279豚 女王からの勅命、それは
「で、デニング卿に向かって何たる狼藉を働こうとしてるんですか! ロコモコ・ハイランド、貴方は一教師の分際で自分が何をしているか理解しているのですかッ!」
「何だデニング、お前。俺を一教師扱いとは、随分と庇ってくれる部下を手に入れたみたいじゃねえか。騎士になった甲斐があったってもんだな」
バリっとした黒シャツの上からも分かる鍛えられた身体は明らかに教育者ではなく武人のそれ。
始業式ということで常よりも落ち着いたアフロだけど、誰よりも人生を謳歌してやるぜと言わんばかりのその姿。
アニメの中ではシューヤ・ニュケルンの仲間の一人として活躍するロコモコ先生が、険しい顔で俺の前に立ち塞がっている。
屋上から大講堂へと降りる扉の前で、杖を抜き――どうやら、俺がこれからすることを話すまで入り口から退くつもりがないらしい。
「つ、杖を下ろしなさい! いくら元王室騎士であろうともら、やっていいことと悪いことがありますよッ! デニング卿にはこれから国の命運にも関わる大役が待っているんですから! 貴方如きの相手に時間を取られているわけにはいかないんです!」
「へぇ。それじゃあ、俺も学園の一教師として、デニングが果たすべき大役が何なのか教えてくれよ。ダリスの英雄様が一体何をしようってのか興味が尽きないぜ」
まいったな。
これから俺は全校生徒の前でとあるお話しをする予定なんだけど、そんな真面目な顔されたらこっちだって真剣に対応しないといけないじゃないか。
……。
え? 俺が謁見の後にどうなったか?
そんなのフルボッコにされたに決まってる。王室騎士団を前に、彼らが敬愛する陛下に殺意をぶつけたんだから当然だ。
守護騎士が持つ付与剣の一刀で切り伏せられ、俺の死体は闇に葬り去られた――。
敗因は明らか。
喧嘩を売る相手を間違えたこと、それに尽きる。
次回があれば相手は選びましょう、それじゃあ来世に期待して――というのは冗談。
あの場で、俺は女王陛下に伝えたんだ。
「それきさっきまではここで呑気に昼寝をしていたんだ。先に俺に教えてくれるぐらい、大した手間じゃねえだろデニング」
「ロコモコ先生。俺だってですね、ことがすんなり行くとは思ってなかったです。だけど、最初の壁が貴方になるとは」
「何が言いてぇ」
「いえ。やっぱり先生は生徒思いだなあって、改めて思っただけですよ」
俺はシューヤと火の大精霊。
二人の間にある共生関係にとっくに気付いてましたよって。
そもそもの話。
真っ暗豚公爵として、当時から国中の問題児だった俺がクルッシュ魔法学園に行くことを希望した理由は何だ?
何故、あの真っ暗豚公爵が公爵領地から魔法学園に?
それこそが、シューヤと火の大精霊を観察するためだと、語ったんだ。
「あーもうっ、デニング卿! こんな男に構っている暇なんてないんです! 私たちには陛下より与えられた崇高な任務があるんですからっ!」
「おおっと、口が滑ったな眼鏡野郎。しかし、やはりと言うか陛下の勅命でお前たちは動いてるって言うことか」
嘘だ。そんなの苦しまみれのでまかせだろう、と。
当然、最初はそんなこと誰も信じない。
それに火の大精霊は国家規模で対処せねばならない問題である。何故、報告すらしない? シューヤ・ニュケルンを庇っているのか? アレは生きていない。火の大精霊の傀儡、人形を庇う意味など見出せないと奴らは言った。
「妬けるぜ、デニング。凄え奴だとは思っていたが、その年で陛下から勅命を受けるか。伊達に公爵家の人間で初の王室騎士になってねぇ。しかし陛下も変わらねえなぁ、見込みのある奴には厄介事を押し付けるあの性格」
「先生。退いて下さい、俺は貴方と争う気はない」
だから、俺は語った。
俺とシューヤの関係は、特殊であると。
特別? それは一体どういうことだ。俺とシューヤの関係を証明出来る者はいるのか? 俺がクルッシュ魔法学園で火の大精霊の存在に気付いていた証拠があるのか?
そもそも女王陛下に危害を加えようとした、それだけで万死に値する――。
「退かねえよ。どうやらお前とそこの眼鏡はとんでもねえ厄介ごとを学園に持ち込もうとしているようだ。一教師としては事前に許可を取ってもらわねえとなぁ」
「デニング卿! こうなったら私がこの頭の固い男を止めます! 貴方は皆が待っている下へ降りて下さいッ!」
「いいや、それは間違っているよ。ニャマリアさん、貴方がロコモコ先生の相手をしたって何の解決にもならない。ただ事態がややこしくなるだけです」
だけど、アイツが――。
ちょうど王城のカリーナ姫の元に遊びにきていたらしいビジョン・グレイトロードが連れて来られてからは、風向きが変わった。(てか、何でお前がカリーナ姫と仲良くなってんだよフザケンナって話はおいといて)
女王陛下の前でアイツはガチガチになりながら、言ったんだ。
確かに俺と、シューヤの関係は普通じゃなかった。
俺が毎日いちゃんもんをつけ、シューヤに事あるごとストレスを与えていた。
まるで、何かを試すようように、シューヤを苛めていたと。何の因縁もないのに――俺のシューヤに対する態度は異常だったとアイツは言った。
そうだ。
俺がことあるごとに、シューヤ・ニュケルンに突っかかっていたのはあの学園に通う人間なら誰でも知っている、常識なのである。
「いいですよロコモコ先生。とーっても忙しい俺が相手をしてあげます。ただ、誰に杖を向けてるか、理解しているんですか?」
「杖を抜けよ、デニング。そんな弛んだ身体で一貯前に説教とは笑わせる。それに忙しいだって? 少し前には昼寝してたじゃねえかよ」
「そこは言わないお約束でしょう、先生」
その後、訳も分からないままビジョンは退出させられ、そこからは俺の独壇場。
何せ俺には知識がある。アニメで見た火の大精霊の特性を、アカデミーすら知らない秘密を数多く知っている。それらを纏め、虚実織り込みながら語って聞かせれば、俺の火の大精霊に対する知識が尋常でないことに気付くのは難しくない。
だから、俺は女王陛下にアイツの対処を、俺に一任するよう申し伝えた。
ダンジョン都市で火の大精霊が持つ力の一端をアイツが解放させたのは誤算だが、まだやりようはある、と。今まで通り、シューヤ・ニュケルンの相手は俺に任せて欲しいと頭を下げた。
結果として――火の大精霊に対処出来る人材で、俺以上の人間はこの
つまり――真っ暗豚公爵のやってきたことは、無駄ではなかったらしいのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます