235豚 英雄の帰還 前編②
正規の手続きを取らず、
冒険者としての異色な経歴を持つ、光の魔法が使えない
王室騎士団は精鋭中の精鋭だ、自分の居場所は無かった。
分からねえ――俺は何故、この場にいる?
常に違和感を感じながら、彼の葛藤は母校である魔法学園の学園長に出会うまで続いた。
だから、ロコモコ・ハイランドにとって王城での思い出にもう一度、思い出したいと思うようなものはなかったのだ。
「――迷惑を掛けますね
「殿下は俺のような人間を覚えていて下さり、頼っても下さった。俺のような頭の悪い人間が殿下のために頭を使うここ数日は本当に幸せでした」
衛兵にかしづかれ、クルッシュ魔法学園の一教師は王城に入城した。
身綺麗にしたが王城に詰めていた数十人の嘗ての同僚達からは露骨に嫌な顔をされた。
ロコモコ・ハイランドは王室騎士を自ら辞した人間だ。
幾らあのモロゾフ学園長の熱望であったとはいえ、ダリス王室よりも母校の学び舎を選んだ人間だ。居心地の悪さを感じながら、ロコモコ・ハイランドもまた少年と同じようにカリーナ・リトル・ダリスの願いを聞くことなった。
「俺が光のダリス王室のために一芝居打つ日が来ようとは思ってもいませんでした」
「大げさですよ
「先生も殿下も何を悠長に会話をしているんですかッ! あいつらがこっちを見てます!」
「慌てんな、あいつらは監視が主な役目の下っ端だ。今からあんな奴らにビビってどうする」
「下っ端……? 二重属性の魔法使いもいるんですよ!?」
「下っ端だから常に一定の距離を保って、俺たちの行動を監視してんだよ。本隊はどこか別の場所にいるんだろう。だからこそ――」
殿下は本当に成長なされた。
それが
あの
だが残念なことに、時期が悪すぎる。
彼女の行動はあの過保護なマルディーニ枢機卿。
――しかし、可笑しいな。
「ビジョン。出来るだけ遠くに逃げ、殿下と共にどっかに身を隠していろ。絶対、王城には戻るなよ。出来るだけ、遠くにだッ」
「どうしてですか先生! 王城に逃げるべきです。あそこには王室騎士団がいる! 助けを求めましょう!」
「ダメだ、嫌な予感がしやがる。それにこういう時は一番安全だと思っている場所に一番やべえ奴がいるって相場が決まってるんだ。どっかで王室騎士団の誰かが殿下を迎えに来るのを待っていろ!」
「……それが本当に最善なんですか?」
「知るか! だが敵の頭の裏側をかくのが、逃亡者が生き残るための第一だ」
一芝居うち、何とか殿下に王城の外を見せることを成功した。
お忍びさえも興味が無かった殿下の世界。
爽やかな風が吹く一日。楽し気にされる彼女の様子を見て、ロコモコ・ハイランドは今までにない充実感に包まれていた。
「殿下。これから、俺はひと暴れしてきます。なあに、すぐに貴方の盾となる
王都ダリス。
鉄壁の城壁に囲まれた南方の大都市。
年の近い少年との秘密のお出かけを随分と楽し気にしておられた様子のカリーナ・リトル・ダリス。
二人の姿をロコモコ・ハイランドは見守っていた。
周りに注意を払い、何があっても即座に対応出来るよう杖を持ちながらではあったが。
時間にして三十分程。
ランチであれば充分、ディナーであればまだ途中。
たったそれだけの時間で彼女は満足し、そしてそれで終わりの筈だった。
けれど王城に戻る途中、彼らは突然に現れた。
彼らがどれぐらい潜伏していたのか分からない。
だが、事実として――彼らはいたのだ。奴らの殺気に気付いたロコモコ・ハイランドは近付いてきた男を咄嗟に一人、土の魔法を用いて叩き潰した。
「分かりました。ですが死なないで
「
そう殿下に約束しながらも、ロコモコ・ハイランドは背後を確認する。
目に見える者は三人、だが間違いなく只の盗賊団といった生易しい奴らではない。
三人しかこの目で捉えられないが――あちこちから、殺気を感じる。
「ッ!」
その時、風の魔法で加速された短剣が教え子の元へ一直線に飛来した。
間一髪、ロコモコ・ハイランドは彼の身代わりとなって背中に刃を受ける。激痛に苛まれながら、教え子の顔を両手で掴んだ。
ぐらぐらと、少年の顔が揺れている。
――毒か。そりゃあそうだよなぁ。俺でも、使う。
やはり、まともな相手ではない、目的達成のためなら手段を択ばない。強力な幻覚によって揺れる教え子の顔を見ながらロコモコ・ハイランドは呟いた。
「殿下を頼むぞ」
覚悟を決めた男の瞳を見た時、少年もまた覚悟を決めた。
今まで躊躇っていたクルッシュ魔法学園、第二学年、グレイトロード子爵領嫡子、風と炎の
ロコモコ・ハイランドは不気味な相手が待つ戦場へと振り返き際に、二人の背を強く押しながら――。
「ッ! ――行けぇぇぇぇぇぇえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇええええええええぇぇぇぇええええええっ‼」
――叫んだ。
何事かと思い、ビジョンは恩師の背中超しにそれを見た。
空に浮かんでいるのは尊大に浮遊する大火球だけじゃない。水色の魔法陣からは氷の槍、茶色の魔法陣からは土の塊、薄緑の魔法陣からは空を切り裂くかまいたちが迫りくる。
数えきれない
目的地は分からない。
この広い
黄金の髪を持った、少年少女の二人組。
アニメの中では存在しなかった
上を見上げれば、何の悩みも無さそうな晴れ模様。
隣を見つめれば、何か思い詰めた様子のお姫様。
後ろを振り返れば、激しい魔法戦を繰り広げている先生の姿。
前を見据えれば、蜘蛛の子を散らすように逃げるこの国の平民達。
「ハァッハァッ、ハハッ! だけどハハッ、何か生きてるって感じだッ!!!」
息切れと共に零れる笑み。
危機的状況にあって、不思議と笑えてくるのは何故だろう?
「カリーナ殿下! すみません、こんなことに巻き込んでしまってっ!」
分からないこと尽くしの中で、少年に唯一分かることと言えば。
人と人が挑みあう
「そうねっ、マルディーニに知られたら殺されそうッ! でも確かに生きてるって感じがするわっ。ふふ、安心して、マルディーニには私から言ってあげるから! 私がお願いしたのってねっ」
「お、お願いしますっ! 枢機卿に目の敵にされれば、僕の人生は終わりだぁ!」
金髪の髪をなびかせて走る身分違いの逃走劇は、例え慣れ親しんだ王都の中であっても
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