を殺せと言われてもそんなのは無理に決まっているのだ。


 様々なことを考慮した結果、自分が生き残れる可能性は1パーセントもないと雅史は判断した。


「唯一生き残れるとしたら誰かとチームを組むか、元々組んで入るチームにいれてもらうことくらいか……死にたく……ねぇな……」


 正確に言えば雅史はすでに一度死んでいるので、死ぬというのはおかしな話ではあるが、やはりもう一度死にたいとは思わない。

 もうすぐ自分は死ぬんだ、そう雅史が思った時に頭を過ったのは夢の中の女の子だった。


(あの夢……ここ最近になって見始めた夢は今のこの状況と関係ないのか?)


『ぴんぽんぱんぽーん!!! まーくん起きてるかなー???』


 ミカエルの声が先程と同様に響き渡る。


『現在の時刻は4時54分! あと6分ほどでゲームは始まるけどルールの方は完璧かな? 頭の良いまーくんなら大丈夫だよね?』


 どうやら呼び方はまーくんになったらしい。


『実はゲームの開始の前にすることがあるんだけど、今時間大丈夫かな?』

「ああ」

『よしよし、それじゃあ今からまーくんが住んでた部屋をここに出すから動きやすい格好に着替えてね! さすがに寝間着姿でウロウロされちゃあたしも担当して恥ずかしいんだゾ!』


 そうミカエルが言うと雅史の周囲の空間に徐々に色がつき始め、ついさっきまで雅史が寝ていたはずの部屋に変わった。


『あたしは目つむってるからちゃちゃっと着替えてね! じゃあお着替えスタート!』


(自分の部屋……)


 ついさっきまでいたはずなのだが妙に懐かしく感じる。


 雅史は試しに部屋のドアを開けてみたが当然ながらそこは先ほどの真っ暗な空間だった。

 部屋の時計をみると秒針は4時55分を指している。

 あまりもたもたしている暇はないと雅史は部屋の隅にあるクローゼットを急いで開けた。

 そこには自分の服と靴が並んでおり、雅史は適当に動きやすい服に着替えて、腕時計をし、靴を履いてミカエルに声をかける。


「終わったぞ」

『うふふー、意外にいい体してるのねー。ミカエルちゃんには刺激が強かったゾ! それじゃあまだ少しだけ時間もあるし今のうちに聞いておきたいことがあれば質問してね!」


 残り約3分。

 質問したいことは山ほどあったが、今は今後で必要そうになりそうな情報だけを雅史は聞くことにした。


「どんなところで戦わされる?」

『んーとねぇ……最初は森の中だけどゲーム参加者の人数の減り具合や経過時間によっては場所も変わる可能性があるって感じ? かなぁ』

「他の参加者の能力については教えてくれるのか?」

『それはもちろんダーメっ! あたし達が教えちゃったらズルになっちゃうもーん』

「食事や睡眠は?」

『それは特には必要ないよ。まーくん達は今生身の体じゃなくて霊体だから食事や睡眠はもちろん、おトイレだって大丈夫なんだゾ! たーだーしー、体の疲れは睡眠したり休まないととれないから睡眠に関しては必要ないとはいえないかな。もちろん霊体だからって怪我をすれば痛いし血がでるよ!そこは生身の肉体と大差ないから気をつけてね」


 つまり食事や排泄行動が必要ない点以外はあまり変わらないようだ。


「最後の質問だ。俺の夢に出てくる女の子のことで何か知っていることはあるか?」

「へっ!? 女の子!? な、なななななななんのことかミカエルちゃんにはさっぱりわからないなのらー??」


 そのあからさまに怪しい態度で夢の少女はこのゲームに関係してるということを雅史は確信する。


「ほ、ほらほら! もうそろそろゲームの開始時間だよ!!!」


 ミカエルは話を逸らすようにそう言ったが、確かに雅史が時計に目をやると5時まであと1分を切っていた。


「もしもゲーム中に困ったことがあれば心の中であたしの事呼んでね! 出来る範囲でまーくんの助けになってあげるから! もちろん寂しい時も呼んでくれていいんだゾ!」


 残り30秒……


 生き残るのは確かに難しい、ただこのまま何も出来ず、何も知らずに終わりたくないと雅史は思った。

 そしてなによりこんな理不尽な事に巻き込んだ奴等を簡単には許せないという気持ちが雅史の中で大きくなっていく。



 残り3秒……



 どうせ死ぬのなら──



 2……



 どうせ生き残れないのなら──



 1……

 


 後悔させてやる──



 ──ゲーム開始──

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