219豚 何故、お前がそこにいる?
ダリスにおいて光の魔法使いとは特別な意味を持っている。
それは闇晴らす者として知られた
特に光の魔法のみが扱える
「でもどうして光の魔法使い。シャーロットの素性的にそこは風の魔法使いじゃないのかよ……」
俺がシャーロットの異変に気付いたのはこのクルッシュ魔法学園に戻ってから。
再建を手伝い始める前、男子寮にこっそりと忍び込んだ俺はシャーロットにどこからか杖を調達してくるようお願いした。
渡した購入資金は自室に隠していた俺のへそくり、俺の魔法に杖は必要ないがカモフラージュだ。
ちょうど学園内にいた行商人が数本の杖を持っていたらしく、シャーロットはその中でも最も安かった杖を購入し、俺に渡す前に軽く振るった。
シャーロットは自分でも魔法の才能が皆無であることを自覚している、その行為は幼い頃からのシャーロットの願いを示した癖のようなものだった。
変化は突然、現れた。
杖の先から光が溢れた。
その時のシャーロットの表情は筆舌に尽くしがたいものだったと記憶している。
「あんなに嬉しそうなシャーロットの様子は初めて見たし」
アリシアと二人で行うモンスター退治。
俺も着いていきたいと言ったのだが、シャーロットは俺がいると何でもかんでも俺がやってしまうからと嫌なのだそうだ。
それに秘密の特訓はこっそりとするものらしい。
「まぁ、いっか……俺は俺でやることがあるしな」
食事をキレイさっぱり平らげでがらんとした自室を見渡す。
どことなく無機質で、徹底的に掃除、いやこれは調査だな、アリシアやシャーロットは気付かないだろうがそんな形跡が至る所に残されている。
大方デニングの執事辺りが来て、俺の行方の手掛かりとなりそうなものがないか探し回ったんだろう。だけど
「……」
「つうか、おい。風の大精霊さんも行けよ、シャーロットのモンスター退治にさ。危険だろ、シャーロットに何かあったらどうするんだよ。おい、何まだ寝ようとしてんだよ」
「……心配いらないにゃあ。森に危険な奴はいないにゃあ」
床で這いつくばっている風の大精霊さんに声を掛ける。
お前はシャーロットのボディガードじゃ無くなったら存在価値すらなくなるだろが。
「ていうか何で実体化してるんだよ……。アリシアもただの猫扱いしてるし……」
はい、可笑しなことその2。
風の大精霊さんが何故か実体化している。というか身体を手に入れている。
「世界にとって迷惑だろ……風の大精霊さんの実体化とか誰得だよ」
光の魔法に目覚めたシャーロット然り、風の大精霊さんの実体化然り。
間違いなく、墓地から目覚めた古の魔王さんとの間で何かあったに違いない。
だけど幾ら問いただした所で何も覚えていないとシャーロットも風の大精霊さんも語るのだ。挙句の果てには二人の記憶から古の魔王さんに関する全てがすっぽりと抜け落ちているようで。
つまり、この現世において古の魔王さんが蘇ったことを知るのは世界にたった一人、俺だけだった。
「にゃあの願いに神様が答えたのにゃあ。今まで頑張ってきたからにゃあ」
「ふざけんな、お前は冗談抜きに何もしてないだろ。というか、俺。忘れてないからな? お前が闇の大精霊さんにびびって俺に攻撃したこと」
「……またオークのちびっこ探しに行くにゃあ。苛めてやるにゃあ」
形成悪しと思ったのか、風の大精霊さんは先ほどまで惰眠を貪っていたとは思えない俊敏さでシャーロット達が開けっ放しにしたドアの向こうに消えていった。
「逃げやがった……」
だけど、ま。いいか。
シャーロットも風の大精霊さんもとっても嬉しそうだし。
もしかしたら古の魔王さんは俺の頑張りに感激して、その場にいた二人の望むものをくれたのかもしれない。そう考えることにしよう。
俺はポジティブなのだ。
「そして可笑しなことその3……」
クルッシュ魔法学園、祖国が世界に誇る教育機関は一時の眠りについた。
再び学び舎と為すために強靭な再建計画が考えられ、開校には数月を要するだろうと思われた再建は俺の存在によって想定を超えたペースで進められている。
だが。
「………………何で魔法使いであるお前が平民に混じって重労働してんだよ。一応、領地持ちの貴族だろ、お前は……」
シューヤ・ニュケルン。
騎士国家ダリス領内外れに位置するニュケルン男爵領のれっきとした跡取り息子。
火魔法に目覚め、火の大精霊に奇跡を願い、火の大精霊と共に世界を救う救世主。
何故、お前がそこにいる?
どうして大勢の平民と共に汗水垂らして労働してるんだ?
俺には全くもって、アニメ版主人公である奴の思考回路が分からないのだった。
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