277豚 覚悟を決めろ、俺なら出来る
「デニング。今では、ダリスの英雄となったお前の行動を誰もが意識している。暫く王都で過ごし、自分がどんな立場にいるか、まさか気づいていないわけじゃないだろう」
「ぶひい」
確かに、ロコモコ先生の言わんとすることは分かるよ。
王都ダリスでは街に出るのも一苦労。
人の目が気になったし、外に出るのも勝手に誰かがついてくるんだもん。
そういえばアニメの中のシューヤも似た状況に陥っていたよな。特にあいつなんか直接、女王陛下から救世主扱いされたもんだから俺の比なんかじゃなかった。
自分の行動一つ一つが持ち上げられて、シューヤは周りの人間が何を考えているか分からないって軽い人間不信に陥っていたっけ。
まっ、シューヤの場合は何か問題に陥ったら、ほぼ全部アリシアがヒロインパワーで解決していたけど。
別に俺はあいつと違って幼い頃は風の神童なんて言われていた時代がある。今更人間不信なんかにならないから関係ないか。
「ロコモコ先生も横になりませんか? こっち側が風が良い感じにあたって、すっごく気持ちいいですよ。先生もたまには行事をサボってこーいうのもアリだと思いますが」
しかしまぁ、ここから本当に学園が一望出来て。
やっと俺はクルッシュ魔法学園にに帰ってきたという実感を得ることが出来るのだった。
帝国との戦争を避けるって言うアニメとは全く違う世界目指した俺。
シャーロットを何とか説得して、迷宮都市まで旅をした。思い介せばありえないほど大変な旅だったけど、それに見合うだけの価値は手に入れたと思っている。
てかさ、正直に言うよ。俺、すげえ。
誰にも言えないことだから自分の中で自分を褒めてやりたかった。
「ぶひぶひ」
多分、今の俺は相当気持ち悪い顔をしていたに違いない。
ニヤニヤぶひぶひと笑みも零れていただろう。多少痩せて、王女様を救ったなんてかっこいいエピソードの一つや二つを持っているとはいっても俺の心は豚だからな。
「デニング。急に気持ち悪い顔になってどうした」
「気持ち悪い顔って、本当に失礼ですね先生。うーん、なんて言えばいいかなぁ。俺にとってはこんなに綺麗に見える空も、ロコモコ先生みたいに何も思わない人もいるってことです。何事も見え方次第、どんなに悪い奴でも別の角度から見たら良い奴に見えることもあるってことです」
「っち。急に詩人になりやがって。まぁいい、そこまで話したくねーってなら教えてやる。お前が急に変な動きをし始めたのは、シルバが王都へ戻ってきた後。より具体的に言えば、陛下に呼ばれた翌日からだろ」
「げっ。ロコモコ先生って意外と情報通なんですね。正直びっくりしました」
あの日あの時。
カリーナ姫から陛下が俺を呼んでいると聞かされて。
玉座へと続く大扉の前にずらりと並ぶ王室騎士の姿を思い出す。
有名どころで言えばオリバー卿やダールトン卿、クシュナー卿、ハイネ卿当たりのいわゆる武闘派と呼ばれる奴らもいた。
俺は数十人の王室騎士に見届けられながら、扉を開いたんだ。
驚くべきことに守護騎士も王室騎士団長も、俺の後に付いてこなかった。ドルフルーイ卿は全てを語れと言い、俺の背中を押した。
先に待っていたのはたった一人、女王陛下のみだった。
ああいうシチュエーションって、緊張するから本当に辞めてほしいよな。
思い出すだけでドキドキする。お菓子を貪る手も止まらないってもんだよ。
「ぶひぶひぶひぶひ」
「というか、おい! いい加減に食うのをやめろっ! こっちは真面目な話をしてるんだよ」
「そんなこと言われましても。嫌な記憶を思い出させようとしてるのは先生の方ですよ」
そして、あの時。俺は女王陛下に伝えたんだ。
カリーナ姫直属の王室騎士。
王都の民からは将来の守護騎士確実と思われている現状についての自分の意見。
俺はそんなもの、ちゃんちゃらごめんだと。
正直、俺はカリーナ姫のために死ぬなんて未来はまっぴらごめんだと。
嘘偽りなく、国のトップに伝えたんだ。
カリーナ姫と何度か話して気付いたこともある。あの方は聡明で、噂で聞くような引き籠り姫なんかじゃなかった。
そして、多分。
ダリスの次期女王にならねばならぬという重圧に呑まれていることもよく分かった。
勿論、可哀想だとは思ったさ。同情もした。それも、俺の本心だ。
だけど、俺には俺の人生がある。
全員は救えない。そんなこと、アニメ世界というもう一つの未来を見た俺は知っているんだ。
これまでの事だってそうだろ?
今までの俺はただ、運が良かっただけ。
ダンジョン都市のことを思い出せよ。
ドストル帝国の三銃士、あいつを退けたのなんて奇跡だ。闇の大精霊と火の大精霊。奴らの協力が無ければ、到底不可能だった。
認めよう、三銃士の一人。
ドライバック・シュタイベルトは強かった。
というか、ドストル帝国の三銃士は人という次元を止めてるだろ。ダンジョン都市のことはまじで奇跡みたいなもんなんだよ。
だからこそ、アニメの中でシューヤが三銃士の一人を独力で打倒した事実が際立つんだけどな……。
「ぶひぶひぶひぶひ」
「謎かけか。そういうのは余り好きじゃねえんだが――」
ロコモコ先生ははぁー、と息を吐き出し。
「俺は一つ、お前の心変わりに心当たりがある。これでも元は王室騎士なんでな。女王陛下との謁見直後に様変わりする、お前みたいな奴を俺は何人も見てきた」
そして、女王陛下はそんな俺の気持ちを理解してくれた。
忠誠心の無い王室騎士にカリーナ・リトル・ダリスの傍にいる資格はなく、偽りの王室騎士たる俺にこの白外套を着る資格もどこにもない。
だから……うん、そうだな。
女王陛下は理解してくれたと思ったから、俺は意気揚々と白外套を脱いで返そうとしたんだ。そしてこのまま、部屋に戻ったらシルバと街に出て、なんか美味しいものでも食べに行こうなんて――玉座の前で思案した時、女王陛下は言ったんだ。
彼女は俺に、『シューヤ・ニュケルンという名を知っているかしら』と問うたんだ。
「デニング……お前、陛下から何か勅命を受けたんじゃ――」
ロコモコ先生の目が細められ、射抜くように俺を見つめる。
何か確信を持ったらしい先生の言葉はしかし、その後に続く事はなかったのであった。
なぜなら俺達がいる屋上に突如、邪魔者が現れたから。
「――デニング卿ッッ! このような場所におられましたか! それにハイランド卿、デニング卿を見つけたら即座に下へ連れて来るとの話であったではないですかッ! もう間もなく始まります! 式典のフィナーレッ、まだ見ぬ原石を見つけ出す試練、
大声で俺に向かって言葉をわめき立てる眼鏡をかけた女性がいる。
彼女の出現によっても、あの時あの瞬間の記憶が自然と蘇ってくる。
『シューヤ・ニュケルンという名を知っているかしら』
それは女王陛下なんて大層な役割を持つ、彼女の口から出るには――余りに可笑しい言葉だったから。
……さすがの俺も固まったんだ。
「急に現れてその服装――いろいろ言いたいことはあるが、ちょっと待て、役人。お前、今……
例えば、そう。
今、
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