70豚 何が起きてるんだよ!
早く、速く、何よりも―――疾く。
治安維持のために最低限配置されている兵士や恐らくは町の自警団なのだろう。手元に武器を持ち、彼らは森から出てくるモンスターに対処しているようだった。
大層困惑しているだろうと思っていたら、兵士を中心に統率がしっかりととれていた。
俺はほっと一安心。
ようやくヨーレムの町に辿り着くことが出来たようだ。
だが森へと繋がる街道から突然現れた俺をモンスターだと思ったのか兵士の皆さんからいきなり
うわ!
危なっ!
俺はモンスターじゃないっての!
何だ!? 俺を一体どんなモンスターと間違えたってんだ?
「撃ち方止めろッ! モンスターではない! あれは人間だ!」
「その制服ッ!? 学園の生徒か!?」
「まさか一人で超えてきたのか!? 街道を!?」
よく見ると町へと繋がる道のあちこちにモンスターが倒れている。
ゴブリンとかスライムとか…………あ、オークさんだ! 何故か妙に親近感が湧いてくる。辛うじて息があるようで何故かオークさんはこっちを見てぶひィィィィいと鳴き出した。すると、兵士がその頭を剣でぶん殴ってオークさんは気絶してしまった。オークさん弱いからね、しょうがないね。南無。
「学園はどうなってるんだ! 息子がいるんだ!」
「そうじゃ! 儂の孫が!」
「ええい、皆のもの落ち着け!」
そのまま大勢の兵士や自警団の人々に囲まれそうになるが、白馬は俺の意思を理解しているかのように彼らの間をすり抜けていった。
「おい教えてくれ! 学園はどうなっているんだ!?」
俺は白馬に乗ったまま振り返る。
風の魔法で声を拡張させる。
腹一杯空気を吸い込み、あっ、雨も飲み込んじゃった。ぶぇぇ、気道に入った! ゴホゴホっ! ぶぇぇぇ!
……ぶひィっと。
「学園がモンスターに襲われていますッ! 応援の手配を! 学園長を中心に戦っていますがいつまで持つか分かりません! 俺の名はスロウ・デニング! デニング家に連なる者ですッ!」
こういう時、デニングの名前はとっても便利だ。
ダリスで最も有名な貴族の名を出すだけで彼らは敬いを持って俺を見上げる。
特に軍の人達は顕著だった。姿勢を正し、俺を目にする瞳に熱が込められる。
将来のダリス軍トップになる可能性があるからな、デニング家の人達は。
まぁ俺には関係ないけど。
関係ないけど!
「そんな……」
「俺は行くぞ! 魔法学園には息子が通っているんだ!」
ざわざわと空気が淀み、彼らは一斉に森を見た。
モンスターが何体かこちらに向かってくるけれど兵士や自警団の人達は一歩も動かず、森の奥にある魔法学園の惨状を想像しているようだった。
おいおい、モンスターがこっちに来てるよ。
仕方ないので俺が得意の風の魔法でぶっ倒していく。
「馬鹿を言うな! この雨だぞ! 歩いていくというのか! それにモンスターだ! 途中で休める場所なんて無いぞ!」
「じゃあどうしろって言うんだ! 子供がいるんだ!」
さてと、学園の状況は伝えたから次は俺が聞く番だ。
この町で何か異変が起きているのは間違いない。
光の精霊がヨーレムの町に近づくに騒ぎ出しているからな。
彼らの囁きは逃げろ逃げろの大合唱で要領を得ることが難しい。
「あの! 町に何か異変が起きている筈ですッ! 教えてください! 一体、何があったんですか!」
答えはすぐに帰ってきた。
兵士ではなく自警団らしき巨体のおっちゃんが、大きな槍を握り締めながら口を開いた。
「デニング家のお貴族様……モンスターが領館に現れたらしいですぞ。王室騎士が健闘しましたが高級住宅街一帯が壊滅したという噂が」
「マルディーニ枢機卿様の呼びかけで、町民総出でカリーナ姫の救助を―――」
光の精霊を疑ってたわけじゃないけれどこれで確定か!
声を掛けるまでもなく白馬はヨーレムの町の中心部に向かっ走り出してくれた。
ここからではよく分からないが、彼らの言うとおり町は大きな騒ぎになっているようだ。
「あ! デニングの学生様、待ちたまえ!」
「おい! お前らどうする! ここでじっとしていたって仕方がねえぞ! 街道を越えよう!」
「静まれ! 魔法も仕えぬ平民が街道超えなど自殺行為だ!」
「俺も行く! だってお前らも見ただろ! あの子は超えてきたんだ! たった一人で!」
● ● ●
武器を取り、街道へと歩き出した町の人々を兵士達は押し留めた。
しかし、誰かが叫んだ。
あの貴族の坊ちゃんはたった一人で命を掛けて街道を越えたのだ。
後に続くものは一歩踏み出せ、と。
● ● ●
高級住宅街一帯が壊滅ってどういうことだ?
しかもヨーレムの町の人達を総動員するほどって言葉の意味も分からない。
それに
圧勝じゃなくて健闘!?
領館に現れたモンスターを倒せなかったということか?
「ああもう、何があったんだよ!」
さらに俺は街道で感じた気配も引っ掛かっていた。
風を蹴散らすように、何か大きな力の気配が遥か上空を飛んでいたのだ。
”逃げなさい、スロウ”
”光の大精霊様がやってきます”
”ダメですスロウ、行ってはいけません!”
全く、嫌に成る程分からないことばっかりだ。
纏わり付くような光の精霊達も似たような言葉を繰り返すばかりで話にならないし、どんどん精霊達がヨーレムの町から散っていくし。
まるであの時の再来だ。
俺が小さい頃、シャーロットを助け出したあの時と―――。
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