253豚 ――シャーロットと三日月の守護騎士

 騎士国家では平民として生きてきたシャーロットが女王と席を同じくするなど本来はありえないことなのだが――シャーロットは公爵家直系三男の専属従者という特別な肩書を持っている。


 公爵家の専属従者。

 それは時に重たい意味を持ち、民衆からは戦人である公爵家直系を支える凄い人、そんな風に認識されていた。

 稀に主人その人よりも有名な場合があるとか、ないとか。


 さて、龍殺しドラゴンスレイヤーに強い興味を持つ女王の強い要望により、彼女の席は設けられたのだ。

 そんな彼らを乱れぬ姿勢で兵士達が見守っている。

 しかし竜巻ハリケーンの中から再び雷鳴が轟いた時、高らかに笑い出した白髪の男のせいで、兵士達は大きく身体をのけ反らせた。


「――くくっ……くははははは! 今の魔法を見ましたか陛下、あの雷……仮にも同盟国、魔導大国ミネルヴァ大魔導士グレイトメイジともあろう男の魔法にしては何とも情けない……しかし、ここからでは王室騎士ロイヤルナイトが白ネズミのように見えるものだ…………くくっ、情けない…………王都の民に見られているのに……手も出せず……これでは王室騎士ロイヤルナイトは実戦では役立たずと噂されるのも納得でありますな……くくっ……」


「ルドルフ。仮にも副団長の地位にいる貴方が、仲間をそのように揶揄することは止めた方がいいわね」


 女王の隣に座り、白髪を後ろに縛る壮年の男を見つめる兵士達の表情は恐怖。

 しかし、それも無理なきこと。

 王室騎士団ロイヤルナイツの中でも最もキワモノとされる孤高の男。

 王室以外には一切の敬意を持たぬ、一匹狼。

 守護騎士ガーディアンという騎士国家の顔でありながら、最も騎士から遠い男。しかし、騎士国家の女王エレイナ・ダリスからは全幅の信頼を寄せられている三日月の騎士ルドルフ・ドルフルーイ


「陛下……ヨハネ・マルディーニ率いる王室騎士団ロイヤルナイツが手が出せないのは事実でありましょう……確かにあのスロウ・デニングが生み出した竜巻ハリケーンは強力、しかし天下の王室騎士ロイヤルナイトがあれしきの魔法に右往左往するなど……あぁ、情けない、情けないぞヨハネ・マルディーニ…………お前はいつもそうだ……仲間を背後から刺し......姫のお守りさえも満足に出来ぬお前が騎士団長など…………――虫図が走る」


「分かったわ、分かりましたルドルフ。貴方がヨハネに大きな不満を持っているのはよく分かりました、けれど殺気を出すのはやめなさい。可愛らしいお嬢さん達が怖がってるじゃない」


「……これは、失礼……しかし、くくっ……何故そこまで俺を恐れる…………スロウ・デニングの従者……くくっ……」


「ひ、ひえぇ……」


「くくっ…………怯えよる……スロウ・デニングの従者は愚にもつかぬ平民との噂はまことか……」


 騎士国家において唯一、帝国の三銃士と対等に戦える存在との評価を受ける男。

 王室騎士に対しては喧嘩っ早い公爵家デニングの人間が唯一喧嘩を売れない、ならず者。三日月の騎士ルドルフ・ドルフルーイに見つめられ、シャーロットはたじたじだ。

 そんな危険な男だけじゃなく、この国で一番偉い人。

 騎士国家の女王エレイナ・ダリスとも席を同じくしているのだから、とってもびびりなシャーロットという少女がぶるぶる震えるのも仕方のない話。


「それで公爵家デニングの従者、シャーロットと言ったかしら。公爵家デニングの子は、全て自分に任せろって――本当に、そう言ったの?」

 

 そんな恐縮するシャーロットに向かって――女王は優しく問いかけた。


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