413豚 戦闘開始

「坊ちゃんが魔法で凍らせた食材なんすけど、普通の炎じゃ全然解凍出来ないんすけど! どれだけ力を込めたんすかッ! 坊ちゃん、やりすぎだって!」


 月明りの下、シルバが俺に向かって吠えている。

 パチパチと火花が燃え、まさに俺たちはキャンプファイヤーの真っ最中。シャーロットは甲斐甲斐しく薪を拾ってきたり、バーベキューの準備に率先して動いている。


 俺は丸太の上に座って夕食の準備をしているみんなを見つめていた。お、何とか氷漬けの食材を溶かそうとしているシルバの元へクラウドが近寄っていく。


「シルバ、お前盛り上がりすぎじゃないか。既に俺たちは敵地に侵入しているんだぞ、もう少し自覚をだな……」


「そんなこと言って、クラウドの旦那だって弾けてるじゃないですか! さっきから何杯飲んでるんですか、俺にも分けて下さいよ」


 確かにさっきからクラウドは一人で酒瓶を持ってその辺を歩きまわっている。真面目なクラウドにしてはあるまじき行いだ。


「お前みたいな若造にはこいつは早い。これは60年ものだからな」

「旦那もはじけてるってことじゃないですか」

「ふっ、そうかもしれんな」

「でも今がどれだけ貴重な時間かってことっすよ。俺は今も女王陛下から手綱を付けられている状態で、クラウドの旦那だって公爵家の便利家だ。次はいつ俺たちが集まれるか分からねえじゃないっすか、っておっと!」


 急に空から急降下して降りてきた黒い鳥。鋭い爪を持つそいつをシルバが剣で叩き落とした。ナイスだぞシルバ、そいつからはうまいダシがとれる。


「……ミントの話が正しいなら、これから起こる戦いは公爵家の存亡にすら話が及ぶとんでもな状態らしいじゃないっすか。なら、クルッシュ魔法学園に向かう前にパァッと楽しまないと!」


「そうだな、お前の言う通りなのかもりしれん。ほら、飲め」


 二人とも落ち着いていて、頼もしい限りだ。だけどあの二人。合流してからじゃれあってばっかりだな。まぁそんな姿を見ているのも楽しいんだけど。


 よし、そろそろいいかな。


「あ、スロウ様。どこに行かれるんですかー?」

「シャーロット。ちょっとミントの様子を見てこようと思って。シルバ、クラウド。ここは任せるからな」


 三人の話し声を聞きながら俺はその場を立ちあがった。

 見回りをミント一人に任せるわけにもいかないしな。それに――見られている。俺に位置を悟らせないなんて余程の凄腕だ。恐ろしいことで。


「坊ちゃん、こっちは任せてくれー」

「スロウ様。お気をつけて。こちらはお任せください」


 シルバとクラウド、あいつらも気づいてる。ああして振舞っているのは、シャーロットを安心させるため、既に俺たちは敵が支配する戦場にいるのだ。



 錆の連中がクルッシュ魔法学園に到着するまで俺たちを襲ってくる事はないだろうと思っていた。

 なぜなら俺は奴らの一人に接触した。

 奴らは理解出来ない相手には異常なぐらい警戒するからな。


「よう、ミント。そろそろご飯の準備ができるからこっちに来なよ」

「あ、若様」

  

 森の中で黄昏ていたミントの周りには何体かのモンスターの死骸が転がっていた。すべて眉間に何かの一撃が加えられている。鮮やかな腕前なこと。


「……はあ、もう少し緊張感を持ちませんか。食べますけど」


 彼女は俺たちが呑気なことが理解出来ないみたいだ。しきりに緊張感がとか、この状況下で焚き火をするなんて自殺行為ですが、とか言っていた。だけどあいつらがいる場所から漂ってくる香ばしい香りは彼女も逆らえないらしい。


 ミントと一緒に歩いていると不意に彼女が口を開いた。


「あの、若様――若様は私のことが――」


 最後まで言わせない。

 俺は足元から草を蹴り上げた。来る。


「えっ」


 棒立ちのミント、そのまま突っ立っていれあれの餌食になっていただろう。俺たちの目の前でそれは起きた。

 無詠唱で俺が構築した見えない壁に阻まれ、二つの針が地面に落ちる。


「……そんな。この私が気づかなったなんて」

 

 気配すら感じさせない攻撃にミントは動揺していた。


「若様は……いつからお気づきに……」


「この場から生き残れたら教えてあげるよ。それと先に言っておく、君は自分の力を過信しすぎだ」


 今夜、宿泊する木小屋を一人で直していたのはあいつが俺を見ていることに気づいていたからだ。だけど、あいつは一人の俺に手出しをしてこなかった。


 このタイミングで襲ってくるなんて。もしや、鍵はミントの方か。


「はあ。一番厄介な相手が来たな……。ヨーレムの町で挑発しすぎたか……」


 錆の連中はこういう戦い方が得意だから、公爵家の騎士では相性が悪い。

 奴らの戦いは基本ヒット&アウェイ。真正面から相手を叩き潰すのが信条である公爵家のやり方は奴らには通用しない。


 ミントはその辺に自信があるみたいだけど、本職には及ばない。


「……ひひっ、若様はよく視えてやがる。比べて公爵の従者、あんた一人なら死んでいたぜ……ひひっ、情けねえなあ……」


 はいはい、出てきた出てきた。地面を踏みしめて、そいつは俺たちの前に現れる。

 痩身にして、狼を模した仮面を被っている。


 ヨーレムの町で俺が接触したアニメキャラクター。父上と敵対している錆の主力、イチバンは短槍を構えて殺意をみなぎらせていた。



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