時止探偵
宜渡 知夏
プロローグ
ある日、初めて人を殺した。
三流小説でよくよく見掛ける文面を、鼻で笑いながら心に浮かべていたあの日のことをよく覚えている。
目の前にある先程まで動いていた彼等は髪一本すら動かすことはなかった。
指を折りながら数えれば、そこには16の有象無象。丁度己の年の数と同じだった。
まるで節分の豆のようだと、自分以外は存在しない空間の中で思考する。
己の身体から発せられる彼等の体液すらこの筆舌に尽くしがたい気持ちを助長する糧となる。
つい数分前まで蛇の様に動いていた右手は赤黒く染まっていた。汗で肌に引っ付く安物の白いシャツも同じだ。
改めてこの赤黒い液体のもといた身体たちを見ると、それらは様々な形をしていた。
腕が逆を向いたもの、胴体や手足が離れているもの、首だけがないもの。
三者三様、十六者十六様の形をしていた訳である。
果てさて、これからどうすべきか。
こんな状況でも酷く冷静な思考を巡らせていると、耳に入ってきた"音"。
己から発せられている訳でもないし、勿論眼前の彼等からでもない。
ならば、導き出される答えは1つ。
幾十年前のロボットよろしく首を鳴らして左を見れば、視界に入った。
顔を歪めている、人間。
数分後に、己はこの世から消えた。
誰に殺されたかなど、知る由もない。
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