283豚 開幕の守護騎士選定試練

 シューヤには借りがある。

 アイツのお陰で俺は戦争を止められたと言っても言い過ぎじゃない。


 だって俺は強くてニューゲームしているわけじゃない。

 シューヤ・ニュケルンが別の世界で残した遺産思い出を使って、生きているだけ。

 

「俺は皆も知る通り、龍殺しドラゴンスレイヤーだ。実際、この場にいる誰よりも強いと確信している。だけど、公爵家の人間として、才能のみで成り上がった俺に国の顔ガーディアンとなる資格があるとは思わない。だから――次代の守護騎士は俺でなく、民に寄り添える優しき者が適正だと女王陛下に進言した」


 アニメの中でシューヤには大勢の仲間がいたが、今この学園ではアイツの理解者は限りなく少ない。

 ならば、俺が代わりになればいいだけの話。

 シューヤの理解者であった彼らのように、そして火の大精霊がいつか打倒すべき好敵手として君臨すればいい。


「俺に与えられた役目は、このクルッシュ魔法学園に隠れたを探し出すこと」


 だから――俺は女王陛下に告げたんだ。

 シューヤ・ニュケルンと火の大精霊、切っても切れぬ二人と友好関係を築くこと。

 それこそが火の大精霊を味方に引き入れる唯一の道である、と。

 だが、ここで問題が生じる。

 あの熱血馬鹿、シューヤ・ニュケルン。戦闘狂、火の大精霊。二人と仲良くなるには、何が必要だ? ただ真正面から仲良くしようと向かっても、疑心暗鬼なシューヤから信頼を得ることは不可能だ。


「弱くとも、家の格が低くとも、性格に難あろうとも、心に闇を抱えていても、悩む必要はない。己がこの俺よりも、王室騎士に相応しいと思う者は――」


「――ちょっと待てええええええええええええええええええええ! そ、それは、それはだな! スロウ・デニング、お前に何らかの方法で俺を認めさせれば、この俺が守護騎士選定試練ガーディアンセリオンに参加出来るってことでいいのか!?」


 俺は深く、頷いた。


「何人までだ⁉ 制限があるのか⁉ っと、その前に――このガ―ランダム伯爵家、マルセロ・ガ―ランダムはお前に決闘を申し込む! 俺の方がよっぽど王室騎士に相応しいからな!」


「受けて立ちます、先輩。そして貴方の勇気、しかと受け取りました。さぁ、彼以外にいないのか! 龍殺しの称号を得た俺に、力で立ち向かう勇敢な者は!」


 だから――拳ぶつけ合う闘争を準備する。それ以外に、あの脳筋な二人と仲良くなれる方法はない。


 そして――この守護騎士選定試練を通じて、シューヤには自覚してもらう。自分は暴走の可能性があり――理解者が必要である、と。


 さらに、こんな国を揺るがしかねない俺の案に、女王陛下は目を輝かせ「面白いじゃない! 画期的よ!」と喝采した。


 勝算はあった。

 何故なら、火の大精霊に寄生されたシューヤ・ニュケルンを救世主に仕立て上げたのは女王陛下その人であり、火の大精霊を味方につけるというメリットは、ドストル帝国と睨み合う現在において何事にも優先されるのだから。


「俺もだ! 決闘を申し込む!」「おい、相手は龍殺しだぞ! 無理だって!」「無理じゃねー!」「あの豚公爵だぞ!」「豚が人様の言葉喋ってんじゃねーぞ!」「銀貨返せよ!!」「デニングに王室騎士はまずいだろ!あいつ、カツアゲの常習犯だったんだぞ!」「あいつに泣かされた奴、何人いんだよ!」


 おー、きたきた、盛り上がってきたね。

 しかしブーイングやばいな。皆が思いの丈を俺にぶつけてくる。うげぇ、そこまで言う? 俺。王都では英雄的扱いばっかりだったけど、やっぱりこっちじゃ嫌われてるんだなぁ。まぁ、しょうがないかぁ。真っ暗豚公爵時代の過去は消えないもんなぁ。

 ちらりと振り向けば、学園長がにこやかに頷き、ロコモコ先生がドン引きしている。

 再び皆の中に埋もれていたシューヤを見れば――アイツは顔を上げ、まるで何かを決意したかのように、周りの生徒と同じく蒸気した顔を晒している。

 そうだ、それでいいんだよ。お前にあんな顔は似合わないって。

 よし、そろそろ頃合か。

 ていうか、あぶ、危ねーな! 誰だよ、教科書を投げつけた奴は! 絶対に許さねーぞ!


「それじゃあ――」


 クルッシュ魔法学園で行われる守護騎士選定試練。

 目的は挑んでくるシューヤ・ニュケルンと火の大精霊をフルボッコし、お互いを認め合うこと。


 だからさ、シューヤ。

 今代の守護騎士選定試練ってやつ、実はな。

 俺の味方はこの世界に一人もいないって。


守護騎士選定試練ガーディアンセリオンを、開幕するッ!」


 


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