104豚 知的オークってなんだそれ

 紛れの無いオークの叫び声。

 顔を上げて見れば、オークの一団がでかい四足歩行の蜥蜴とかげに襲われていた。

 あれは蜥蜴型モンスターリザードの中でも特に攻撃的なアタックリザードだ。

 ダンジョンに挑む冒険者基準で考えるとB級に分類されるモンスター。

 堅い皮膚と巨体の割には俊敏な動き、長い舌で離れた場所にいる相手を一気に絡め取る。


「……スロウ様。でっかいトカゲがいます」 


 頭にはみすぼらしい王冠を乗せたオークが殿を務め、長い舌から逃げている。

 モンスター同士の戦いだ。

 人間である俺たちには関係が無いって言えるかもしれない。

 でも。


「助けに行ってくるよ」

「……スロウ様。ちょっと待ってください!」

「え、何? 良い所だったんだけど」

「多分、あのトカゲ。美味しいです!」

「美味しい!? ……いや、そんな場面じゃないでしょシャーロット! オーク達が一網打尽にされちゃうんだよ! 危機感とか緊張感持たないと!」

「なっ! そんなことないです! 緊張感あります! すごくあります! だって、あの大きいトカゲさんゲット出来ればお腹一杯食べれますよスロウ様!」


 アタックリザードを見つめて、真顔でのたまうシャーロット。

 彼女の目にはB級モンスターも食材に見えてしまうらしい。

 参ったなー、シャーロットの新しい一面を見つけて嬉しいと思う俺は本当に君のことが好きみたいだ。

 例えサキュバスになったとしても、俺の恋は留まるところを知らないようだ。

 

「了解! じゃあ、ぱぱっと捕まえてくるとするか!」

「スロウ様! 頑張って下さい! 応援してます!」


 シャーロットの声を受けて、俺は草むらからアタックリザードに襲撃されているオークの一団に向けて駆け出した。

 右手には草原で拾ったみすぼらしい杖を握り締めて―――


「ぶひぶひぶひ-!」


 ―――ダッシュだ! クルッシュ魔法学園でダイエットのために多用したダッシュ!

 俺はどかどかと大股で走る。

 どけどけー! 

 恋するリアルオークのお通りだぞー!


「ギュォォォオオオオオオオオオ」


 おお! トカゲさんのでっかい声!

 それにオークの一団は近くで見れば可笑しな姿をしていた。

 何故か色の異なる帽子を被っていたり、首輪をしたり、顔に色で模様を付けていたり。

 もしかして近くでモンスター達の仮想大会でもあったのしれないな。


「皆逃げるぶひィ!! ん? お前も逃げるぶひィ! あれ? 服を着たオークなんていたぶひ?」


 俺は蜥蜴と戦っていた王冠を乗っけたオークと隣り合うようにして立ち、杖を構える。

 身体を傷だらけにして、王冠オークは自身の何倍も大きなアタックリザードと互角に渡り合っていた。

 オークにしてはかなり良い動きで果敢に攻め立てている。


「助太刀するぶひよ!」


 紛らわしいが俺の声だ。

 オーク語検定一級の俺の言葉がオークに通じるかどうか、リアルオークとなれるかがこの一瞬に掛かっていると言っても過言ではない。

 

「ぶひィ!? 野良オークぶひィ! 助かるぶひィ! でも危ないから下がってるぶひ! こいつは強いモンスターぶひィ! ただのオークなんて一飲みされちゃうぶひィ!!!」

「安心するぶひ! おーれーはとーてーもー強いぶひ!」


 でっかいトカゲ! ちょっと攻撃するのは待っててくれ!


「ギュエエエエエエエエエ、ギュエ?」


 アタックリザードが突然登場した俺を興味津々に見つめている。

 でもそんなことはどうだっていいんだ!

 だってみてくれ俺のオーク語を!

 王冠オークと完璧に通じ合っているのだ!


「すごい自信ぶひィ! ならば見せてもらうぶひよその強さ! あのでかい蜥蜴はダンジョンモンスターぶひィ! 話し合いは通用しないからそのつもりでいてくれぶひィ! 戦うしかないぶひィ!!」


 ダンジョンから出てきたのか。

 モンスターについての知識は俺もそんなに持っていないから大人しく王冠オークの言うことに従うとしよう。

 何だかオークの一団のリーダーらしいし、怪しまれてもいけないからな!  


「ギュルギュルギュルギュル」


 アタックリザードは俺と王冠オークのどちらを食べてしまおうか悩んでいるらしかった。

 よーし、どうやって料理してやろうか。

 草むらから飛び出す前、あのモンスター多分食べれます! 捕まえて下さいスロウ様! 何て物騒な注文をシャーロットから告げられていたから出来るだけ傷つけないように捕まえたいな。

 ……よし! 決めた!


「吹き飛べぶひー!」

「ギュルギュル? ……ギュエギュ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”」


 小型の風竜巻がアタックリザードを空へと舞い上がらせる。

 いとも簡単に行っているが、アタックリザードはB級に指定されているモンスター。本来であればベテランと称される冒険者達が数人掛かりで相手にするようなモンスターである。


「ギ”ュ”ル”エ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”!!!!」


 あ、落ちてきた。

 くるくると目を回し、意識を失っているようだ。

 でかい図体を無防備に晒して、こうなればただの蜥蜴だな。

 俺の横では王冠オークが唖然としながら俺とノックダウンしたアタックリザードを交互に見ている。

 ありゃー、これはもしかしてやりすぎちゃったか?

 つい本物のオークさんに会えたのでカッコいい所を見せたいと思ってしまったのだ。


「……す、……」

 

 す?


「―――すっげーぶひ!! 魔法が使えるオークなんて初めて見たぶひィ!!」

「ぶひい! ぶひい! 俺たちも見てたぶひい!」

「わしょーい! わしょーい! 俺たちの勝ちぶひい!」


 いつの間にか見えなくなっていたオーク達がわらわらと出てきたぞ!

 ぶひぶひと言いながら俺達の周りに集まってくる! やめてくれー! カオスになっちゃうから! 沢山ぶひぶひでカオスになっちゃうから!


「オークには珍しくシュッとしてるぶひィ! それに、そこはかとなく歴戦の戦士感もあるぶひい! 名前は何ていうぶひ?」

「……す、スロー……ブだぶひ」

「皆! スローブぶひい! オークの魔法使いの名前はスローブぶひィ! スローブに拍手するぶひい!!」

「ぶひー!」

「スローブぶひー! スローブ!!」


 苦肉の策でついスローブなんて名前を呟いてしまったのだ!

 ストーブかよ! 冬には便利ですねってアホか!

 プルプルと震えながら身悶えていると、草むらからこちらの様子を伺っていたシャーロットと目が合った。

 口をゆっくりと動かしている。

 ……す、ろ、-、ぶ、さ、ま。

 うわああああああああああ、止めてくれえええええええええええええ。


「ブヒータはオークキングのブヒータ様ぶひィ!! 知的オークが皇国にいるなんて嬉しいぶひい!」


 王冠オークがやはりハイテンションで俺の背中をバンバンと叩くのだった。

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