276豚 俺はダイエットに成功した男だから
「デニング。お前ある日を境に急に忙しく動き出したそうじゃねえか」
「うーん。ロコモコ先生が何を言ってるかよく分かりませんね。でも忙しいのは当たり前でしょう、俺は王室騎士になったんですから。いやぁ、覚えることばっかりで大変ですよ。特に宮廷の作法とかね。王室の方々が喋ってる時は動いちゃいけないなんて、本当に馬鹿馬鹿しい伝統だとしか思えません」
カリーナ姫誘拐未遂事件をギリギリで食い止めた後。
俺は守護騎士らに連れられ、女王陛下が待つ玉座に向かった。
そして、栄誉を称えられ、公爵家の人間でありながら初の王室騎士となった。
「はっ。デニング、てめえが素直に騎士なんぞに精を出すたまかよ」
「これでも先生。剣術は結構上手くなったんですよ? なにせあの守護騎士から直接技術を学んだんですから」
俺は偽りの王室騎士となり、あの仏頂面騎士から毎日外に連れ出され、剣の稽古とは名ばかりのしごきを受けていた。
まぁ、さ。最初は外に出る度に民衆からキャーキャー言われて、悪くない気分だったよよ。
俺の時代きたーって、心でぶひぶひ言いまくってた。
そこは嘘じゃない。
だけど、そんなものすぐに慣れた。
確かにこう……真っ黒豚公爵から真っ白に目覚めた時はどこまでも成り上がってやるなんて思ってたけどさ。
でも、本当に俺が望んでいたものはこれじゃないって思ったんだよ。
「技術を学んだ割と言う割に、大して痩せてねぇのはどういうことだ」
「それはまぁ。俺には俺のペースがありますから。急に無理したって体を壊すだけ、自分のペースで頑張ればいいんだぶひ」
王都の中でもそうだが、貴族ばかりの城内部でも俺は注目の的だった。黒龍討伐の話を聞きたがる者も大勢いたし、こっそりとうちの娘と会わないかなんて勧誘も受けた。
勿論、好意的じゃない奴らも沢山いたよ。
でも俺は誰彼構わず、異常な関心を持たれていたんだ。それだけは間違いない。
「おい、デニング。話をはぐらかすのは止めろ。俺の知る限りじゃぁ、お前は王都で騎士になり大人しくなったかと思いきや、ある日を境に何やら可笑しな行動を始め出した。そうだ、あのシルバが王都に戻ってきてからだ」
そうだ。
シルバが戻ってきて、あいつは疲れ果てた顔で、サーキスタの大迷宮に潜ってたなんて言いやがったんだ。
さすがの俺もあの時は呆気にとられたもんだよ。
シルバの野郎、どこかで監禁でもされてるのかと思ってたら国外にいただと?
それも迷宮だと? ぶひ? おいおい、どういうことだ詳しく話せよってのは。
でもあいつは晴れ空のように能天気な顔で、あー、疲れたっすわーって軽い態度丸出しでふかふかの椅子にだらりと腰かけてたな。
疲れただと?
アリシアの故郷、サーキスタの大迷宮。
デーモンランドに潜っておいて、それで済む筈がねーだろおい。あそこで何人の実力者が死んでると思ってんだ。
けれど、あいつは自分の命を賭すことで、自ら付与剣の属性替え。
黒龍騒動の時、俺に付与剣を貸し与えたという罪を見事、自分で拭ってみせた。
「ロコモコ先生、空が綺麗ですねー」
「……はぁ? お前、突然どうした?」
「空が綺麗だって言ってるんですよ。先生、空。見えないんですか?」
「……お前、俺の話聞いてたのか?」
シルバは生きていた。
それどころかあいつは、自ら大罪を吹き飛ばしてみせた。
これで俺は王室騎士なんて面倒な仕事を辞めてやるぜ、ぶひいいいいいいいいいいいいいいいなんて考えて、そりゃあもうスキップでも始めそうなぐらい、逸る気持ちを抑えられなかった時もある。
俺はもう真っ黒豚公爵じゃない、そりゃあスキップだって余裕である。
だから、改めてカリーナ姫の守護騎士になる気はないかと陛下の誘いを受けた時も毅然として断ることが出来たんだ。
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