259豚 風のデニング公爵家Last
それはこの国においてとっても特別な意味を持ち、名実共に至高の騎士に与えられる呼び名。かねてから守護騎士の名は大陸に轟いていたが、今代の守護騎士である三日月の騎士がさらに名声を高めている。
女子陛下がまだうら若き王女だった頃。
国を飛び出した陛下、そして家出を助けた三日月の騎士との冒険録。固い絆で結ばれた二人が旅先で成した伝説は南方各国の王族、貴族に多くの信奉者を生む程で。
俺だって幼い頃はあの白マントを着て、付与剣を持つ自分の姿を夢想し憧れたもんだ。
「先の言葉は身に余る光栄で、信じられないようなお誘いではありますが……聞かなかったことにしておきましょう」
「え……どうして?」
でも、俺が守護騎士になるなんて未来は決して訪れないのだ。
公爵家と王室騎士団の間にある相互不干渉の原則がある限り、公爵家の人間が王室騎士団に組することはあり得ない。
それに――俺にとって、余計な身分はこれからの足枷になるだけだから。
「俺は貴女が考える程、強くはないからです」
「でも君は……
「黒龍討伐に俺は限界以上の力を使い――そして今。貴女を守るために彼らも限界を超えました。残念ですが、お喋りはここまでのようです」
何のことか分からず、きょとんと首を傾げる彼女は俺の強さを疑っていない。
けれど。
「殿下。俺の負けなんです」
「え?」
次の瞬間、俺の魔法が崩れ去る。
カリーナ姫もそこで気付き、顔を上げた。
「もし貴女の騎士達があの場にいれば――彼らは死に物狂いで貴女を助け出し、結果的に龍殺しの栄誉を得ていたのは彼らでしょう」
それは幾線もの光線だ。
神童として名を馳せた俺の魔法が溢れる光に浸食される。
風を打ち抜く光筋は、彼らが振るう剣の証。
「殿下! 貴女の
「抜け掛けは止めろグリーズマン卿! おぉ、あそこに公爵家の龍殺しがいるぞ! 本物だ!」
王室騎士が持つ細剣によって――世界は再び蒼に染まる。
露わになった晴天と共に、俺の魔法を切り裂いて現れる騎士達。穢れなき白を羽織る彼らは、この国に生きる者なら誰もが憧れる選び抜かれし貴族であり。
「殿下! ご無事ですかッ!」
そしてまず一人が、時計塔の屋上に軽やかに着地。
反り上げた頭とぎょろりと動く大きな瞳を持つその男は、同盟国である
「マルディーニ……今、良い所だったのに……相変わらず空気が読めない……」
「何をおっしゃいますか殿下! 我ら王室騎士団がこの忌々しき風を突破するためにどれだけの力を使ったか!」
錆びた英雄、ヨハネ・マルディーニを筆頭に次々と王室騎士達がこちらに飛び移る。
彼らは一人一人がこの国で名を馳せる勇士であり――世界を覆う晴天はそんな彼らを祝福しているかのように光り輝いた。
だけど細剣と白マントを身に着ける騎士達は俺に敵意の込めた視線を向けている。
おっと、こりゃあまずい。あの風が俺の魔法だってことは完全にバレているようだ。
「えーっと……まぁ、何て言いますか……」
俺は見事に、
「御見事」
最大限の敬意を払うため、両手を挙げた。
「――降参です」
さて、これで俺はようやく
非常にめんどくさい事態に巻き込まれたわけだけど、今後のキーパーソンだろう彼女に会えたのだからこれはこれで良しということにしておこう。
それにまぁ――俺の中で、彼らとの格付けは済んだのだから。
王室の守護者たる
この国では実力者中の実力者である彼らだれど、あれぐらいの魔法に四苦八苦しているようでは先が思いやられる。例えば自由連邦の実力者、
ぶひぃ……なるほどなぁ~。
国の未来を憂う枢機卿が若き英雄を求める理由が、俺にはよ~く分かったのであった。
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シャーロット「スロウ様が白マントを着る夢を見ました!」
豚「不吉だ...」
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